据え膳 疲れ果てたガンガディアが辿り着いたのは、地底魔城深くの自室だった。この混乱の二週間は屈強なガンガディアの肉体と精神を極限まで追いつめていた。
この混乱の始まりは、勇者がバニーの姿をして現れたことだった。今思えばあれも罠だったとはっきりわかる。だがバニー姿の勇者が現れたとの報告を聞いたハドラーは、ガンガディアが止める間もなく城から飛び出していった。そして未だに帰らない。もしかすると不思議の国にでも迷い込んだのかもしれない。
そしてハドラーがいなくなったタイミングを狙ったように、各地で謎のメッセージが空に浮かび上がった。報告によればそれは魔法によって作られたもので、だとすれば首謀者はマトリフだろうとガンガディアは思った。
そこからガンガディアは各地を回ってメッセージを読んだ。メッセージは暗号で書かれてあり、それらは簡単ななぞなぞであったり、複雑な数式の解を求めるものであったりした。そしてガンガディアが必死でメッセージを解読していると、どこからともなくマトリフが現れて攻撃をしてくる。ガンガディアはマトリフの攻撃を交わしながら、なんとかメッセージを解読していった。
そんなことが約半月間、不眠不休で行われた。さすがのガンガディアも疲れ果てていた。ぼろぼろになって回らない頭でようやく全てのメッセージを解いて繋ぎ合わせると、「お前の部屋で待っている。マトリフ」という言葉に辿り着いた。
ガンガディアは地底魔城自室へと帰ってきた。そして見たのはベッドの上でシーツだけを身に巻きつけて寝転ぶマトリフの姿だった。
「お、ようやく来たか」
この時のガンガディアの気持ちがおわかりいただけるだろうか。ガンガディアは敵であるマトリフに心底惚れ込んでいた。しかもマトリフも満更でもなさそうである。マトリフは幾度もガンガディアを誘っていたが、ガンガディアはそれを拒んでいた。ガンガディアも本心ではマトリフを抱きたいと強く願っていたが、敵対関係では情を交わせないといつも拒んでいた。いつも必死に理性を働かせて我慢していたのである。
ガンガディアは今にも倒れそうなほどフラフラだったが、マトリフは元気そうだった。マトリフはガンガディアの疲れ果てた姿を見てつまらなそうに言う。
「なんだよもうへばってんのか?」
オレなら一月は寝ないで戦えるぜ、と得意げに笑う。マトリフは身体を起こして身に纏うシーツの端を持ち上げた。
「ほら、据え膳だぞ♡」
普段は衣服に包まれて見えない内腿がシーツからのぞく。それはガンガディアの摩耗した理性を簡単に焼き切った。
ガンガディアは一歩踏み出した。そして今まさに肉体と精神の限界を迎えて床へと倒れ伏した。
「え、おい、ガンガディア」
真っ裸のマトリフがいくら声をかけようとも、ガンガディアは三日三晩眠って起きなかった。