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    なりひさ

    @Narihisa99

    二次創作の小説倉庫

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    なりひさ

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    色々。#字書きで性癖メーカーアタック で書いたもの

    #ガンマト
    cyprinid

    字書きで性癖メーカーアタック①第三者視点cp ガンマト
    ②恋人の鉄壁ガード ディーマト
    ③特別な呼び名 バルマト
    ④看病 ガンマト





    ① 第三者視点cp ガンマト
     兄者と感動の再会を果たして世界を救った。するとトロルがやってきた。
     一難去ってまた一難どころか何度目の災難だろうかとまぞっほは思う。こんな極寒の地で凍りついた爆弾と一緒に最後を迎えるなんてあんまりだ。
     青くて巨大なトロルがこちらを見下ろしてくる。今度こそ一巻の終わりだと思って念仏を唱え始めたが、兄者はそのトロルは敵ではないと言った。それどころか、そのトロルはみんなを極寒の地から救ってくれた。
    「温かい茶を飲むといい」
     トロルがみんなのぶんの茶を机に並べていく。ここはバルジ島近くの洞窟で、兄者の棲家だという。ガンガディアと名乗ったトロルはみんなをルーラでここへと連れてきてくれた。
     湯気を上げる茶を手に取ると、凍えた体がじんわりと温まっていく。
    「ゆっくり休んでくれ。何かあれば私は奥の部屋にいる」
     そう言ってガンガディアは奥の部屋へと行った。その慣れた様子に普段からこの棲家に出入りしているのだとわかる。
     兄者は昔から規格外ではあったが、トロルと仲良しとは度肝を抜かれた。師匠が知ったら何と言うだろう。
    「あのじいさん大丈夫なのか?」
     でろりんが奥の部屋を見ながら言った。兄者は敵を倒すために呪文を使って血を吐いていた。きっと体に負担がかかる呪文だったのだろう。兄者はこの洞窟に着いてすぐに奥の部屋へと運ばれていった。
    「ちょっと見てくる」
     いても立ってもいられず立ち上がる。兄者のことが心配だし、それにあのトロルもことも気にかかった。
    「骨は拾ってやるからな」
     がんばれー、と小声で無責任な応援をする仲間達に背を向けて奥の部屋へと向かう。自然と足は忍足になっていた。
     あのトロルがいると思うと身がすくむ。いくら敵ではないと思っても恐怖は消えない。だがそれよりも兄者のことが心配だ。再発見したばかりの勇気を振り絞る。
     奥の部屋のドアは少し開いていた。そのせいか部屋の中から声が聞こえてくる。
    「平気かね」
    「ん」
    「身体が冷えている。もっとこっちへ」
     その会話が気になって思わずドアの隙間から中を覗いた。ベッドのわきにトロルが屈んでいる。兄者はベッドに横になっていた。トロルの手が兄者へと伸びる。兄者危ない、と思わず叫びそうになった。
     だがトロルの手は驚くほど慎重に兄者に触れた。ベッドに横になっていた兄者を布団ごと抱き上げている。兄者も身を任せていた。
    「薬草は効いたかね」
    「ああ、楽になった」
    「よかった」
     トロルの手が兄者の髪に触れる。その手はそっと兄者の頭を撫でていた。まるで大事なものに触れるかのようにだ。
     待って。待って待って。兄者とこのトロルってどういう関係? 
     込み上げる疑問符が大量発生して生態系バランスが崩れそうだ。なにあのトロルの慈愛に満ちた表情。なんでそんな顔でうちの兄者のこと見てるの。
    「ガンガディア」
    「なにかね」
    「ん……なんでもねえ」
     ちょっと兄者。なにその甘えた声。あの鬼みたいな師匠の修行にも耐えてた格好良い兄者どこいった。どこまでそのトロルに心開いてるの。
    「あいつらは?」
    「お茶を出しておいたよ。私に怯えているようだから、あまり顔を合わせないほうがいいだろう」
    「はは、そういや忘れてたぜ。お前が怖い魔王軍の元幹部様だってな」
     魔王軍の元幹部!? 兄者どういうことなの。でも元なんだよな? それは今は仲間ってことでいいんだよな? 昨日の敵は今日の友っていう、熱い友情の展開だったんだよな?
    「……眠たくなってきた」
    「眠るといい。あなたが眠るまでここにいる」
     なに見つめ合ってるの。どういうことなの。友情って展開じゃないわこれ。兄者は巨乳が好き過ぎて発達した胸筋にまでストライクゾーンを広げたの!?
     は。少し落ち着こう。きっと世界を救ったことによる気分の高まりが、何かしらのフィルターとなって二人を特別な関係に見せているのかもしれない。
    「マトリフ」
    「ん?」
    「もう無茶はしないでくれ。あなたを失いたくない」
     いやこれ確実に付き合ってるやつじゃん。もう疑いようがないやつじゃん。恋の上昇気流が発生して積乱雲ができてるじゃん。この恋が世界に恵みの雨をもたらすやつじゃん。
    「ん……よせよ、あいつらに聞かれたらどうすんだ」
    「私は構わない」
     あ、おっと。おっとっと。わしは何も見てませんよ。ドアの隙間なんてありませんでした。
     そっとドアの前から離れる。そのまま音もなく匍匐後退した。
     兄者、わしは応援してるよ。兄者のことずっと憧れてたしちょっぴりショックだけど、兄者が幸せならオッケーだよ。
     




    ② 恋人の鉄壁ガード ディーマト
     魔王軍がサババを襲ってから数日後。ディードックは家の修理に追われていた。マトリフがルーラで開けた大穴をやっとのことで塞いだのだ。
    「なあ旦那、これ以上店を無茶苦茶にしないでくれよ」
     店の奥で何やら物色しているマトリフに向かって言う。マトリフの仲間達は傷を癒すために休んでいるが、マトリフは無傷だったからか、戦いが終わってからすぐに店の売り物を漁っていた。
     マトリフから返事がない。ディードックが見に行くと、先ほどまでいたマトリフがいなくなっていた。他を探してもいないから出かけたらしい。
    「しょうがねえ人だなまったく」
     ディードックは店を出てマトリフを探しにいった。サババの町は賑やかなぶん治安が良いとはいえない。しかも今回の騒ぎのせいで更に柄の悪い連中が集まっていた。火事場泥棒があったという話もある。
     ディードックがしばらく探していると、町のはずれでマトリフを見つけた。そこは廃船置き場あたりの路地で、まだ修繕が進んでいない。マトリフは一人ではなく、屈強な男数人に囲まれていた。
    「ほら言わんこちゃねえ」
     知らぬ人が見ればマトリフはただの小柄な老人だ。一人で行動すれば目をつけられやすい。しかもあの性格だから相手をすぐに焚きつける。そして今まさにマトリフを囲んでいる連中は激昂していた。声を荒げてマトリフをなじっている。
    「おい、お前ら!」
     大声で威嚇しながら近付けば、男たちがこちらを見た。ディードックはマトリフの肩を抱いて背へと庇う。
    「オレの連れに何してやがる」
    「そのクソジジイがよぉ!」
     喚き散らす男を睨みつける。すると一人の男が「こいつディードックじゃねえか」と仲間に耳打ちした。すると男達の顔色がさっと変わる。
    「クソッ!」
     男達は悪態を吐きながら逃げていった。ディードックはまだ己の武勇伝が健在であると知る。無駄な争いをせずに済んだ。
    「旦那、一人で歩いちゃ危ねえよ」
     ところがマトリフはまったく動じた様子もなく、つまらなさそうに肩をすくめた。
    「一人で平気だっての」
    「旦那が強いのは知ってるけどよ。この町は危ねえ連中もうろついてんだぜ。オレが来なきゃどうなってたか」
     ディードックから見ればマトリフは頭二つ分ほど小さい。昔から小柄だったが、歳を取って更に小さくなったように思える。腕なんて細くて折れやしなかとヒヤヒヤするくらいだった。
    「旦那のことはオレが守るから安心してくれよ」
     ディードックはギュータを出てからも鍛錬は怠らなかった。歳は取ったがそこらへんの連中に負ける気はしない。
     するとマトリフにギロリと睨まれた。
    「おい、オレの強さを忘れたのか」
    「確かに旦那は強いけど」
     ギュータでの修行の日々を忘れたわけではない。あの猛者たちの中でも、マトリフは群を抜いていた。
     だが、あの暗がりで組み敷いたマトリフの姿を思うと、つい守らなくてはとディードックは思うのだ。昨夜だってマトリフはディードックに抱かれて声を殺しながらよがっていた。腕にすっぽりと収まるマトリフに庇護欲が掻き立てられる。
    「とにかく、出かけるならオレに声をかけてくれよ」
    「面倒臭えな」
     マトリフは不遜な態度をとるが、それさえも夜とのギャップを感じてディードックはニヤけてしまう。あの姿を知っているのは自分だけなのだと思うと、喜びが込み上げてくるのだ。
     そのとき何かが崩れる音がした。咄嗟に音の方を見ると、すぐそばの壁がこちらに向かって崩れ落ちている。そのそばを逃げていく男達が見えた。さっきマトリフに絡んでいた連中だ。報復のために脆くなっていた壁を倒してきたのだろう。
     だがそんなことを考えている暇は無かった。咄嗟にディードックはマトリフを庇おうとその身体を抱きしめる。だが予想していた衝撃はやってこなかった。
     恐る恐る目を開ける。そっと見ると、こちらに向かって倒れてきていた壁が凍りついていた。それがマトリフの呪文によるものだとわかる。
    「おいおい、誰が誰を守るって?」
     意地悪そうに言うマトリフに、ディードックは何も言い返せない。マトリフの呪文がなければ今ごろどうなっていたか。
     マトリフの強さは肉体的な強さではない。その判断力や冷静さ、そして的確な呪文の操作だ。
    「旦那は格好良いなあ」
     ディードックは思わず呟く。大昔にギュータで出会って惚れ込んでから、この人はちっとも変わっていない。
    「あったりまえだろ」
     マトリフは自信たっぷりに笑う。そして手についた氷のかけらを払うと、ディードックの腕を抜け出してさっさと歩いて行ってしまう。
    「だ、旦那」
     ディードックは慌ててマトリフを追う。するとマトリフが振り返って凍りついた壁を指差した。
    「それ片付けておけよ。あとこいつらも懲らしめとけ」
     マトリフが指差したのは壁の向こう側で倒れている先ほどの男たちだった。男たちは兄元が凍りついて動けないらしい。
    「ちょ、旦那! これオレ一人でか!?」
    「おめえは昔から頼りになる男だよ」
    「こんな時だけそういうこと言って!」
     だがマトリフに頼られることが嬉しくて、ディードックはせっせと男たちを縄で縛り上げた。







    ③特別な呼び名 バルマト

    「師匠」
     マトリフは不満いっぱいにバルゴートを呼んだ。バルゴートは帽子を脱いで窓辺に置いている。窓からはパプニカ城下町の祭りの賑わいが見えた。
     マトリフはバルゴートの用事に付き合うように言われてパプニカまで来ていた。その用事も先ほど終わっている。バルゴートはパプニカ城に招かれ、大賢者の加護の儀式をした。マトリフはバルゴートの横に立っているだけでいいと言われ、実際にその通りだった。
    「なんで城に泊まるのを断ったんだよ。せっかく美味い飯が食えると思ったのに」
     儀式が終わって、大賢者様はどうぞごゆっくりお休みくださいと部屋を用意されたのに、何故かバルゴートはそれを断った。そのままギュータに帰るのかと思ったら、バルゴートは城下町の宿屋へと来たのだ。
     マトリフはせっかく城へ行ったのだから豪勢な食事がしてみたかった。宿屋の飯も美味しいが、やはり城とは比べられない。そもそも、ルーラを使えるのだから宿屋に泊まる必要などないはずだ。
    「なあ、師匠ってば!」
     マトリフはやけになってベッドに寝転がる。普段は辺鄙な場所で修行ばかりしているから、たまの外出くらい楽しみが欲しかった。
     そうだ、なにも宿屋で不貞腐れていないで町へ遊びに行けばいい。町は祭りの最中だ。まだ日も沈んでいないのだから、あちこちを見て回れる。
     だが、バルゴートがそれを許すだろうかとマトリフは危惧する。バルゴートは普段から遊びに夢中になって修行をサボると酷く怒るのだ。
    「なぁ、師匠」
     マトリフはできるだけ素直なフリをした。なんの邪心もありませんと偽りの笑みを浮かべる。
    「あのさあ、オレ実は……」
     遊びに行きたいんだよな、とマトリフが全部言う前に、バルゴートはマトリフの目の前に立った。そして高い位置から見下ろしてくる。マトリフはそのままバルゴートの言葉を待った。
     ベッドが揺れる。バルゴートがベッドに乗り、マトリフの首筋へと口付けていた。
    「し、師匠」
     これはあれだ、とマトリフは途端に顔が熱くなる。バルゴートは時々、このようにマトリフを誘ってくる。いつもはバルゴートの部屋に呼ばれることが多いから、まさか今誘われるとは思っていなかった。
    「嫌か」
    「っ……だから、聞くなって」
     マトリフは逃げるように顔をそらせた。マトリフとしては誘ってくる師匠が悪いんだというスタンスを崩したくない。しょうがなく抱かれているのだと思うことで、後ろめたさを感じなくしていた。
    「マトリフ」
     バルゴートの手が頬に触れる。賢者なのに剣を振るうバルゴートの手のひらは皮が厚くなっていた。その手の感触がマトリフは嫌いではない。それは幼い頃からずっとだ。
     だがバルゴートはただ触れるだけで、それ以上のことはしてこない。それがマトリフにはもどかしかった。
     マトリフはそろりと手を伸ばして、頬に触れているバルゴートの手を掴んだ。バルゴートは無表情だが、少しだけ困っているようにも見える。
    「嫌か?」
    「だから……やるならさっさとやれよ」
     マトリフは自分から行動を起こしたくない。だからバルゴートの行動を待つしかないのだが、バルゴートはいつも積極的に先に進めようとしなかった。
     マトリフは仕方なく身を乗り出す。自分より大きなバルゴートに口付けるために腰を浮かせた。唇を重ねようとしても髭が邪魔でしょうがない。なんだってこんなヘンテコな髭を生やすのかとマトリフは不思議の思う。
    「……ヤるんだろ」
     遠くから祭囃子が聞こえてくる。いつの間にか陽が沈んで薄暗くなってきていた。子どもたちののはしゃぐ声が通り過ぎていく。
    「私が欲しいか」
    「だから、聞くなって」
     せめて強引に奪われるならこの人を悪人にできた。だがバルゴートはきっかけだけ与えて、行為そのものはマトリフに選ばせる。マトリフはバルゴートの肩に手をかけたまま俯いた。
    「……抱いてくれよ師匠」
     マトリフは恥ずかしくて顔が上げられなかった。さっさと突っ込めと急かすように腰をバルゴートに擦り付ける。それでもバルゴートは勿体ぶったようにマトリフの衣服を丁寧に脱がしていった。まだ若いマトリフからすれば、焦らされていると感じるほどだ。
    「ちんたらすんなよ、勃たねえのか」
     羞恥心を誤魔化すための雑言も、バルゴートには見透かされているだろう。ことが始まれば快楽で羞恥心すらどうでもよくなってしまうのだ。早く何も考えなくて済むようにして欲しい。
     バルゴートがマトリフを抱き寄せた。そのまま耳元で囁かれる。それはバルゴートが二人きりの時にだけ使うマトリフの呼び名だった。
    「……ッ、ばっかじゃねえの」
     だがマトリフにはそんなふうに呼ばれることが小っ恥ずかしい。その呼び名は幼子を表すが、転じて恋人を呼ぶときにも使われる。我が師の口からそんな俗っぽい言葉が出ることは異常だった。
    「嫌か?」
    「くそっ……師匠のそういうとこずりぃよ」
     マトリフは顔を赤らめてバルゴートに抱きつく。マトリフは恥ずかしく思いながらも、このときだけは優しく響く呼び名をやめろとは言わなかった。心の底ではそう呼ばれることを喜んでいたからだ。
     バルゴートは大人しくなったマトリフを抱き寄せたまま、やれやれと音もなくため息をつく。いまだに手を焼く弟子は、なぜかこんな簡単な手で大人しくなる。その呆気なさを可愛いと思っていた。




    ④看病 ガンマト
     ガンガディアがマトリフと暮らし始めて暫くが経つ。ガンガディアは憧れのマトリフと一緒に暮らせて嬉しいが、マトリフのことがよくわからなくなることもあった。
    「どうしたのかね大魔道士」
     釣りから帰ってきたマトリフを見てガンガディアは驚く。マトリフの顔は赤く、表情も辛そうだった。
    「なんでもねえ」
     マトリフは釣り道具をぞんざいに置くと、寝室のほうへと歩いていく。その足取りもふらついていた。
     どうしたのかとガンガディアは不思議に思う。マトリフは釣りに行って帰ってきただけだ。それなのにまるで全力で戦った後のような疲れている。しかし魔力の痕跡もないから戦ったわけではないだろう。
     マトリフは億劫そうにマントを脱ぎ捨てている。その動作も緩慢で、マントを脱ぐだけで息を荒げていた。
     そこでふとガンガディアは思いつくことがあった。ヒュンケルが一度だけ風邪とやらにかかったことがある。人間はひ弱であるから度々病気にかかるらしい。その時は慌てるバルトスを宥めて、対処法を本で調べたのだ。
    「大魔道士、もしかして体調が優れないのかね」
     寝室まで追いかけてたずねると、マトリフはベッドに倒れ込んでいた。そして否定とも肯定とも取れる間延びした声を返してきた。
    「だったら身体を温めたほうがいい」
     調べた風邪の対処法は覚えている。身体を温め、水分と栄養を摂り、休養する。どれも難しいことではない。
     しかしマトリフはベッドに倒れ込んだまま動かない。布団の中へ入らなければ身体は暖まらないというのに。
    「大魔道士、布団の中へ」
     ガンガディアが言ってもマトリフは動かない。仕方なくガンガディアはマトリフの身体を抱き上げて、布団の中へと入れた。
    「何か持ってこようか?」
     ヒュンケルには柔らかく煮込んだスープを与えたが、本には病人が食べやすい物と書かれてあった。ここはマトリフの意見を取り入れる必要がある。
    「……いらねえ」
     マトリフがぼそりと言う。マトリフは手の甲で目元を覆い、ぼんやりと天井を見上げていた。
    「しかし、栄養を摂らないと。ではせめて水を持ってこよう」
     しかしマトリフはそれも拒否するようにガンガディアに背を向けるように寝返りをうった。そして身体を丸めて咳き込んでいる。
     ヒュンケルはこんなふうに拒絶はしなかった。スープもきちんと食べていたし、おとなしく布団に入っていた。まだ幼かったヒュンケルにできたことが、なぜこの人にはできないのか。
    「そんなことでは良くならない」
    「うるせぇ」
     マトリフの咳はひどくなるばかりだ。ガンガディアは部屋を出て水を持ってくるが、マトリフはそれを受け取ろうとしない。普段は理知的なのに、こんな時だけ頑固になるなんて。
    「だったらせめて眠らないと。睡眠が一番の休養なのだろう」
     ガンガディアは自分が得た知識が活かされないことにもどかしさを感じていた。だがここで苛立っても仕方がない。
     しかしマトリフは眠るどころか、枕元に起きっぱなしだった本を広げはじめた。
     ガンガディアは我慢の限界だった。マトリフが持つ本を取り上げて遠い場所へと置く。
    「……なにすんだよ」
     抗議の声が弱々しい。いつもの眼光の鋭さはどこへいったのか、眼がとろんとしていた。
     ガンガディアはマトリフの額に手を乗せる。その体温はいつもより随分と高いように思えた。
    「ちゃんと寝ないから熱が上がっているようだが」
    「おめえが煩く言うから寝れねえんだ」
     マトリフはガンガディアの手から逃れるように顔を逸らした。
     マトリフはガンガディアの看病を望んでいないのだろう。粗暴なトロルは看病に不向きだと思われても仕方ない。人間に関する知識が不足していることは事実だ。
     ガンガディアは立ち上がった。そのまま出ていこうとしたが、微かな抵抗がある。見れば布団から出た手がガンガディアの服を掴んでいた。
    「大魔道士?」
    「……行くな」
     ガンガディアは不思議に思いながらも腰を下ろす。看病を受けたくないのなら、なぜ引き止めるのだろうか。
    「大魔道士、私はここにいるから手を離してくれないか。手が冷えてしまう」
     マトリフの手はまだガンガディアの服を掴んで離そうとしない。
    「駄目だ。どっか行っちまうだろ」
     なぜか怒ったようにマトリフは言う。マトリフがどうして欲しいのかガンガディアにはわからなかった。
     ガンガディアはマトリフの手を服から外すと、その手を握りしめて布団へと戻した。そしてそのまま布団の中でマトリフの手を握り続ける。
    「……これで良いだろうか?」
     するとマトリフは満足したように目を閉じた。そういえばヒュンケルも眠るときにバルトスの手を握りたがっていた。病のときは気が弱くなると本にもあったから、きっとマトリフは心細いのだろう。
     ガンガディアはバルトスがヒュンケルにしていたことを思い出して、マトリフの頭をそっと撫でた。暫くするとマトリフの寝息が聞こえてくる。
     ガンガディアはマトリフを見つめて不思議な気分だった。さっきはなんて頑固な人だろうかと思っていたのに、今はマトリフを可愛く思う。
     ガンガディアは己の鼓動が速くなるのを不思議に思いながらマトリフの寝顔を見つめ続けた。



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    なりひさ

    DONEガンマト「時の砂」その後の蛇足。弟子に会いたくて未来へ来ちゃったバルゴート
    なにこれ修羅場じゃん ポップは焼きたてのパイを持ってルーラで降り立った。アバンの料理教室で作った自信作である。折角なのでマトリフと一緒に食べようと温かいうちに持ってきた。
    「師匠ぉ〜ガンガディアのおっさん〜お邪魔するぜ」
     呼びかけながら入り口をくぐる。しかしいつもなら返ってくる返事がなかった。人の気配はするのに返事が無いとは、来るタイミングが悪かったのだろうか。ポップはそろりと奥を覗く。
    「えっと、これどういう状況?」
     ポップは目の前の光景に頭にハテナをいくつも浮かべながら訊ねた。
     まずガンガディアがマトリフの肩を抱いている。優しく、というより、まるで取られまいとするようにきつく掴んでいた。ガンガディアは額に血管を浮かべてガチギレ五秒前といった雰囲気だ。そのガンガディアに肩を抱かれたマトリフは諦念の表情で遠くを見ている。そしてその二人と向かい合うように老人が座っていた。ポップが驚いたのはその姿だ。その老人はマトリフと同じ法衣を着ている。かなりやんちゃな髭を生やしており、片目は布で覆われていた。その老人がポップへと視線をやると立ち上がった。
    2209