何れ菖蒲か杜若「失礼します」
「……」
「えっと……あ、いたいた。小平太、この前借りた本を返却しに来たんだ。検本してくれないかな」
「長次か。……承知した」
ある日の夕暮れ。すす、と開いた障子から姿を現したのは、体育委員会委員長の中在家長次。両手いっぱいの山積みにした本を、図書委員会委員長の七松小平太が座る文机にどっさりと置いた。委員会の花形を自称する体育委員会を率いる長次は、同時にかなりの読書家でもある。
「……、……」
「これ? 委員会の後輩たちにと思ってまたたくさん借りたんだ。いけどんマラソンした後の休憩に読ませたんだよ」
「……?」
「風呂敷に包んだ本を背負えば持ち帰りのときにちょうどいい重石代わりになるし、休憩と一緒に知識も吸収できて一石三鳥! それに裏裏裏山で本を読むなんて中々ないから、新鮮だったよ」
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