潮風の星 ────波間を思わせるハーモニカに誘われて、優しいピアノの音に出会った。
『光る海に かすむ船は』
『さよならの汽笛 残します』
太陽眩い夏の夕暮れの海辺に佇むピアノを見ている。ピアノを弾く、誰かを見ている。
『緩い坂を 降りてゆけば』
『夏色の風に 会えるかしら』
柔らかに耳を撫でて渚のように切ない音を奏でるそれは、忙しく行き交う往来の隙間を潮風と共に通り抜けて、私たちの心に沁み渡る。
『私の愛 それはメロディー 高く低く歌うの』
『私の愛 それはカモメ 高く低く飛ぶの』
足を止め、立ち止まり、耳を傾けるたくさんの人。雑踏林の向こうに見えたその姿から、目を離せないでいる。
『夕陽の中 呼んでみたら』
────黄昏色に輝く海を背に、祈るように音を紡ぐ彼に、出会った。
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