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    okeano413

    @okeano413

    別カプは別時空

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    藍燐 あの空中庭園で

    #藍燐
    bluePhosphorus

    2024.04.06

    「やめやめ! 止まれ、止まれって」
     黙って眺めていた燐音先輩がするどい声を上げる。頭のなかの音楽に夢中になっていたおれは反応しきれず、二、三歩よけいに踏み出して、ようやく止まることができた。
     汗を手でぬぐおうとすると、ばさりとタオルをかぶせてくれる。さっぱりかわいて気持ちいいそれに顔を埋めると、重たくって脱いでいたジャージも着せてくれた。これは十分ぐらい休憩していいって合図。あと、指摘してくれたことを反芻するのと、自分で反省をしてみろって時間。
    「決めンとこグダるなってェ。藍ちゃんだけのんびり動いちゃ、おたくらの統率が台無しだろ」
    「う、わ、わかってる、よォ……」
    「頭もカラダも言うこと聞いてねえっしょ。覚えきってねえのに、そんなんでもわかってるなんて言えるか?」
    「……言え……ません」
    「だろ。もっと芯から気合い入れろって。せっかくあるやる気、から回らせてちゃ意味ないぜ」
     肩を大げさに動かして息を整えようとするおれにも容赦しない。そのくせ、差し出してくれる常温のミネラルウォーターはフタをゆるめられている。おれだけの優しさじゃないけど。でも、声がきびしいほどこのギャップは染みわたる。
     流れっぱなしの汗を拭き取りながらあちこち出来損ないを指摘されてるし、ずっと踊りっぱなしでものすごくしんどいのに、深呼吸をするのも大変なのに、うれしくて口元がゆるむ。おれの様子をみる視線は少しもそらされていないのに。あわててペットボトルをあおって、にやけるのをごまかそうとする。
    「へェ、笑う余裕あんだ。メニューもっと厳しくして〜って、マヨイちゃんに報告しねえとな?」
    「え!? だって、まだ目標おわってないよ!?」
    「ウ〜ソ。うまく行ったときだけ伝えてやっから」
     この、いたずらっ子の笑顔もギャップ萌え。真顔はすっごく怖いのに、笑顔はとんでもなく可愛い。言うと毎回、耳を赤くするところも。
     ……だめだめ、みとれるならレッスン以外で。理性のおれがそう言ってくるけど、本能はそんなのなんか聞かないものだ。じいっとみつめるおれを放置して、燐音先輩はマヨさんが送ってくれた振り付け動画を見返している。
    「しっかし、藍ちゃんも飽きないねェ。俺に頼まなくたって、そっちのメンバーは断らねえだろうに。事務所に言やぁ、トレーナーも宛てがってくれんだろ」
    「う、でも、あんたの視点も助けてくれるよ。タッツン先輩たちのフォローに頼りっぱなしじゃ、おれも変わんないままだし……」
    「つっても、俺だって同僚だぜ。プロの目にゃ敵わねえよ」
     嫌々です、という言い方をするけど、燐音先輩は毎回断らないで付き合ってくれる。あの夜に隣で踊ってから、個人レッスンをお願いするのは今日で何回目になるだろう。はじめのほうは明星先輩がつかまらないから、代わりにあんたが教えてなんて言ってたっけ。明星先輩、言い訳につかってごめんなさい。
     燐音先輩は共感できるファン目線を持っている。加えて努力のひとで、実力もある。そんなひとがグタグタなおれを無遠慮に叱って、やり方を丁寧に教えてくれるから、おれも甘えっぱなしだった。特に、おれのなかに引き出しのすくない、激しめの曲なんかは先輩を頼る回数が多かった。
     ここでたくさん教わって、最終的にALKALOIDのみんなと雰囲気を合わせられるよう、自分なりに考えて、軌道修正する。このやり方が習慣になっているんだから、今さら燐音先輩にみてもらう時間をなくすなんて、考えられない。
    「どこ締めりゃいいか迷ってんなら、燐音くんが隣で踊ってやろうかぁ?」
    「カメラ回してもいい? 見返せるようにしたら、やる気も上がるかも」
    「だめー。録画は俺っちのレッスンが終わったらのご褒美って、約束しただろ」
     あの、青い目がおれに向き直る。休憩は終わりってこと。もうひとくちだけ飲んで、ペットボトルのフタをちょっとかために締め直す。
     残りの水量がレッスン時間の目安。だけど、三本目まで用意してくれてるのを知っている。だから飲むのが惜しい気持ちもあるけど、燐音先輩の優しさはまるごと飲み干さなきゃ。そうしておれの武器を増やすんだ。
    「今回も観客を魅せてやれよ? 藍ちゃんのギャップ萌えってやつで♪」
    「ギャップが今回の課題なら、燐音先輩のまねすればいいんじゃない?」
    「俺っちのコピーじゃヤですゥ〜。ほらほら、サビ前から。カウント入れるぜ、ポーズとれよ」
     深めに呼吸をして、衣装をまとう自分をイメージする。ピンと背筋を伸ばして、つま先まで意識して。視線をとらえて、夢中にさせる。楽しんでもらいたいなら、おれがぐだついてちゃ意味がない。
    「おれのこと、見ててね。目を離しちゃやだからね」
    「おう。余所見なんか、させないでくれよ」
     手拍子を合図にステップを踏む。ここはステージ。手の届かない向こうまでおれの声を響かせる。そのための第一歩。
     最初に魅了するのは、いまだけの、たったひとりの観客。まずは特等席の恋人へ、とびきりのおれを見せるんだ。
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