その日の仕事を終え、夜道を二人並んで歩きながらふと上を見上げると空に細い月が浮かんでいた。光が強くない分、星がよく見える。マヨイたちが出会ったあの日に見た空よりも星は少なく感じられたが、美しい星空だった。最近はゆっくりと空を見る時間も減ってしまっていた。
「……宇宙の果てには何があるのでしょう」
紫紺の空に散る星々。深く考えないまま浮かんだ疑問をそのまま口にすると、巽はさて、と同じように上を向いた。
「現在の技術では観測そのものに限界があるようですから、そもそも『宇宙の果て』があるかどうかが議論されているようですが」
「宇宙は膨張し続けているとか、いろんな説がありますよねぇ」
「はい。俺はそういった方面には詳しくないですが、マヨイさんは何があると思いますか?」
「えっ」
正解を求めていたわけではない、ただ沈黙を埋めるための雑談のつもりだったので思いがけない返しにまごつく。宇宙の果て。改めて考えたことはないが、この空がどこかで終わるとしたらそこには何があるだろうか。
星は好きだ。見上げているとまるで世界がなくなって自分だけになって、孤独そのものも消えてしまうような気がする。今地球に届いてる光は何億年前のもので、今発せられた光が届くのは何億年あとのことで、そんなことを考えていると矮小な自分がさらに小さくなってそのまま消えてしまえる気がする。宇宙の果てはその光も届かないほど遠くなのかもしれない。
「……何も、ないのかもしれないですね」
光すら届かない、存在することすら知られない場所。たとえそこに何かがあるとしても、それを知る術がないのなはそれは『ある』と言えるのだろうか。ひどくさみしい場所のように思えるし、とてもやさしい場所のようにも思える。何もないということは自分も存在しないということだ。そして自分が存在しなければかなしいとかくるしいとか、様々な感情に悩まされることもないだろう。
「行ってみたいですか?」
「……そうですね」
そこに行けば薄汚い欲を抱いて罪悪感との狭間で揺れることも、見知らぬ誰かに手を差し伸べて薄暗い自己満足で満たされることもなくなる。似合いの場所だと思った。
「少し、怖いですけれど、優しい場所のようにも思えます」