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    はるち

    好きなものを好きなように

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    はるち

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    若鯉とその家庭教師をするドクターというif設定です。なんでも許せる人向け。
    BGM:遭難/東京事変

    #鯉博
    leiBo

    待宵草心中 たとえ羽がなくとも、無限に落下し続けるなら飛んでいるのと変わらない。永遠に遅延された着地の瞬間、私は世界と心中する。――引用:ザムザの羽/大滝瓶太

    「今日から君の家庭教師を務めることになった。私のことは――、そうだね。先生ドクターとでも」
     父が連れてきた新しい家庭教師は、今までに出会ったどの種族とも違っていた。サンクタのような光輪はない、リーベリのような羽根はない、ヴァルポやフェリーンのような耳と尻尾もなく、フォルテやヴィーヴルのような角もなく、ましてや龍のような鱗もない。頭からつま先まで視線が降りたところで、自分をひたと見据える両の眼に気がついた。月光を凍てつかせたような眼差しは、親しみこそあれど触れた肌が痛む。
    「私の値踏みは終わったかな」
     日光に炙られでもしたかのように頬が熱くなった。初対面の人間に対してあまりにも不躾だった。けれどもその家庭教師は何事もなかったかのように、文机の方へと足を向けた。よく見れば、片手には書物を抱えている。緩慢にその人は振り返り、足を止めたままのおれをみてことりと首を傾げる。
    「早速始めよう」
    「あなたは、おれに何を教えてくれるんですか」
     可笑しなことでも聞かれたように、どこから間違いを訂正したものか、と考える素振りを見せる。こちらへおいで、とその人はおれを手招いた。
    「君が家を継ぐために必要な全てを。リー家の長子」

     ***
     
     死にに行くつもりですか、と彼は尋ねた。
     死にに行くつもりはないがその公算が高い、と私は答えた。
     あなたは馬鹿ですかと正面切って詰られた。
     私は今更ドクターという役職から、責務から降りることは出来ない。ロドスのドクターとして殉じることは、あの石棺で目覚める前から決まっていたことだ。戦場で摘み取ったいくつもの命と同じように、今度は私が戦場で果てる番が来た。そういうことだ。平穏な生活はおろか、大往生など望むべくもない。
     それは彼だって知っていたはずだ。お互いに気付かないふりをしていただけで。私達は目を閉じたまま、手を取り合って笑っていた。
     けれどそれも終わりだ。どんなに美しい夢も、いつかは醒める。
    「イベリアに行く。あの狂った潮汐を鎮めるためにはそうするしかない」
    「本当に、あなたが行く必要があるんですか」
    「向こうで何が起こるかわからないからね。安楽椅子探偵に甘んじているわけにもいかないんだよ」
     恐魚が環境に適応して進化するスピードは、我々の予測を遥かに超えていた。海を出たあれらは、いつか空さえも支配するだろう。そうなる前に、止めなければ。
    「リー。何度も言うように、君がこの作戦に参加する必要はない」
    「なんだって今更そんなこと言うんですが。サルヴィエントの洞窟じゃ、あの恐魚どもの相手を散々おれにさせたでしょう」
    「あの時とは状況が違うんだよ……。状況も危険度も、まるで違う」
     死にに行くつもりはない。死にに行くつもりはないが――、今回の作戦に参加するオペレーター、全員に伝えていることだ。
     死ぬことになるかもしれないと。
     彼は戦場で果てることを誉れとする人間ではない。布団の上で安らかに、家族に見守られながら店の扉を叩くことが似合う人間だ。
     だから。
    「どうしてあなたじゃなきゃいけないんですか」
     それだけが理解できない、と。彼は首を振る。
     愛した人に生きていて欲しい。それは極めて人間的な感情だ。私には勿体ないほどに。そんなものを放り出して一緒に逃げましょう、と彼は言うだろうか。自分と一緒に生きてください、と。そんなことが許される立場ではないし、きっと不可能だ。そんなことは互いに理解している。嫌になるくらいに。
     リー、と彼を呼ぶ。こちらを射抜く鬱金の瞳はいっそ暴力的なまでで、敵でも見るようだった。
    「私は君と、一緒に生きることはできないよ」

     ***
     
     娯楽の少ない街だ。うだるように暑い夏の日ともなれば、近くで水浴びをするくらいしかすることがない。
     中庭で木陰を選んで歩いていると、土蔵の中から声がした。見れば薄闇の中に、幽霊のような白い人影があった。脅かさないでくださいよ、と声をかければ、先生は本を閉じて視線をこちらへと滑らせる。
    「どこへ行くんだ」
    「近所の川に」
     先生もどうですか、という言葉は、単なる揶揄のつもりだった。
     初めて会った日の言葉通り、先生ドクターは自分にあらゆることを教えた。算術、経営術、炎国の伝統、教養、歴史、のみならず各国の政治状況及び文化、テーブルマナーに茶の淹れ方、その他諸々。あなたに知らないことはないんですか、とからかい混じりに尋ねたが、そんなものは無限にある、と至って真面目な表情で返されただけだった。
     ドクターという名乗りの通りに学者然としたこの人は、自分への講義がないときは屋敷の隅でいつも本を読んでいた。今日のように。聞けばこの屋敷を訪れたのも、蔵書が目当てのことであったらしい。そのまま父に気に入られて、自分専属の家庭教師として滞在することになった、とも。
     全てを、と言ったその人は、けれども運動はからきし駄目のようだった。
     だから、水浴びになど誘ってもこの人は着いてこないだろうと。そう踏んでいたのだが。
    「――水」
     すう、と先生の目が細くなる。
    「水辺に行くのか」
     それはもう、夏ですからねえというおれの言葉に相槌を打つように、蝉の合唱が飽和する。
    「私も行く」
     は、と気の抜けた声が出た。先生はもうすっかりその気になっているようで、本を棚へとしまいこちらへと向かってくる。薄暗い土蔵の中から日の下へ出たせいだろう。一瞬眩暈でも覚えたように強く目をつぶったその人は、けれども迷いのない足取りだった。夏らしい、淡い色の着物は、陽の光で身体の輪郭が透けるようだった。なぜだか目を背けたくて、でもそんなことをすれば陽炎のようにこの人は夏の中に消えてしまいそうで、おろおろしている内に先生がおれの前に立つ。細い首を、汗が一筋伝っていた。
    「おれは監督が必要な歳じゃありませんよ」
    「それはわからないだろう。私からすれば、君はまだまだ子どもだ」
     先生がやってきてから一年が立っていた。まだまだ子ども、と言われても仕方のない年齢であることも、それを面と向かって主張することが、自身がまだ子どもであることの証明に他ならないことも知っている。しかし反論がないわけではない。
     日光を浴びるだけで溶けてしまいそうだったその人は、それでも自分に付き添って川へ向かうことを頑として譲らなかった。目的地に近づくに連れ、さらさらとした清流の音が耳に心地良い。しかし傍らを歩くその人は今にも倒れそうだった。肌の下が青く透けるような肌は、陽の光とはすこぶる相性が悪いらしい。家に戻っていたらどうですかと言っても、その人は首を横に振るばかりだ。
    「君が溺れるかもしれない」
     これでも泳ぎは得意なんですよ、と冗談めかす。先生の横顔を影が過るのは、降り注ぐ日光に目が焼けてしまったからだろうか。あの影は、そう、寂寞と呼ばれるものに、なぜだかとても良く似ていた。
    「知っているよ」

     ***
     
     海の底にも都はあろう。
     黒い潮に呑まれるがまま、身体は奈落の底へと落ちていく。狂った潮の流れを鎮めることはできた。私は陸へと戻れないが、後のことは、きっとアーミヤとケルシーがどうにかしてくれるだろう。二人は余計な仕事ばかり残してと怒るだろうか、泣くだろうか。よくやったと喜んでくれるだろうか。それとも、私の死を、悲しんでくれるだろうか。――彼は。
     私が陸においてきた、彼は。
     ごぽりと口から銀の泡が溢れる。砂時計から落ちる砂と同じ、私の命の残り時間を示すものは、私を置いて水面へと昇っていく。羨ましい、と。追った視線の先に、私は、有り得ざる人影を見た。
     暗く、黒い、海の中でも鮮やかな、黒と金の鱗。見間違えることはない。私が彼を、未間違うはずはない。
     それが、私を目指して降りてくる。
     人の身にはあまりに重く、纏わりつく潮は、けれども彼にとっては空気と大差ないらしい。滑るように、あるいは龍が空を舞うように。彼は、真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに――私の元へと。
     思い出すのは、最後に彼と交わした言葉。
     戯言だった。彼に諦めさせるための言葉。そう言えばきっと、彼は私を諦めると、そう思っていたのに。
    「でも、君と一緒に死ぬことはできる」
     嗚呼。
     ――莫迦は、君の方だ。
     
     ***
     
     誕生日の祝は年々騒がしく、仰々しいものとなり、息をつくのも一苦労だった。
     どこまで血の繋がりがあるかも疑わしい親戚への挨拶回りで一日が終わった気分だった。宴席を抜けてようやく、まともに呼吸ができる。庭から聞こえるのは、鈴虫の鳴き声だろうか。秋の風が、宴の喧騒と身に纏わりつくような酒と食べ物の匂いを追い払う。双月に誘われるまま、中庭に向かって歩き出す。と、虫に混じって人の声が聞こえた。開け放たれた窓から聞こえてくるのは、使用人のものだった。
    「先生が坊っちゃんの面倒を見るようになって、もう随分と経ちますなあ」
    「……早いものだ。まだ、ほんの子どもだと思っていたのに」
     今日の主役は曲がりなりにも自分なのだから、自分の話題が出てきても不思議ではない。けれど、自分のいない場所で、あの人が自分の話をしているのかと思うと。心臓がどくり、と。ようやく目を覚ましたような音を立てる。
    「どうですか、先生。これからも、ずっとここにいちゃくれませんか」
     ――先生は、元々は別の場所からきた人間だ。
     炎国に由縁を持つ人間でさえないのかもしれない。そういえばおれは、この人について何も知らない。だから、ずっと恐れていた。大人になることを望みながら、子どもをやめてこの人の庇護から外れることを恐れていた。
     この屋敷にも、あるいは街にも。先生を気に入っている人間は多い。ゆくゆくは所帯を持って、ここにいてくれないか、と。
     その未来を、おれだって考えなかったわけではない。口にはしないだけで、父も似たようなことを思っているだろう。この使用人がそれを口にしているのは、酔った勢いなのだろうか。
     使用人の言葉を、けれども先生は否定した。
    「――それは、約束できない」
     古い価値観だとか、そういう理由ではなく。
    「忘れられない人がいるから」
     他の誰かと人生を送ることは考えられない、と。
     そこからどうやって自分の部屋に戻ったのか、記憶が定かではない。控えめに扉を叩く音が、夜の静寂にひびを入れる。誰であろうと無視をしようと決めていたのに。
    「もう眠ったのかい?」
     聞こえてくるのが、あなたの声だから。
     扉を開ける。月の光しか照らすもののなかった室内に、廊下の明かりが差し込む。それを背負って立っている人は、おれを見て眉をひそめた。
    「ああ、ずいぶんとひどい顔をしているね。やっぱり疲れたかな。出直そうか」
    「……先生ドクター
     どうぞ、と扉を開けて中にその人を招く。お茶でも淹れようか、と先生は言った。この人が屋敷に来てからというもの、おれはこの人が淹れてくれたもの以上に美味い茶を飲んだことはない。
    「どうしたんです、こんな時間に」
    「君の誕生日祝をまだ渡していなかったからね。朝からばたばたしていて――」
     持っていた包を、その人がおれに差し出す。おれが掴んだのは、贈り物ではなくその人の腕で。引けばあっけなく体勢は崩れ、だから床に引き倒して組み敷くことも容易かった。受け身を取る暇もなく――そもそもこの人にそんな技術があればの話だが――、衝撃に先生ドクターは息を詰まらせた。
    「誰なんですか」
     瞳に浮かぶのは混乱だった。嗚呼、この人でもわからないことがあるのか。そしてそれを与えているのは確かに自分なのだ、と。暗い歓びが胸に湧き上がる。
    「おれじゃあだめですか」
    「……何の、話を」
    「おれが忘れさせますから」
     だから、と続くはずだった言葉の先を、唇に触れる人差し指が封じる。その人はかなしげに微笑んだ。美しいものとは悲しいのだと、いつかに先生が言っていたことを思い出す。背負う悲しみが、痛みが、傷が、人を美しく見せるのだと。そう、そのことを教えてくれたのも、確かにこの人だった。
    「……錯覚だよ。一番近くにいるのが私だから、勘違いしているだけだ」
     君は聡明だからわかるだろうとその人は言い、ならばそんな賢さなど必要なかった。
     噛み付くような口づけは、この人の肌を傷つけたのだろう。鉄錆の味がした。着物の合間から触れる肌は微かに汗ばみ、吸い付くようだった。乾いたところも濡れたところも全てに触れて、その場所から自分のものになったようだと、その錯覚が理性を蝕む。
     おれはこの人の悲しみを知りたかった。
     それが出来ないのなら。
     この人を傷つけてしまいたかった。
     誰よりも、何よりも。
     
     ***
     
     古い御伽噺だ。
     来世を誓った龍のつがいは、また巡り合うのだと言う。
     産まれたときに、私は鱗を一枚握りしめていたのだという。確信が持てないのは私は自分が生まれたときのことを覚えていないからで、けれども今もこの手にそれはある。夜を溶かした黒と、その上を流れる月光めいた鬱金色。これはサヴラのものかアダリスクか、それとも。
     ――知っているだろうと、頭の裏で誰かが囁く。
     いつしか、私は炎国で、龍に纏わる逸話を蒐集するようになっていた。研究者、などと名乗るのも烏滸がましい話ではあるが。ある時、蔵書を見せてほしいと、古い商人の家を訪ねたときに。家の当主は頭の先から爪先まで、私をまじまじと見つめた。商品を値踏みする目つきに晒されるのは、初めてではない。品定めを終えたらしい当主は、ただ一言告げた。
    「これも縁だろう」
     案内されたのは書庫ではなく、ひとりの少年の前だった。窓越しに見える彼は、黒と金の色彩を持ち、絶えず視界の端を横切る面影よりも随分と幼い。
     私は理解した。
     自分が何を探していたのかを。
     けれども初めは、ひと月でこの場を去ろうと思っていたのだ。だってこんなのはあんまりだ。彼は自分のことを、もう覚えていないのだから。
     しかし、ひと月は一年になり、気がつけば五年が経っていた。幼さの残るまろい頰をした少年は、もう少年と青年のあわいに片足を突っ込んでいた。けれどもまだ子どもだろうと、そう言ってくくっていたのが鷹ではなくて、龍であったことに、私は組み敷かれるまで気付かなかった。
     窓の外から差し込む朝日が、私たちの過ちを暴いて責め立てる。体が痛むのは、床で寝たせいだけではない。彼の腕と尾の拘束から抜け出すのは一苦労だった。それでも何とか這い出して、私は彼を見下ろした。
     来世を誓った龍のつがいは、互いの鱗を握り締めて生まれ直すのだと言う。
    「  」
     彼の名を呼ぶ。まだ捨てられていない彼の名を。
     私が彼に教えたのは、いつかに彼から教わったことだ。酒を、盃から盃へと移し替えるように。彼に与えられた全てを、私から君に返そう。そうすれば君も、私の知る彼になるのだろうか?
    「……、リー」
     どうして、覚えているのだろう。
     どうして、忘れているのだろう。
     どうして、忘れられないのだろう。
     今ならわかる。
     彼はきっと、生まれてくるときに、何も持ってはいなかったのだ。
     
     暇乞いをした私を、当主は止めることも咎めることもなかった。餞にと手渡されたのは、これまでの棒給と退職金だ。あまりの額に慄いていると、当主は少しだけ笑った。その笑顔だけがいつかの彼のものに似ていた。
     屋敷を去り、私は炎国を転々とする生活に戻った。以前と同じ日々に戻っただけだと言うのに、胸に空いた空洞を吹き抜ける風は止まない。時折街の子供たちに勉学を教えては日銭を稼ぎ、そこに少年がいれば身勝手な寂寥を感じる。あれからどれほどの時間が流れたのか、もう忘れてしまう頃だった。
    「こんにちは」
     彼が現れたのは。
     どうして、という言葉よりも早く、視界を山吹色の光が焼く。それはいつかに見た彼のアーツと同じ色で、目が覚めても尚、夢の中にいるようだった。或いは、過去の中に。
    「すいませんねえ、手荒な真似はしたくなかったんですが」
     また逃げられちゃ困りますから、と彼が癖の強い髪を掻く。少年は、もうすっかり青年になっていた。
     彼のアーツを浴びて気を失っていたらしく、今自分達がいるのは街路ではなくどこかの客間のようだった。肌に馴染んだ雰囲気に、君の家かと尋ねれば、そうですよと頬を緩める。
    「ようやく、あなたを連れて帰ってこれました」
     彼が手を伸ばし、私の頬を撫でる。彼の名を呼ぶ。けれども彼は緩慢に、首を振るだけだった。
    「その名は捨てました」
    「捨てた? どうして、まだ君は家にいるんだろう」
    「家業を継ぎましたから。今のおれは【リー】です。それ以外の名は、ない」
     どうして、と。怯懦に吹かれた言葉が喉に貼り付く。それでも、私の意図するところを、彼は正しく理解したらしい。――そうだ、昔から、彼は人の心を読むのが得意だった。
    「あなたを探すには、それが一番早かったもんで。あれからもう、五年ですか……。龍は長命な分気も長いですけど、限度ってもんがありますからねぇ」
     小刻みに体が震えるのは、秋風のせいだろうか。あれから、時を数えるのを、私はやめたけれど。それでも忘れられない日というものはあり。――嗚呼、彼の、生まれて来た日は。今日この時ではなかったか。
     先生ドクター、と彼が私を呼び、肩を押す。いつかよりずっと優しく。覆いかぶさる影が、斜陽から私を遠ざける。
     背中には冷たい床の感触がある。それでもまだ、暗く冷たい海の中を、底に向かって落ちていくようで。
     もう何処にも行かせない、と指が絡む。体に巻きつく彼の尾は、赤い糸などより余程確かな運命だ。喘ぐ声と吐息に混ざって囁かれる言葉は、祝いと呪いの、果たしてどちらだったのか。
     もう私は二度と海へは行かないだろう。川へ水浴びに行って水の清らかさを感じることもないだろう。或いはもう二度と、大地の上を歩いて土の柔らかさを感じることもないかもしれない。
     彼の腕の中だけが、私の世界の全てになる。
    「おれと一緒に、生きてください。ドクター」
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    はるち

    DOODLEロドスでダンスパーティーが開かれるのは公式というのが良いですね
    shall we dance「あなたには、ダンスはどのような行為に見えるかしら?手を相手の首元に添えて、視線を交わせば、無意識下の反応で、人の本心が現れるわ」

    踊ろうか、と差し出された手と、差し出した当人の顔を、リーは交互に見た。
    「ダンスパーティーの練習ですか?」
    「そんなところだよ」
    ロドスでは時折ダンスパーティーが開催されている。リーも参加したことがあり、あのアビサルハンター達も参加していることに少なからず驚かされた。聞けば彼女たちの隊長、グレイディーアは必ずあの催しに参加するのだという。ダンスが好きなんだよ、と耳打ちしてくれたのは通りがかりのオペレーターだ。ダンスパーティーでなくとも、例えばバーで独り、グラスを傾けているときであっても、彼女はダンスの誘いであれば断らずに受けるのだという。あれだけの高嶺の花、孤高の人を誘うのは、さぞかし勇気のいることだろう――と思っていたリーは、けれどもホールの中央で、緊張した様子のオペレーターの手を取ってリードするグレイディーアを見て考えを改めた。もし落花の情を解する流水があるのならば、奔流と潮汐に漂う花弁はあのように舞い踊るのだろう。グレイディーアからすれば、大抵の人間のダンスは彼女に及ばないはずだ。しかしそれを全く感じさせることのない、正しく完璧なエスコートだった。成程、そうであれば、高嶺の花を掴もうと断崖に身を乗り出す人間がいてもおかしくない。
    1754

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