文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day27 赤い色水が真っ白なシャツを染める。赤色の飛沫模様を付けられた男が眉を寄せ銃口を相手へと向け――飛び出した青色の色水は飛び退いた男にかかる事なく、コンクリートを染めていった。
「くっそ!」
悔しげに声を漏らした篠原に、狙われた汐見はカラカラと楽しそうに笑う。互いの手に握られていたのは色水を入れた水鉄砲で、高校時代に使っていたジャージと体操着に身を包んだ五人の男たちは寮の中庭で水遊びを繰り広げていた。
審判は高師、空閑と篠原のペアと汐見とフェルマーのペアに別れたチーム戦。この組み分けはひとえに空閑と汐見が組めば篠原達が瞬殺されるだけ、といった予感によって決められた。
「アマネ最高!」
チームメイトとなったフェルマーの賞賛に得意げな笑みを浮かべて再び敵側へと水鉄砲の銃口を向けた汐見は、二発目の色水を篠原へと放つ。それにたたらを踏みながらもやっとの事で避けた篠原は、フェルマーへと青色のペイントを施した。
「まだ一発目だもんね!」
負けじとフェルマーが放った色水は空閑の袖を掠め、袖口を赤く染めた様子を確認した高師が「空閑、一発目」と剣道場から拝借してきた紅白旗の赤をパッと上げる。
運動神経の権化のようなパイロットコースに所属していた空閑と汐見は二発受けた所で退場、エンジニアリングコースの篠原とフェルマーはハンデとして五発受けたら退場だ。
最後まで一人でも残ったチームが勝利という分かりやすいルールの下繰り広げられる水鉄砲の撃ち合いは、男達のシャツをまだらに色づかせていった。
「っしゃ! 浩介はこれで退場だな!」
「ごめんボクも五発目受けちゃった!」
エンジニアリングコースの二人組が同じタイミングで五発目の色水を被った所で、袖だけを赤く染めた空閑と白いシャツを一度たりとも汚していない汐見が対峙する。
その刹那、鋭く放たれた青色の水が汐見の脇腹を青く染め上げた。
「汐見、一発目」
白の旗を上げながら淡々と判定を下す高師の言葉に、空閑はもう一度その引き金を引く。勢いのある放物線を描く青色の水を苦もなく避けた汐見は地面から飛び退いているままに空閑へと向けて引き金を引いて。
「っわ! 飛び退きながら撃つとか反則じゃない!?」
地面を蹴り上げながら放たれた赤い色水は、空閑のシャツを赤々と染め上げていた。
「撃ち方の反則規定は作ってなかったぞ空閑。勝者は汐見とフェルマーのペアだな」
赤い旗を上げながら汐見の放った色水の有効判定を下す高師の声と共に、フェルマーが汐見の元へと駆け寄り飛びつく。
「やった! 勝ったよ!!」
「当たり前だろ。ヴィンの仇はちゃんと取ったからな!」
飛びついたフェルマーを難なく抱き上げてぐるりと回る汐見に、空閑は羨望の眼差しを向けると共に悔しげな声を上げる。
「俺もアマネに抱きつかれてグルって回りたいのに!」
「汐見が空閑に駆け寄って飛びつく光景自体が想像できねぇぞ」
「空閑が汐見に駆け寄って抱きつくならまだ想像できるかもしれないな……」
地団駄でも踏みそうな空閑の言葉に篠原は呆れたような声を溢し、高師もそれに追従するかのようにため息混じりで頷いた。そんな三人の男に気付いた汐見は、ヴィンを地面に下ろして空閑へと視線を向ける。
「何だ、いつもくっ付いてるのにまだ足りないのか?」
ホラ、と両腕を広げて空閑を呼ぶ汐見へと駆け抱きつきながらも、空閑は思わず叫ぶのだ。
「俺が求めてるのは逆なんだけど!!」
「それでも駆け寄って抱きつきはするのな」
「あ、アマネの事持ち上げて回ってる」
「欲望に忠実な奴だな……」
呆れきった三人の男の声をバックに太陽が燦燦と輝く中庭で、空閑は汐見を抱き上げて気がすむまでぐるぐると回るのだ。