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    はるち

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    はるち

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    若いオペを侍らせるリー先生(語弊)とドクターのお話。

    #鯉博
    leiBo

    Young ,younger ,youngest  若さとは資源だ。いずれ失うことを宿命付けられている、有限の。

     あんな配置を許したのは誰だ、眼の前の光景にドクターは歯噛みした。手にしているカップの中に入っていたアイスコーヒーはとっくに底が尽きており、苛立ちをぶつけられているストローは噛み跡でべこべこに歪んでいる。勿論その許可を出したのが自分であるということをドクター自身も理解しており、だからこそ行き場のない苛立ちばかりが募る。
     今日はロドス・アイランドの企業説明会だった。 
     ロドスは未だに知名度の低さに喘ぐ人材不足の企業だ。どういう企業で、どんな活動をしているかを知ってもらうというのが、本会の目的である。そしてその一環として、ロドスで働いているオペレーターと直接話せるブースを設けた、というところまではドクターも把握していた。連日広報部から滝のように送られてくる書類に対して右から左にサインをしつづけ、内容には簡単にしか目を通していなかった。それは彼らなら上手くやってくれるだろうという信頼でもあり、現に彼らはその信頼に応えているのだが。
     ――だからってあの配置は何だ!
     ドクターの眼前には自身の恋人であるリーがいる。その周りにいるのはワイフー、ア、クリフハート、そしてオーロラだった。ワイフーとアはわかる。探偵事務所の所員でもあり、彼の子どもでもあるのだから。保護者である彼が傍らにいた方が、彼らも安心できるだろう。しかしクリフハートとオーロラは何故だ?先日のハロウィンに合わせた劇の配役を思い出し、ドクターは自身の頭がきりきりと痛むのを感じた。あの時は確か、そう。アイリスとカゼマルを、彼に傍らに侍らせて――この表現が正しいのかはともかくとして――、広報部は撮影を行っていたはずだ。広報部には、彼の隣には愛くるしい少女を配置しなければならないと思っている人間でもいるのか?そう思っているドクターは、クリフハートの保護者役として控えているマッターホルンのことが完全に目に入っていなかった。恋は人間の視野を極端に狭くする。ほとんど盲目と言っていいくらいに。
     そこでようやくコーヒーを飲み干していることに気づいたドクターは、新しい飲み物を探してそのブースを離れた。叶うのであれば酒が飲みたいところだったが、それはこの会の目的を考えると望み薄だろう。少なくとも空になったコップと噛み跡だらけのストローは捨てなくては。ごみ箱を探して会場を彷徨くドクターの背に、誰かの声がかかる。
    「ドクター、ちょっと、聞こえているでしょう」
    「……ああ、リーか。いいのかい?あの場から離れて」
    「休憩時間なんですよ。あんなとこにいつまでもいたら肩が凝るでしょう」
     ドクターは歩く速度を緩めようとはしなかったが、しかし人の流れに遮られて、リーがその背に追いつくことはそれほど難しいことではなかった。
    「学校の遠足みたいですからねぇ」
    「そう?随分と楽しそうに見えたけれど」
     ささくれだった言葉に、ドクター自身が辟易しているようだった。これはその、と泳ぐ瞳に、手にしているカップに刺さったストローの無惨な様子を見て、リーは相貌を細めた。ドクターの空いている手を掴みたかったけれど、如何せんここは人が多すぎる。どうしたんです、何か食べますかとリーが声をかけても、私は甘い菓子に釣られるような年齢ではないというにべもない言葉が返ってくるだけだった。
    「……一般的には、若い人間の方が好まれるだろう」
     数瞬の沈黙の後。ドクターは、やっとのことでそう答える。その反例が自分自身であることに、果たして当の本人は気づいているのだろうか。
    「私は、まあまだ若いと言っても差し支えのない年齢だろうけれど、それが失われる日は近いし、フォリニックにも散々言われているけれど身体はぼろぼろで同年齢の人間と比較しても老化が進んでいるだろうし――」
     ドクターの口からそれ以上の言葉を奪ったのは、足首に巻き付いた尾鰭の感覚だった。するりと服の上から肌を撫でられ、足を止める。
    「おれがあなたを好きなのは、別にあなたが若いからじゃありませんよ」
     十年経っても、百年経っても、おれにはあなただけです、と。
     ともすれば雑踏と喧騒に紛れそうなその声は、けれども真っ直ぐにドクターの耳へと届いたらしい。 
     ふ、と息を吐いたドクターが、リーを見上げる。
     もう自分は、甘い菓子に釣られるような年齢ではないけれど。
    「甘い言葉には騙されてあげるよ」
     人を詐欺師みたいに言わないでくださいよ、というリーの口調こそ冗談めいて戯けているけれど。
     ぞくり、とドクターの背に震えが走る。その鬱金色の瞳だけが、千年を経ても褪せぬ輝きを宿している。
    「勿論、一生をかけてでも証明してみせますよ」
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    はるち

    DOODLEロドスでダンスパーティーが開かれるのは公式というのが良いですね
    shall we dance「あなたには、ダンスはどのような行為に見えるかしら?手を相手の首元に添えて、視線を交わせば、無意識下の反応で、人の本心が現れるわ」

    踊ろうか、と差し出された手と、差し出した当人の顔を、リーは交互に見た。
    「ダンスパーティーの練習ですか?」
    「そんなところだよ」
    ロドスでは時折ダンスパーティーが開催されている。リーも参加したことがあり、あのアビサルハンター達も参加していることに少なからず驚かされた。聞けば彼女たちの隊長、グレイディーアは必ずあの催しに参加するのだという。ダンスが好きなんだよ、と耳打ちしてくれたのは通りがかりのオペレーターだ。ダンスパーティーでなくとも、例えばバーで独り、グラスを傾けているときであっても、彼女はダンスの誘いであれば断らずに受けるのだという。あれだけの高嶺の花、孤高の人を誘うのは、さぞかし勇気のいることだろう――と思っていたリーは、けれどもホールの中央で、緊張した様子のオペレーターの手を取ってリードするグレイディーアを見て考えを改めた。もし落花の情を解する流水があるのならば、奔流と潮汐に漂う花弁はあのように舞い踊るのだろう。グレイディーアからすれば、大抵の人間のダンスは彼女に及ばないはずだ。しかしそれを全く感じさせることのない、正しく完璧なエスコートだった。成程、そうであれば、高嶺の花を掴もうと断崖に身を乗り出す人間がいてもおかしくない。
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