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    #チェズルク版ワンドロワンライ
    お題「星」お借りしました +15min

    ED後の設定です。

    #チェズルク
    chesluk

     少し静養を取った方が良い、と。
     突然あらわれたチェズレイに、ほとんど着の身着のまま攫われたのは、職場から休暇を取るように言われた翌日のことだ。
     たまりにたまった代休を消化するといっても、特にすることもなくてどうしようかなと考えていたところへ、不意を突くようにチェズレイが突然現れた。
     当たり前のように帰宅したら家にいたのは、正直なところどうかと思う。アーロンといい、チェズレイといい、せめて玄関から入ってきてほしい。言ってくれれば鍵を渡すのに、と溜息を吐くのはいつものことだ。
     連れてこられた先は、ログハウスのような場所だった。チェズレイのチョイスにしてはなんだか不思議なくらい素朴な場所だ。それが顔に出ていたのか、このこじんまりした木目調の空間を選んだのはモクマさんだと種明かしを受ける。けれど、当の本人は邪魔をしたくないからね、と来ないらしい。
     いや、邪魔をしたくないって、モクマさんが邪魔になることはないとおもうんだけど……。
     ふと、柔らかな赭色のカーテンを引いて空を見上げると、雲間に星が瞬いている。
     さっきまでは分厚いカーテンを通してなお雷の光が届いていたし、光が届いてすぐゴロゴロと稲光の走る音が聞こえた。バケツをひっくり返したような雨は硝子を叩き、このまま破られるんじゃないかと思うほど激しく窓を軋ませていた。
     それが急に途切れて、今は先ほどの豪雨を思わせるものは、雨どいを伝う水の音と窓に残る水滴くらいだ。
    「君の言ったとおりだ、すごい!」
    「お褒めに預かり光栄です、ボス」
     柔らかな声に、気負いは全くない。光栄、と口にはするものの、本当にそう感じているかは怪しいものだ。
    「こんなにすぐやむなら、出かけても良かったかな……あ、でも、」
    「フフ、お気付きのようですねェ。足元が悪くなっていますから、あまりオススメはしませんよ」
    「……だよなあ。じゃあ、今日は家の中で過ごそう」
    「そうですね」
     よくできました、とでも言いたげにふわりと微笑むチェズレイが、さりげなく手を伸ばす。頬を包み込むように触れられて、思わずくすぐったさに肩を竦めると、くすくすさざめくような笑みが耳に届いた。
     うう、からかわれてる気がする……。
     手袋越しの温もりはすぐに離れていったけれど、掌の温度をそのまま置いて自分の体温に足されたみたいに頬が熱い。なんなら耳まで熱かった。
     視線が合った時のチェズレイの表情があまりに柔らかくて、見てはいけないものを見てしまった気分になる。思わず目をそらしたことには、きっと気付かれたと思うけれど、誤魔化しようもなくそのまま窓の外を眺めていた。
     深く重苦しさを感じさせる濃い灰色の雲が風にまかれて薄くけぶる。透き通るような闇の色を取り戻しはじめた空に、隣にいる人物の瞳によく似た色を見つけた。
     美しい紫が明滅を不定期に繰り返している。そこはかとない不安定さも、彼を思わせた。
     其処に確かにあるのに、触れられない。
    「チェズレイはさっき、雨がすぐに止むって言っていたよな。どうしてわかったんだ?」
    「大したことではありませんよ」
    「天気予報をみてた……とか?」
    「いえ」
     一拍の間を置いて、静かな声が重なる。
    「雲の流れを見ていました」
    「……君、そんなこともできるのか」
    「真似事程度には」
    「すごいな」
     心からの賛辞なのに、どこか空虚に響いた。
     チェズレイだったら苦も無くそれくらいできそうだ、という気持ちのほうが先に立っていたのかもしれない。
    「このあたりは道も悪いし、あなたは地理に疎い。ここに至るまでも少し細工をしましたから、ご自身の置かれた場所を推理することも難しいかと。通信状況も悪く、ハッカー殿の端末くらいしか繋がりませんよ。まさか外部に筒抜けの状態で、仕事はできませんよね。あなたは休むしかない」
     ご安心ください。怪盗殿も了承済みです。
     そこまで言われてしまえば、僕には抗う術がなさそうだ。
     痛む頭を抑えながら、彼に向き直る。
    「僕を甘やかせすぎじゃないかな、君たちは」
    「あなたが自分を甘やかせることを覚えてくれないので」
     責任転嫁も甚だしい嘯きを口にする、その美しい紫がきらきらときらめいている。その光は窓の外にみた闇の中の星にやっぱりよく似ていた。僕からは不用意に触れられない、ただひとり彼の持つ光だ。
     なのに、その手はあっさり僕に触れる。
     それがどうしても悔しくて、星に焦がれる目を閉じた。
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