幸せに名前なんてなかったから7 瘴奸の体調は時間をかけて快方へ向かった。その長い時間を、死蝋は瘴奸と共に過ごした。良い日ばかりではなかったものの、瘴奸の気持ちはすでに未来へと向いていた。
やがて日常生活が戻ってくる。朝がくれば瘴奸は部屋の窓を開けた。劇的な変化があるわけではない、連続した瞬間が過ぎていく日常の空気を吸い込んだ。初夏の空気は湿度を含んで生暖かく、それでいてどこか優しい。時間通りにラジオをつけると、天気予報が午後からは快晴だと告げた。
スマートフォンが震え、死蝋からメッセージが届いた。朝の挨拶と、今日の食事会が楽しみだと書かれてある。人気キャラクターのスタンプが、コミカルに動いていた。
食事会を企画したのは貞宗だった。瘴奸の体調が回復してきたため、久しぶりに家でご馳走を振る舞いたいという。貞宗や常興は各人の誕生日や、何かのイベントごとのときに、盛大に手料理を振る舞うのが楽しいのだという。
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