無自覚の自覚。「大丈夫だって、そうそう壊れるもんじゃねーから」
「でも…」
二人で適当にバイクを流して、行き着いた小さな公園。
時間帯のせいか誰も居なくて、二人きり。
渋る三ツ谷にカメラを手渡した。
中古で買った小さなフィルムカメラだ。
「大丈夫、大丈夫。後少し残ってるから、三ツ谷がなんか撮ってよ」
「マジか」
「マジ、マジ」
まだモゴモゴする三ツ谷の手を握って、シャッターの場所と、ファインダーの覗き方を教えてやる。
重ねた手から伝わる体温が心地いい。
真剣に聞き入る姿が愛おしくて、笑みが溢れた。
カシャ
「!」
「あ、ごめん」
手を離した瞬間に聞こえたシャッター音。
思わず力が入ったのだろう、咄嗟に謝られた。
「大丈夫大丈夫」
「すげーブレたかも」
「楽しみじゃん」
「うっせーよ。ちゃんと撮るから、そっち立って!」
カメラを落とさないようにぎゅっと握る三ツ谷に、バイクの横に立つよう促された。
光栄な事にどうやら俺が被写体のようだ。
大袈裟にピースをしながら写ってやる。
一枚撮ってフィルムを巻いて、一枚撮ってフィルムを巻いて、三枚撮ったところでフィルムが切れた。
「な、簡単だったろ?」
「…まあ。でも綺麗に撮れたかは自信ねーわ」
「出来たら持ってく」
「ウス」
現像に出した写真が仕上がったと連絡を貰って取りに行った。
確認にと見せられた一枚は三ツ谷が撮った俺。
なんとか会計をして店を出たものの、顔から火が出そうで、勢いよくバイクを走らせた。
「ヤバいだろこれは」
三ツ谷が撮った、三ツ谷に撮られた、俺の写真。
あまりに甘ったるくて、自分で思っていた以上に三ツ谷に対する気持ちが溢れすぎてて、これを見せたら多分全部バレるのが分かるくらいの表情。
「どーすっかなぁ」
約束した手前見せないわけにはいかない。
せめて一枚だけなら誤魔化せたかも知れないけれど、これは無理だ。
「いい加減、腹括れって事かもな」
三ツ谷が好きだ。
こうして見せつけられて、改めて思った。
当たって砕けるだろうけど、一発殴ってもらえればスッキリするかもしれない。
あいつの重いパンチに沈まないよう、今日は筋トレを増やして寝ようと決めた。
『明日の集会前に写真みせるわ』
『わかった』
短いメッセージに短い返信。
明日が楽しみだ。