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    watersky_q

    スライム。

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    watersky_q

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    クラステ。引退後のお熱スティーブン。性癖。
    再録短編集「Stand by Me!」収録。

    #クラステ
    clusteredStaircase

    Good night, honeyクラウス・V・ラインヘルツは愛妻家である。
    これはもう、街中における共通認識であり、確定事項だ。



    「旦那、嫁さんはどうした?」

    市場に店を構える馴染みの八百屋の主人は、珍しくひとりのクラウスに目を丸くした。
    仲睦まじいにもほどがあるこの夫婦は、いつもふたりでぴったりと寄り添って買い物に来る。お互いの買い物の為にちょっと離れる事はあっても、たいてい目の届くところにいる。
    というのも、クラウスの愛する妻は足が悪いからだ。何かあってはいけないと、過保護に過保護を塗り重ねたような夫は必ず買い物に付き添い、荷物を持ち、よろけようものなら担いで帰る勢いだ。
    ところが、この日は八百屋の主人がきょろきょろと辺りを見渡してもその姿はなかった。
    嫁だの妻だの言っても、当人は男性だ。それも、一般的に見ればかなり背が高く、女性の視線を引き付けてやまない色男で、頬に走る大きな傷はちょっと堅気には見えない。それでもクラウスと並べば、嫁としか言いようがない。

    「その、少し体調を崩してしまって」
    「風邪かい?」
    「恐らく」
    「近頃寒いからなぁ」

    クラウスは額に汗を浮かべながら言った。めちゃくちゃに怖い顔だ。その手に持ってるニンジン、握りつぶしたら買えよ、と思いながら店主はそうか、と頷いた。
    本当はずっと付き添っていたいのだろう。そのぐらいの愛妻家だ。だが、病人にはまず食わせなければならない。それで仕方なく買い物に来た、というところか。
    嫁が寝込んで俺の飯がない、なんて漏らしていたどこぞのオヤジとは比べ物にならないぐらい、出来た旦那だ。
    何にせよ、杖を突きながら、偉丈夫の隣に寄り添う姿がないのは、何となく物足りない。
    クラウスが買い込んだ野菜とトマトの缶詰を見れば、病人色の定番のミネストローネを作るつもりだというのが窺い知れる。店主はリンゴとオレンジをおまけにつけてやって、早く帰れよ、とクラウスを促した。



    スティーブンは玄関を開ける音と買い物袋が立てるがさがさという音で目を覚ました。
    まだ意識は夢と現実を曖昧に漂っているようで、身体は重く動かないし、声も出ない。頭の中でクラウス、おかえり、と言った気にだけなった。
    耳だけはやたらと敏感になっているようで、スティーブンはクラウスの動きがよくわかった。キッチンで片づけをして、冷蔵庫をあけて、何か取り出して、ややあって階段を上ってくる音。
    すぐ傍までやってきた大きな気配に、スティーブンは今度こそ目を開けようとした。しかし、やはりうまくいかない。まるで金縛りにあったかのように、意識はあるのに目蓋ひとつ動かない。
    クラウスはそっと、壊れ物に触れるようにスティーブンの額に手を当てた。ひんやりとして気持ちがいい。いつも熱いぐらいのクラウスの手を冷たいと感じるという事は、まだかなり熱が高いのだろう。

    「く、ら・・・」

    絞りだした声は掠れて、ほとんど音にならなかった。

    「眠っていたまえ」

    クラウスはそう言ったが、スティーブンはまだ眠ってしまいたくなかった。目蓋は重くて今にも落ちそうだが、クラウスが傍にいるとまだ実感していたい。

    「はたけ、は?」
    「君が案ずることはない」

    それはわかっている。わかってるけど、きっと眠ったら用事をしに行ってしまうであろう君を引き留める言葉が思いつかないんだ。
    畑とは、昨年からクラウスが始めた葡萄畑だ。小高い丘の上の土地を買って、葡萄の木を植えてある。まだそう大きくはないが、ゆくゆくはワインにするのが夢だとクラウスは語っていた。
    クラウスは毎日畑に通い、スティーブンは昼時になると、ランチを持って運動がてら丘を登っていく。それが晴れた日の日課だ。

    「スティーブン」

    クラウスは困ったように笑った。スティーブンがほとんど無意識に、クラウスの袖口を掴んだからだ。

    「眠たいのでは?」
    「・・・うん」

    体力が落ちているから、身体は自然と睡眠を欲している。

    「何も心配する事はない。ゆっくり眠りたまえ」
    「ここに、」
    「うん?」
    「ここに、いてくれる?」
    「・・・承った」
    「ほんと?」
    「私は君に嘘などつかないとも」

    クラウスは、そっとスティーブンの額に唇を寄せた。熱を持ち、汗が浮いて前髪が張り付いている。
    普段なら、スティーブンはこんな幼稚な我儘など決して言わない。自分が寝込んでしまえば、クラウスにはやるべきこと、やって貰わなければならない事がたくさんあるはずだ。
    少なくとも、昔は言わなかった。熱を出しても、入院しても、寂しいなんてひと言も言わなかった。今は、この幸福そのものの具現化のような家の中でだけは、幼稚な振る舞いも許して欲しい。



    ふたりがHLを離れて何年になるだろう?
    足を悪くしたスティーブンの為にクラウスが選んだのは、愛しい人の故郷だった。風と人はあたたかく、海が美しい街だ。街を望む高地の土地を丸ごと買い、一軒家を立て、丘の上には葡萄畑を作った。
    いつだったか、HLの喧騒に押し流されるような日々の中で、戯れの冗談のように口にした夢を実現する為だ。
    ふたりで引退したら、青い空の見える景色のいい場所で、ゆっくり暮らそう。きっとスティーブンは、その夢が叶うとは思っていなかったのだろう。だが、クラウスは何としてでも叶えようと思っていたのだ。
    そしてクラウスは髭を蓄えた。これもいつぞやの戯れの言葉を実行したのだ。気のせいか、髭を生やしてからスティーブンがよく甘えてくれるようになった気がする。



    クラウスは背後に感じる気配にそっと振り向いた。包帯姿の、いつまでも老人のまま変わらない執事が音もなく立っている。

    「遅くなりました」

    潜めた声で、ギルベルトは詫びた。クラウスは静かに首を振る。
    未だにクラウスに仕え続けてくれているこの執事は、普段はドイツの本邸にいて、月に一度は必ず顔を出しに来てくれる。特に何かしらイベントごとがある時には必ず手伝いに来てくれる。
    今日はクラウスが呼んだのだ。スティーブンとの約束を違えず、傍にいる為に。その為だけに、わざわざ呼びつけてしまった。

    「呼びつけてすまない」
    「何を仰いますやら」

    ギルベルトはにこりと笑った。

    「坊ちゃまがお加減の悪い奥様を放っておかれるようなことがあれば、それこそ私がお叱り致します」

    手厳しい執事だ。クラウスに完璧な夫であれと言う。

    「坊ちゃまはスターフェイズ氏のお傍に。お食事の支度をしてまいります」
    「うむ。頼む」
    「畏まりました」

    上がってきた時と同じく、ギルベルトは一切の足音を立てず階段を下りていく。眠っている人にとって、誰かが動く振動というのは案外うるさいものだ。それをよく心得ていて、努めて静かにしているのだ。
    クラウスが買ってきた材料で、彼は絶品の料理を作ってくれるだろう。どんなにクラウスが精進してもギルベルトには敵わないので、スティーブンの為には却って良かったかもしれない。
    スティーブンはいつも、クラウスが作った料理はとても美味しいと褒めてくれるが、味覚に関してクラウスはとても鋭敏で、自己評価も正確だ。ギルベルトやスティーブンに、料理の腕では決して敵わない。恐らく一生。
    クラウスは、スティーブンの額を流れ落ちた汗をタオルで拭った。熱が出て、汗をかく。それだけの事が死にたくなるほどつらいのだと、いつだったかスティーブンは言っていた。氷の血を持つ彼らにとって風邪は重病だ。



    夢を見た。
    夢だとわかっているのに、現実のような恐怖に支配される夢だった。
    僕はダークグレーのスーツを着て、真っ暗闇を歩いている。スーツなんて着るのは久しぶりだ。隠居してからというもの、楽でだらけた格好ばかりしている。
    ぴちゃ、と何か濡れたものを踏んだような音で足元を見た。暗闇の中に、その色は光るように鮮烈に見えた。赤だ。真っ赤な、血の色。
    僕は立ち止まった。靴が血で汚れてしまった。だが、前を見ると血はずっと続いている。負傷した、あるいは返り血を浴びた誰かが先を歩いて行ったように。
    追いかけなくては。早く追いつかなくては。後ろを振り返る暇なんかない。ずっとずっと先に、きっと、あいつがいるんだ。
    走り始めると、蹴り上げた血が飛沫のように飛び散った。スーツが汚れる事も気にせず、見えない先を追いかけた。
    どれだけ走っただろう。延々と走り続けたのに、一向に疲れや息切れはない。やはり、夢だからだろうか?
    ひたすら走って、走って、ようやくその背中が見えてきた。ベストを着た、大きな背中。赤い髪。見間違うはずもない彼は、スティーブンのずっと先を歩いていたのだ。暗闇の中を、血の足跡をつけながら。
    クラウス!呼んだつもりだが、声は暗闇に埋もれるように消えた。もう少しで手が届く。その背中に指先が触れようとしたその時、スティーブンは後ろからぐっと反対側の腕を引っ張られた。
    誰だ。ばっと振り返ったそこには、誰もいなかった。だが、腕は引っ張られている。暗闇から延びる、誰かの手に掴まれている。
    ぞっとしたものが足元から頭の先まで駆け上った。振り払おうとしても、その手はがっちりと掴んできていて解けなかった。
    よくよく見れば、それは女の手だった。綺麗にネイルを施した、若い女の手。誰だかは、思い出せない。あぁ、そうだ。知っている気は、する。
    スティーブンは、がくんと膝を折った。突然、足に衝撃を感じたからだ。見れば、足にも手が纏わりついている。今度は無骨な男の手だった。
    誰だ。呆然としているうちに、どんどん手は増えた。振り返ると、クラウスの背中は遠ざかっている。クラウスが歩いていく先には、いつの間にか眩しい光が現れていた。
    置いて行かないでくれ。声は、出なかった。無数の手に絡みつかれ、闇に引きずり込まれる。お前はクラウスの隣に立つ資格など、光に至る権利などないのだと言うかのように。
    誰だ!スティーブンは闇に向かって叫んだ。放してくれ!!答えがあるとは思っておらず、我武者羅にもがいた。クラウスのところへ行かなければ、置いて行かれる。
    アンタが殺したのよ。
    スティーブンの考えに反して、闇は答えを返した。その声は確かに聞き覚えのある声で、そして確かに覚えのある内容で、スティーブンは再びぞっとなった。
    お前が奪った。お前が潰した。お前のせいで失った。お前のせいで死んだ。お前さえいなければ。お前が死ねばよかったのに。
    次々と流れ込んでくる怨嗟の声は尽きることなく、全身に絡みつく手の力も強くなっているように感じた。腕、足、喉、腹、顔、髪、あらゆる場所を掴み、引きずり込もうとしてくる。
    やめろ!!
    スティーブンに出来る事と言えば、もがいてもがいて、光に向かって進むクラウスの背中に手を伸ばす事だけだった。届くはずなどないのに。気付いてくれるはずなどないのに。
    僕にはクラウスより、この闇の中のほうがお似合いなのに。
    とうとう、クラウスの背中も、彼が目指す光も見えなくなった。誰かの手がスティーブンの目を覆い隠したからだ。
    恨みの言葉を聞きながら、闇に沈んでいく。もう、君の背中も見えない。それは、確かな絶望に思えた。
    諦めよう。そうすれば、きっと楽に・・・。



    「スティーブン!!」

    はっきりとした声と強い力で、スティーブンは引き戻された。闇から引きずり出されたのだと思った。
    目の前にはエメラルドの瞳と燃えるような赤毛。見間違いようもない。振り返りもせず、光に向かって歩き続けていた彼が、スティーブンの手を取り、掬いあげてくれたのだ。

    「あ・・・ぁ、」

    喉はカラカラに乾いていて、声らしい声は全く出なかった。クラウスが必死の形相でスティーブンを覗き込んでいる。頭が真っ白で、何と言って彼を安心させてやればいいのかもわからない。

    「スティーブン、とても魘されていた」
    「あぁ・・・、たすけにきて、くれたんだ・・・」

    クラウスはスティーブンの言葉に首を傾げた。助けに来た、という言葉は少し奇妙に思えた。きっと熱と夢で混乱しているのだろうと、安心させるように汗で重くなった黒髪を撫でてやった。

    「ずっとここにいる。君の傍に」

    スティーブンは、ふぅ、と深い息を吐いた。
    どんな夢だったのかね?とは、聞かなかった。約束したからだ。スティーブンがクラウスの妻となり、ふたりが夫婦となると決めた時、スティーブンはひとつだけ条件を出した。
    僕が、ある秘密を墓まで持っていく事を許して欲しい。
    クラウスは、その秘密がどういう内容であるか知らない。正確には、知ってはいけない事であり、考えるべきですらない事だ。ただ、スティーブンが魘され、苦しむ秘密である事だけは理解している。
    だから、悪夢からは必ず救い上げてやりたいのだ。秘密からは救わないと約束してしまった、その代わりに。
    サイドボードに用意してあった水を飲ませ、背中をさすって落ち着かせた。魘された後のスティーブンはいつも無口だ。悪夢の恐怖は人に話してしまいたくなる。彼は、秘密を守るためにその衝動に耐えているのだろう。
    それほどまでに守りたい秘密であるなら、クラウスも問わないと決めたのだ。彼が苦しみぬいてでも、秘密にすべきだと判断したのなら、それに従おうと。

    「ごめん、クラウス・・・」

    落ち着いたスティーブンは、蚊の鳴くような声で謝る。謝る必要など、どこにもないのに。

    「食事にするかね?」
    「あまり・・・、」

    食欲はないのだろう。食べなければならないとはわかっているのだろうが、スティーブンの表情は重たい。
    その時、階下でカタンと音がした。続いて、階段を上る足音。

    「誰かいるのか?」

    スティーブンが目を丸くしてクラウスを見上げる。熱で頬が上気して、少し幼く見える表情だった。

    「ギルベルトが来てくれた」
    「え、いつの間に・・・」
    「君が熱を出したと伝えると、すぐに駆け付けてくれた」
    「申し訳ないな。ギルベルトさんにまで迷惑かけて」
    「ならば食事を摂りたまえ。ギルベルトが用意してくれたものだ」
    「うぅ、君もずるい言い方を覚えたよな」
    「君のお陰だ」

    クラウスは悪戯っ子のように笑った。尤も、この顔を悪戯と表現できるのはスティーブンかギルベルトぐらいのものだろう。他の人間が見れば、悪鬼羅刹とでも言うに違いない。
    コンコン、とドアをノックする礼儀正しい音が響く。ノックひとつとっても訓練されている人間のそれは違うものだ。

    「お加減は如何ですかな?」

    ギルベルトが、柔和に笑いながら入室してくる。手に持ったトレイからは、いい香りが漂っている。
    新しい冷たい水と、小さく切った野菜をたっぷり入れたトマト味のスープ。スティーブンが熱を出すと、決まってこのスープだ。喉を通りやすいように、水分を多めにしてくれている。

    「本当はニンニク入りのほうが良いのですが」

    ギルベルトはそう言いながら、トレイをサイドボードに置いた。
    食欲がない時に、ニンニクやオリーブオイルは重い。本来なら精がつくそれらの食材は摂るべきだが、スティーブンはどうも体調不良の時には嫌厭してしまうのだ。

    「すみません・・・」
    「いいえ」

    発熱に弱く、食欲が落ち、しかもエスメラルダ式血凍道の術式が影響して解熱剤が飲めない。そんなスティーブンの風邪は長引きやすい。
    今もトレーニングを重ねて見事な肉体を維持しているクラウスと違い、足を痛めてランニングも出来なくなったスティーブンは、年齢と共に体力も落ちてきていた。

    「坊ちゃま、フルーツはゼリーにしておりますので、よろしければ食後に」
    「うむ。ありがとう」
    「では」

    ギルベルトは綺麗に一礼して、また階下に降りて行った。ラインヘルツ邸とは全く違う、こんな普通の家にあっても、彼はやはりクラウスの執事だ。

    「食べてくれるね?」
    「・・・食べさせてくれたら、食べる」

    頬を染めたスティーブンがあまりにかわいすぎて、クラウスは思わずスプーンを取り落としてしまった。



    日が沈み、スティーブンは再びうとうととし始めた。だが、完全に眠ってしまわないように、時々クラウスに呼び掛けたりしながら懸命に目を開けようとしている。

    「スティーブン、眠ってしまって構わない」

    眠るべきだ。身体が睡眠を欲しているのだから、従うべきだ。

    「クラウス・・・」
    「傍にいる」
    「嫌だ。眠ったら、また・・・」

    悪夢を恐れているのだろう。
    スティーブンが魘されるのは、珍しいことではない。特に、こうして体調を崩した時には必ずと言っていいほどだ。彼は体調不良によるつらさよりも、悪夢のほうを恐れているようだった。

    「クラウス」

    スティーブンは、ちょんとクラウスの袖を引いた。子供がおねだりをする仕草と同じだ。
    こういうかわいらしさが、近頃増えた。具体的には、クラウスが髭を伸ばしてからだ。以前、スティーブンはクラウスが髭を伸ばしていると年上に見える、と言っていた。それが原因だろうか。
    何にせよ、愛妻家のクラウスとしては妻が甘えてくれるのはこの上ない喜びだ。

    「うつっちゃうかな」

    スティーブンは決まり悪そうに目をそらした。クラウスに甘えたいが、風邪をうつしてはいけない、と葛藤しているのだ。何と愛おしいことか。

    「私は鍛えている」

    決まり文句のようにそう言って、クラウスはベッドに潜り込んだ。普段よりも熱い身体を抱き込んで、背中を撫でる。
    シャワーを浴びていないスティーブンの匂いには少し興奮したが、今日ばかりは手を出すわけにはいかない。抱き込んだ頭の白髪の数を数えて、ふたりで過ごした日々の長さを思いながら欲を沈めた。

    「これで少しは落ち着くだろうか?」
    「ん、暖かい」
    「さ、安心して眠りたまえ」
    「うつらないでね、クラウス」
    「勿論だ」

    スティーブンはクラウスの腕の中で居心地のいい位置を探し、ようやく目を閉じた。
    本当は、君を守ると宣言したい。悪夢だろうがゴーストだろうが、どんなものからも彼を守りたい。だが、それはかつて戦士であった彼のプライドを傷つけるのではないかという危惧もある。
    熱が下がって元気になったら、彼はまたランチを作って葡萄畑に登ってきてくれるだろう。杖を突きながらクラウスと一緒に市場に買い物に行くだろう。
    クラウスの平穏を守ってくれる愛しい人を、クラウスもまた守りたいのだ。

    「おやすみ、スティーブン。良い夢を」
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