文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day25 夜の滑走路は誘導灯が灯され、そこを目指してスペースプレーンが優雅に降り立っていく。全ての光が消えれば闇の中に沈むその場所は、煌々としたライトによって幻想的な光景が作り出されていた。
太陽の熱が落ち着いて、少し冷たい風が肌を撫でるような時刻。それでも昼間の暑さに辟易としていた汐見にとっては心地よい時間で。彼の隣に立つ空閑は薄手の長袖シャツを羽織っていたが、汐見は半袖のティーシャツのままだった。
「寒くないの?」
「これで丁度いいくらいだぞ。お前が寒がりなんだろ」
この場所で迎える夏も三回目になると言うのに、空閑は相変わらずだと汐見は笑う。よく冬を越せてたな、という感想と共に。
「アマネは暑がりだよね、昼間部屋にいる時パンイチなのはやめてほしい」
「暑くて服着たくねぇんだ」
「誘ってんのかって思うよね」
「思うだけじゃなくて行動に移してるだろお前」
軽快な言葉の応酬を交わしながら、汐見はぐいと背筋を伸ばす。草臥れたシャツの襟口から、昼間に空閑によって付けられた情事の痕が覗いた。
――あぁもう、たまらないなぁ。
口に出せば叩かれるのは目に見えているから、心の中でだけ空閑は小さくぼやく。普段はセックスなんて知りませんと言うような淡白な顔をしておきながら、ベッドの上では空閑の手によってひどく乱れてくれる――それを赦してくれる男。
他の誰もが知らない顔を、空閑にだけは晒してくれるのだ。その事実だけで空閑の胸は熱くなる。
「そういえば」
ふと、何かを思い出したかのように汐見は口を開く。彼の言葉を待つように首を傾げた空閑に、汐見は言葉を繋いでいった。
「星とか、電気とか、キラキラしているもののひかり方ってさ、見ている人間の虹彩によって変わるらしいんだ」
汐見の言いたいことを図りかねた空閑は、彼の言葉の続きを待つ。
「だから、ヒロミが見ている光と、俺が見ている光は――同じ物でも輝き方が違うんだよな」
「ちょっと寂しいね」
重ねられた汐見の言葉に、素直な感想を口にすれば「だよな」と滑走路へと視線を向けて汐見も頷いて。
「でもさ、見えている像が違っても――お前と同じものを見て、同じ事を感じていられたら良いなと思うんだよな」
ポツリと溢された汐見の言葉に、空閑は滑走路へと視線を向ける。彼はこの景色を見て、何を思っているんだろう。
「俺は、綺麗だと思うよ。ここにある機体も、誘導灯も、ここで働く人たちも皆。綺麗だ」
はっきりと言葉にした空閑の思いを静かに聞いていた汐見は口元でだけ小さく笑みを浮かべながらはっきりと頷いた。
「俺も、この景色は綺麗だと思う。同じだな」