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    okeano413

    @okeano413

    別カプは別時空

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    okeano413

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    甲洋と容子 デュランタの陽光
    ネタもらった

    2021.11.23

     羽佐間先生と、ショコラと、人の気配のない道を歩く。何度か通った坂道は、記憶にあるよりも崩れて危うい。それでも喜ばしい事に、数年沈んでいたわりに面影は残されている。
     きっと、コアの尽力によるものだ。姿を隠しながら進む海底で戻る人々を思い、なるべく思い出が壊されてしまわないよう守りながら過ごしていたんだろう。
     羽佐間先生も、しんがりを守るショコラも、安全なところを歩いて欲しくて先導したがる俺を察して、いつもよりもゆっくりと進んでくれている。
    「すっかり寂れちゃったわね。お掃除が大変そう」
    「ゆかりのある方も、いつ、こちらに手を回せるでしょうね」
    「まずはここを、という方もいるでしょう。真壁司令は断らないでしょうから、想像よりは早くに整えられるかもしれないわね」
     登る、坂から眺める景色は、ところどころ煤汚れているけれど穏やかだ。あの日よりも薄い青の下に人々が戻るまでは、俺も、ここを居場所に選んでいられる。
    「甲洋くんは、これからどうするの?」
     少し、後ろで声がする。空を眺めながら進む間に立ち止まっていたらしい。ショコラも足を止める羽佐間先生の隣で彼女を見上げていた。五歩離れた向こうで、声の主はさびしそうに目を細めている。来主も時折していた顔だ。繊細な表情のいくつかは、この人から受け継いでいたのだろう。
    「世界を、見に行くつもりです」
    「一人で、行くの?」
    「いいえ。一騎と二人で。俺たちは、役割を終えたばかりですから。ルヴィの言うように、新しい可能性に根付いたミールや、もしかするとそのままの存在を望んだかもしれないフェストゥムの跡を見に行きたいんです」
    「それじゃあ、しばらくは、帰らない?」
    「そのつもりです。平和でない頃を知りませんから、どこを見ても退屈はしなさそうなので」
     明るい調子で言って肩を上げてみても、先生の表情は晴れない。そばを許されるならば、あなたのもとにいたいと、言えたならば。
    「さびしく、なるわね」
     落ち込む心を読み取ったショコラが先生の脚になつく。指先で耳をくすぐって返す先生に、嬉しそうに喉を鳴らす。この光景も、しばらく見られなくなる。旅立つ間、また、預けさせてもらえるだろうか。そうしたら。……そうじゃなくても。
     来主が羽佐間先生の養子になった頃、共に暮らさないかと提案されたのを思い出す。家族になろうとしなくていい。帰る場所のひとつと思ってくれたら嬉しいとやさしく微笑んでくれる羽佐間先生に、考えさせてくださいと保留にしたまま答えそびれていた言葉への返答を、今、渡しても許されるだろうか。
    「俺にも、一緒に暮らそうと言ってくださったこと、覚えていますか」
    「ええ、もちろんよ」
     進んでいた道を、脚を乱暴に上げて戻る。一歩離れた前に立つ俺を見上げてくれる瞳はいつでもあたたかい。次の言葉を待ってくれている人にまっすぐに伝えようと、コートの前を少し下げて、薄く感じる空気を大きく吸う。
    「あの言葉を、今受け取っても、いいですか」
     驚いたように目を見開いて、唇を引き結ぶ。頷いてくれるだろうか。いまさらなにをと驚かれているのかも。ここで切り上げてしまったら、二度と言い出せない。途切れないよう、もう一度息を吸う。
     庇護を受けたいわけじゃない。一人で生きて構わない。ただ……ただ、帰っていい場所だと、確信を得たかった。
    「あなたを、母と呼んでいいのか、まだ自信はないんです。……でも、世界を巡った後で、あなたのいるところに帰りたい」
     ショコラがくるくると羽佐間先生のまわりを歩く。時折俺の方を見上げて不安そうな彼女に微笑みかけて、最後の言葉を言おうと、口元を覆ってしまった先生の目をじっと見る。
     ずっと、ショコラが俺を出迎えてくれていた。来主に巻き込まれるようにして、俺も、羽佐間先生の歓迎の言葉を与えられていた。優しく開いてくれた扉に踏み込めなかったのは、俺が臆病だったせいだ。断られたら、それでいい。そのせいで気まずく思う事もない。受け入れてもらえたなら、もっと、嬉しい。
    「また、ただいまを言ってもいいですか」
     ああ、泣かせてしまった。ほろほろと声も上げずに涙を流す先生と俺の間に冷たい風が吹く。風に消されかねないかすかな声で、ええ、ええと頷いてくれた先生が少しでも寒くないよう、風上で泣き止んでくれるのを待とう。まだ、羽佐間先生の大事な家族が眠る場所にたどり着いていない。ここから、荒れてしまったろう先生たちの家に帰るまでにどんな話をしようか。呼び方は、ずっと変えられないだろうけれど。
     彼に伝えたら、やっと決めたのかと笑うだろうか。「僕が先におかあさんのこどもになったんだから、僕がお兄さんだよ」と言われるかもしれない。冗談めかして呼んだら引くくせにさ。
    「……翔子たちに報告しなくちゃね。ただいまと、家族が増えること、それから、あなたたちの旅の無事を見守って欲しいって……」
    「たくさんですね。呆れられないといいけど」
    「明日もお掃除に来るから、もう一回お願いするつもりよ。私の決意表明でもあるから」
     涙を拭って歩き出す先生に倣って脚を揺らす。いくつかの手続きは、なぜだか隣で見せてもらえたおかげで少しだけ知識がある。面倒だろうけど、共にいる事を許される為の証明ならば、決心の鈍らないうちに済ませておかなくちゃ。
     明日が少しだけ、楽しみになった
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