Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    なりひさ

    @Narihisa99

    二次創作の小説倉庫

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🌠 🐣 🍩 💕
    POIPOI 191

    なりひさ

    ☆quiet follow

    ノマ+ゴブ。蜘蛛冬のホラー祭り参加作

    夜の影 ゴブリンが立っていた。一瞬鏡に映った自分なのかと思ったが、そこには鏡は置いていなかった。
     夜の書斎はしんと静まり返っていた。ハリーはもう寝たのだろうか。カーテンを閉めていない窓の向こうは暗闇が広がっていた。
     ゴブリンは書斎の隅の更に薄暗いところに立っていた。私はなぜか恐ろしさよりも懐かしさを感じていた。
    「やあ」
     私は長年の友にかけるように言った。実際、私たちは友のような存在だった。或いは兄弟かもしれない。多くのものを共有しながら、多くの違いをもった存在。分かり合えるようで、絶対に理解し合えない。
     だがゴブリンはこちらを見たのに何も言わなかった。暗闇の中で眼だけが黄色く輝いているように見えた。
     私は元気かと訊きそうになって、それはおかしいと思い直した。私たちの肉体はひとつだ。その肉体は酷く疲れている。またゴブリンが手荒に扱ったのかもしれない。
     私はゴブリンに歩み寄るとその手を取った。ひんやりとしていたが、触れられたし体温もあった。ついに幻覚だけでなくなったのかもしれない。ゴブリンに触れられるなんておかしな話だ。
     ゴブリンは小さく首を振った。何を否定しているのか私にはわからない。私はゴブリンを安心させるように手を強く握った。
    「君を隠しておこう。オットーにもピーターにも……ハリーにも内緒にして」
     私はゴブリンに怯えていたが、同時に必要としていた。私は私の望みさえ、ゴブリンがいなければわからないのだ。
     だがゴブリンはまた首を振った。私を見るのを避けるように、足元に視線を落としている。まるで靴先の方が私より大事だとでも言われているようで、心許無くなった。
    「私には君が必要なんだ。そんなこと、君が一番わかっているだろう」
    「違う」
     ゴブリンはようやく私を見た。その目の色が緑色を帯びたと思ったら、青色へと変わっていった。まるで時間によって空の色が移り変わるように、美しい変化だった。
    「私がノーマンだ」
     ゴブリンが言った。私は意味がわからずにゴブリンを見つめ返す。ゴブリンは人差し指を私に向けた。
    「そしてお前がゴブリンだ」
     ゴブリンの指が私の胸を突く。そこからぞわりと寒気が広がった。私はその指先を見つめる。
    「何を言っているんだ?」
     私はそれがゴブリンの戯言だと思った。私を揶揄っているのだと。きっとすぐにあの耳障りな笑い声をあげるだろう。
     だがゴブリンは───いや、誰なんだ。目の前の私は、私に向かって言った。
    「思い出せ。薬を打たれたんだ」
     そこで私は別の世界へとやって来たことを思い出していた。そっくりだが違う世界。違うピーター・パーカー。グライダーの刃。私を庇う背中。首に刺さった痛み。私は片割れを失う薬を打たれた。
    「お前はもうすぐ消える」
    「私が消える? 消えるのはゴブリンだ」
    「つまりお前だ」
    「違う! 私はノーマンだ。私がノーマン・オズボーンだ!」
     何かが崩れる感覚がした。それが実際に自分の足が折れたのか、それともここは無意識の領域で、既に薬の作用で何かが失われたのか、それすらもわからなかった。
    「いいや」
     冷たい声が響く。青く澄んだ眼が私を見ていた。鏡を見ている気になる。その眼は私の眼だ。だが本当にそうだったか。鏡の中にいたのは私の方だったのか。
    「私は……」
     鼓動が速くなるのを感じた。窓を見れば室内の光が映り込んでいる。窓硝子に映った自分の姿を見れば、その眼が黄色く光っていた。


    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works