Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    ぱんつ二次元

    @pantsu2D

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 10

    ぱんつ二次元

    ☆quiet follow

    ED後時空で秋の夜長にパンケーキをやくアーロンのはなし(前)。アロルクだけどチェズレイの圧がつよい。全年齢です。モクチェズ匂わせをふくみます。文字数がたりなかったので、前後にわけます。

    #アロルク
    allRounder

    「アーロン!きみはすごいな!本当にすごい!」
    「あーそーかよ、おいそこの白菜、もう食えるんじゃねぇの?」
    「いやほんっとにすごいよ――あ、この白菜おいしいな」
    「そうかよたんと食え全部食え俺は肉を食う」
     割り下のたっぷり染みたくたくたの白菜を全部ルークのお椀に取り分けて、空いたスペースに最後の肉を投入する。ついでに、中途半端に余っていたねぎと白菜としらたきを肉の隙間に適当に詰めた。簡易コンロの青白い炎でくつくつと煮えていく肉と野菜を眺めながら、アーロンは缶ビールをひとくち煽る。
     モクマ直伝、ミカグラ料理『すきやき』――鍋料理の一種か?――は、ルーク曰く、皆で鍋をつつきあうのが醍醐味らしい。わいわい団欒しながら食べるものだとか買い物の時点で熱弁していた。二人しかいねぇのに団欒っもクソもねぇだろ、と半分呆れたけれど。
     まあ、悪くない。なんだかんだで会うのは久しぶりだし、久々にゆっくり飯を食う時間ってのも、まあ、たまにはあったっていい。出来上がりを待つ間、いつかみたいにくだらない言い合いに興じるのだって、悪くなかった。
     ああ、悪くなかっ『た』。
     過去形だ。
     ほんの一時間前までは、悪くなかった。
     半生の白菜をがじがじかじりながら、いっそ懐かしくすらあるうんざりした気分を味わう。
     ――なんで、こいつは、こうなんだよ。
    「アーロン!きみはすごい!ほんっっっとにすごいよ!あまりにもすごい!!」
    「うるせぇわ、そっちのネギでも食ってろ煮えてるから」
    「ひみふぁふほひ!」
    「食うか喋るかどっちかにしろ」
    「きみはすごい!!」
     こいつの語彙力は五歳児か。
     馬鹿の一つ覚えみたいに繰り返される大興奮の大絶賛がカケラも心に響かないのは、お互い酔っているせいか、それとも腹が膨れてそろそろ若干眠いからか――なんて、ぶっちゃけそのどちらでもない。
     単に、心底、どうッッッッッでもいいからだ。
    「『劇場版かいとうビーストくん~超合体・変身超忍ニンジャジャン編~』!!なんとビーストくんとニンジャジャンとのコラボだぞ!!」
     ということらしい。
     繰り返す。心の底からどうでもいい。
    「映画化ってだけでもすごいのにニンジャジャンとの合体なんて……僕にはとても真似できないよ!!」
    「あーそうかよ。つか真似してぇのかよ」
    「したいさ!!したいとも!!だってあのニンジャジャンだぞ!!!正直今すごくきみがうらやましい!!!」
     くう、と心からうらやましそうな声が本気なだけに、微妙な気持ちがものすごい。要するにこいつが大絶賛しているのはあのクソ不名誉な緩キャラ『かいとうビーストくん』であり、アーロンのことでは全然ない。賞賛も絶賛も、心に響かないにもほどがあるしどらかと言えば嫌すぎる。ルーク本人に、一切の嫌味がないだけに。
    「むしろ俺は、お前のそのお気楽な頭がうらやましいわ」
    「アーロン!!きみはもっとちゃんと喜べ!!なんでさっきからそんなに他人事なんだ!!」
    「心底他人事だからだよ!!!!!!!!!!!!!」
     この突っ込み、もうさっきから何度目だろう。とりあえず十回は同じことを言ってる気がするいや言ってる。なんなら三十回は言った。なのになんでこいつは全然ちっとも折れないんだ。ダイヤモンド級の心臓でも持ってんのか。
    「あのクソ趣味の悪いキャラクターと俺は関係ねぇって何度も言ってんだろクソが!!!」
    「関係なくはないだろ!!もっとモデルとしてのプライドを持てよ!!!」
    「だから俺は関係ねぇんだよ!!!つかなんだよプライドって!!!!」
    「主演のきみがそんな卑屈になったら作品に対して失礼じゃないか!もっと自分に自信を持てアーロン!!」
    「だから関係ねぇし主演でもねぇし必要ねぇんだよそんな自信……!!」
     ぐしゃ、と手元で空のビールの缶が潰れる。苛立ちMAXのアーロンの前、ルークは同じ缶をひといきに煽る。上機嫌に酔いが回っているのか、アーロンの恫喝も少しも効いていないらしい。
    「でさ、この劇場版限定ビーストくんぬいぐるみ!その名もニンジャビーストくん!発売開始からすっごく人気で、製造元がパンクしちゃったみたいでさ、なんと三時間並んでも手に入らない!予約はとっくに三か月待ち!ついでに」
    「三十軒回っても整理券すら手に入らない、だろ、もうそのくだり十回は聞いたわ」
     ようやく煮えてきたらしい肉をまとめて箸でかっさらって、とき卵にどぼんと浸す。とろとろの卵と甘辛の割り下が柔らかな肉の脂に絶妙にマッチしていてなかなかうまい。やっぱり肉は正義だ。間違いない。
    「で?結局買ったのかよ、そのクソみてぇなぬいぐるみ」
    「かえなかった!!!!」
     かっくりとうなだれて、ルークはもそもそとねぎをかじる。
    「さすがに休みがとれなくてさぁ、発売日の次の日に行ったらもう売り切れてて」
    「そうかよ、そりゃ残念だ」
    「なぁアーロン、ものは相談なんだけど、きみ、モデル特権とかで融通効いたりとか」
    「するわけねぇだろあんましつこいと帰るぞ」
    「あってくれよ!!あと今日は帰さないからな!!」
     言ってから、何がおかしいのかけらけらとルークは笑い始める。分かりやすい酔っ払いだ。
     そうでなけりゃ、とっくに一発ぶん殴ってる。
    「おいドギー、そろそろ水飲め水、あと残り、食わねぇなら食うぞ」
    「たべる――ありゃ?」
    「ああもう、いい。酔っ払いはじっとしてろ」
     危うい箸使いのルークが鍋をひっくり返す前に、さっさとコンロの火を落として、残りを全部ルークの椀にとりわける。もぐもぐとおとなしく肉の切れ端を口に運ぶルークを尻目、空き缶をまとめて流しの脇のゴミ箱に捨てた。ついでに空になった鍋と皿を適当に洗って棚に戻す。家具の配置は前に同居したときと変わっていない。勝手知ったる家なので、いまさら遠慮も何もない。
    「おいドギー、今日泊まるから、ソファ、借りていいな」
     返事がない。
     振り返ると、ルークはこっくり船を漕いでいた。半分寝ながら、それでもしっかりお椀は空にしているあたりは流石、といったところか。
    「おいコラ、寝るんならせめてソファ行け」
    「ん、」
     のろのろふらふら目をこすりながら立ち上がる。放っておけばソファにたどり着く前に転びそうなので、仕方なく肩を貸してやった。ぽすんとソファに座らせると、重力に耐えかねたようにぐらんとルークの上体が傾ぐ。無意識になのか、くい、と、ジャケットの裾を引っ張られた。
    「あーもう……面倒くせぇ」
     仕方なく、上げかけた腰をもう一度ソファに下ろす。リビングのソファは、大人二人が座っても窮屈でないくらいの余裕があった。元から、『二人で並んで座るため』に選んだんだろう。誰と誰が――なんて、今更だ。
     正面に置かれたテレビと、棚に置かれたくたびれたDVD-BOX――の、隣。空いた不自然なスペースは、写真立てでも置かれていたのか。半端な空白は、逆にそこにあったものを際立たせる。
     今、ここにいない人間が、いちいち出しゃばってんじゃねぇよ、クソが。
     そこにいないのに滲む気配に、威嚇するみたいに舌打ちして、アーロンはぎしりとソファに背を預ける。
    「風邪ひくぞ、ドギー」
     ソファの端、くしゃくしゃになっていたブランケットを広げる。くたびれたそれは、使い古しの気配が滲んでいた。寝室までたどりつけずに、ここで仮眠することもあるんだろう。あるいは、彼の『父親』が、そうしていたのに倣ったのかもしれない。
     ああ、こいつもか、と、荒くため息をつく。
     どこまでいっても、ここは『二人で暮らしていた』場所だ。過去と思い出がどこまでもつきまとうこの部屋で、ルークが今どんな気持ちで暮らしているのか、アーロンには分からない。同居していた時ですら、ルークは父親との思い出はあまり口に出さなかった。ルークなりに、整理をつけていたんだと思う。整理の結果、咀嚼できたのか、それともまだ呑み込み切れていないのか――それも、アーロンには分からない。
     いずれ、他人が踏み込んでいい類の話じゃない。アーロンにできることといえば、こうしてたまに、用事ついでに家に寄るくらいだ。
     そう割り切っているはずなのに、来るたびにこうして、ひどく歯がゆい気持ちになる。
     広げたブランケットは、結局またソファの端に畳んでよけた。代わりに脱いだ自分のジャケットをルークの肩にかけてやる。冬の入り口にはまだ遠いけれど、シャツ一枚で眠るには、少し冷える。ふと、人肌の恋しくなる季節だと、前にクソ詐欺師が惚気ていたのを思い出す。てめぇは季節問わずだろうがと言い返してすぐ切ったけれど、確かに、ぴったりともたれかかってくる体温はちょうどいいぬくさだ。くしゃりと手癖で、ルークの頭を緩く撫でる。
    「……アーロン?」
    「ん――ああ、悪い。よくガキどもにしてるから、つい」
    「僕はこどもか」
    「どっちかって言うと犬だろ。お手、おすわり、おかわり、ふせ、ってな」
     くしゃくしゃと頭をかきまわしていると、ずるりとルークの頭が肩からずりおちる。支えなおす暇もなく、ぽすりと頭のおさまる先はちょうどアーロンの膝の上だ。くふ、とおかしそうに笑いながらごろんとルークは寝返りを打つ。どさくさに人のこと枕にする気まんまんじゃねぇか。
    「おいコラ、ふざけてんのかドギー」
    「きみはさ、案外面倒見がいいよな」
     伸びたルークの手が、アーロンの手にぺたりと合わさる。
    「なんだかんだでこうして気遣ってくれる。さっきのすきやきだって、さりげなく僕に肉も野菜もちょうどいいくらいにとり分けてくれた」
    「お前の目は節穴かよ。肉はほとんど俺が食ったっつの」
    「むしろあんなの、僕一人じゃ全部食べ切れないよ。あ、今日のアーロンみたいなのを『ナベブギョー』って言うんだって。ニンジャジャンにも出てくるんだけど、」
    「その話はもうすんな胸やけするわ」
     酔っ払いのたわむれみたいに指先同士でくすぐりあう。眠気と酔いのせいか、ルークの手は子供の体温みたいに熱い。そういや、昔もこういう手遊びしてたっけ。ちょうどこんな風に、二人でいるのがちょうどいい季節に、ベッドの上で。どちらかが眠るまでのちいさな攻防に白旗を上げて寝落ちるのはいつだって『ルーク』の方だったか――懐かしい気持ちが、じわりと指先から滲む。とっくに風化させたはずの痛みがいまさら水をえたみたいに、少し痛くてむずがゆい。
    「……面倒見がいいのは、てめぇの方だろ」
    「そうかな?アーロンも大概だと思うけど」
    「だとしたら、どっかの馬鹿の影響だな。責任とれ責任」
     ぎゅ、と軽く鼻先をつまんでやると、痛い、と寝落ちかけの涙目がアーロンをにらむ。
    「は――迫力ねぇな、ぜんぜん」
     じゃれ合いみたいなぬるい触れ合い。手の大きさも、背の高さも、力の強さもきっと、もういつかとはさかさまだ。
    「そういえばアーロン、あしたパンケーキがたべたい」
    「ァ?」
     脈絡のないリクエストが、酔っ払いのたわごとなのかただの独り言なのか一瞬分からず、結局、
    「食えばいいだろ勝手に」
     と、ストレートに返したところ、ちがう、と酔っ払いは頬を膨らませた。ガキか。
    「きみのつくったやつがいいんだ」
    「はァ?」
    「ちょっと前に作ったんだろ。アラナさんから聞いたぞ、なかなか上手だったって」
    「……なんであいつは俺の知らないところでお前らと親交深めてんだよ」
     モクマといいルークといい――下手すりゃあのクソ詐欺師もか?あいつとだけは絶対に関わるなと帰ったら釘を刺しておこう、絶対に。
    「つか、べつにそんなうまいモンじゃねぇよ。お前の作ったやつのがうまい、賭けてもいい」
    「僕が、たべたいんだよ」
     じゃれていた手をルークの手がつかむ。
    「だから、アーロン、朝まで」
     いてくれ、と、続く言葉がすう、と寝息に呑み込まれる。どうやら寝落ちてしまったらしい。閉じた瞼はしばらく開きそうになかった。
    「……言われなくても、帰らねぇよ」
     は、とため息をつく。一体どれだけ人のことを薄情だと思ってるのか――と、文句を言いたいところだけれど、あいにく身に覚えがありすぎた。ハスマリーへの帰国時に、書置き一つだけ残してここを出たのは他でもないアーロンだ。
    「あれは――そういう意味じゃねぇっつのに」
     がしがしと、八つ当たりみたいに頭を掻く。
     ――朝までいればいいのに。
     そう言われるのは、初めてじゃない。
     諦め半分、期待半分に言われる言葉に何度も何度も背を向けてきた。朝までいれば、情がうつる。平等に明日が訪れるわけじゃないあの国で、別れて二度と会えないことなんてざらなあの世界で、まともな別れの挨拶なんてしたところで意味がない。誰も追いかけて来ないくらいのさりげなさで、気づいたらいない、くらいの別れが丁度よかった。
     変わったのは――決まってる、悔しいしいけれど――当たり前に、また会えると確信できる、クソみたいにしぶとい相棒に捕まったからだ。
     緩く手を握り返す。
     いつかとさかさまに悪党になったアーロンに、いつかと同じに伸ばされたこの手が、一体どれほど大きかったか。なんにも変わらないヒーローバカのその姿が、何度振り払っても手をつかんでくるそのしぶとさが、一体どれだけ眩しかったか――なんて、きっとこいつは一生知らないだろうけど。
    「責任取れよ、『ヒーロー』」
     きゅ、と緩く頬をつまむ。むぅ、と間抜けな寝言をこぼすだけで、ルークが起きる気配はない。目を覚まさないのをいいことに、ゆるりと顎の輪郭をたどる。
     子供の時より大人びた顔のかたち、いつかの面影を残す柔らかい頬、閉じた瞼の下の瞳は、昔と同じ綺麗な緑。真っ直ぐすぎて、ときどき危なっかしい澄んだ色――いちいち触れて確かめたくなるのは、人肌の恋しい季節だからか。滑らせた指先が、鼻筋をおりて、唇にふれる。ふに、と、指の腹を柔らかな弾力が押し返す。乾燥しているからか、少しだけかさついていた。くすぐったいのか、ふ、と、隙間から小さな吐息が漏れる。アルコールの熱の混ざった、妙に艶めいたそれにこく、と喉が鳴る――瞬間、ぶる、と、嫌な振動が床を鳴らした。
    「……んだよ、」
     周囲を見回して、床で跳ねまわるタブレットに気づく。どうやらルークのものらしい。着信はまだ続いているのか、バイブレーションの音がうるさい。舌打ち一つしてルークをソファに寝かすと、振動し続けるタブレットを取り上げる。切ろうとして、けれど画面に浮かぶ『非通知』の三文字に全て察してため息が出た。
    「何の用だクソ詐欺師」
    『おや?その声は怪盗殿。私はボスに電話をかけたはずですが――これは一体どういうことでしょうねェ』
     わざとららしく驚いた声は予想を裏切らないチェズレイのそれで、うんざりしたため息が出た。
    「どういうこともこういうこともねぇよ。ドギーが寝てるから代わりに出ただけだ。つかこんな深夜にかけてくんな何考えてんだクソが」
    『おや、怪盗殿は私がボスのご迷惑になるような電話をかける無能だとお思いで?』
    「てめぇの電話は十割迷惑電話だろうが」
    『ええ、ですから、最初から怪盗殿が出るのを見越してかけたに決まっているじゃないですか』
    「ふ、ざ、け、ん、な!!!」
     怒鳴りつけてから、はっとしてソファを振り返る。ルークが起きる気配がないのを確認して、ほっと一つ息をついた。
    「つか何で俺がここにいるの知ってんだよ。どっかから見てんのかてめぇは」
    『まさか。アラナ嬢から伝え聞いただけですよ。今日はボスのところに宿泊予定だ、と』
    「なんでてめぇまでアラナと親交深めてんだよ……!!!!」
    『なぜって、モクマさんとボスがお世話になっている女性ですから、ご挨拶程度は――ああ、怪盗殿もでしたっけ?』
    「なんで俺だけ疑問形なんだよ!!!むしろ俺がメインだわ!!!!」
    『ああ、ちなみにご伝言ですが、『お友達は大事にするんだよ、喧嘩禁止!』とのことです。私はあなたの友人ではありませんが、そのように怒鳴りつけたと知ればアラナ嬢は悲しまれるのでは?――おや?どうかされましたか?』
    「……死ね!!!!!!!」
     小声にありったけの殺意を載せて叫ぶ。ついでにそのまま通話を切ろうとして、これがルークのタブレットだったと気づく。ち、と一つ舌打ちが零れた。
    「……で、何の用だよ。あいつになんか伝言でもあんのか?」
    『そうですね、強いて言うなら、そろそろ野菜が切れる頃合いかと思いまして。次の差し入れのご参考に、感想をお伺いしようかと』
    「ァ?野菜?」
    『白菜とねぎ、いかがでしたか?『スキヤキ』に非常に合うとモクマさん絶賛の品だったのですが』
    「あの白菜てめぇのだったのかよ……!!!」
     それは正直知りたくなかった。そこそこ美味しかっただけに余計に。
    「つか、差し入れだかなんだか知らねぇけど、あんまドギーのこと甘やかすな。あいつだってガキじゃねぇんだ。自分のことぐらい自分でできんだろ」
    『甘やかしてはいませんよ。ただお忙しいボスの健康を気遣っているだけですから――あァ、それから』
     と、そこで一呼吸、笑いをこらえるみたいな間を置いてから、チェズレイはつづけた。
    『ぬいぐるみの方も、お送りさせて頂こうと思いまして』
    「ァ?」
    『『劇場版かいとうビーストくん~超合体・変身超忍ニンジャジャン編~』――すごいですねェ、怪盗殿、ついに銀幕デビューなさるとは』
     タブレットごしの嫌味ったらしい拍手に反射的に画面をたたき割りそうになった。
    「……てめぇわざと言ってんだろ」
    『おや、仮にもご自分がモデルのキャラクターが映画になったのですから、怪盗殿はもっと胸を張って自信を持たれては?主演があまり卑屈になるのは作品に対して失礼ですよ?』
    「だからあのクソ趣味の悪ぃキャラクターと俺は別物だし心底関係ねぇんだよ!!つかドギーみたいなこと言ってんじゃねぇわ!!」
    『心外ですねェ、ボスのは純粋な賞賛、私のはただの嫌味です。同じように受け止められては私も少々戸惑います』
    「知らねぇよ勝手に戸惑ってろ!!!!!」
     全力で突っ込んでから、ぜえぜえと肩で息をつく。
    「つか、本気であんま甘やかすな、ガキじゃねぇんだから……」
    『甘やかしではありませんよ?どちらかと言えば、正当な報酬です』
    「……は?」
    『ただしい行いは、きちんと評価されるべきかと。せっかく苦労して手に入れたのに、ボスは近所の子供にお譲りになってしまったようなので』
    「……ァ?」
     聞いていた話と、少し違う。
    『――おや?怪盗殿、まさかボスから聞いていないのですか???ボスのバディである怪盗殿ともあろうお方が???私でも知っていることをご存じない?????』
    「てめぇそのマウントの取り方やめろぶっ飛ばすぞ」
    『まあ、お気を落とさず。かくいう私もボスから直接聞いたわけではありませんから』
    「じゃ何で知ってんだよ……」
    『母親の勘です』
    「……それ、もう突っ込まなくていいか?」
     どうせその辺にカメラの一つも仕掛けてあるんだろう。まあ、クソ詐欺師がルークに何かするとは思えないから放置しても問題はないんだろうけれど。
    『どうも、近所に身体の弱い子供がいたようでして、手術前に少しでも勇気をづけられるように、とお守り代わりに譲ってしまわれたようです。まあ、ぬいぐるみひとつで手術結果が変わるとは思えませんが、気の持ちよう、というのはありますからねェ。それに、ボスらしいと言えば、ボスらしい』
    「……そうだな」
     確かに『らしい』。
     並んで並んで、やっと手に入れたそれを簡単に譲ってしまうさまが鮮やかに想像できてしまった。きっと、どこへ行ってもあいつは変わらずそうあり続けるんだろう。
     たまに、考える。
     もしあのとき、あのままあいつがあの国にいたら、どうだったんだろう。やはり折れずにヒーローでい続けたんだろうか――そうなんだろうな、と思う、きっと。傷つきながら『ルーク』を助けたあのときみたいに、困っている誰かをずっと助け続けて、そして。
     そして、あの国で、死んでしまっていたかもしれない。何度も何度も何度も、言い聞かせ続けた呪いが、現実になっていたのかもしれない。
     もしも、の話に、何の意味もないけれど。
    『――あァ、そうそう、怪盗殿にも支援物資を送りましたので、大事に使ってくださいね?』
    「ァ?捨てるように言っとくわ」
     半分聞き流していた話にほとんど反射で返事をする。
    「てめぇからの『支援物資』なんざどうせ裏があるに決まってんだろ」
    『ご安心ください。裏も表もない、ただの『報酬』です。仮にもモデルに何も支払わない、というのはいささか不義理が過ぎますので。肖像権料だと思って気兼ねなくお受け取りください』
    「……おいコラ待て」
     後半、聞き捨てならない言い回しがあった。
    「なんの、モデルで、何の、肖像権料だって?」
    『劇場版ビーストくんのですが、それが何か?』
     さも当然、といった様子でしれっとチェズレイは言ってのける。
    『あァ、そういえばお話していませんでしたっけ?少々、扱いに困る大金が手に入ってしまったので、映画配給事業に手を出してみまして。「折角だから思い出に残るものつくりたいねぇ」というモクマさんのご希望を汲んだ結果、あのようなかたちに』
    「どこをどう汲んだら『あのようなかたち』に収まるんだよ100%てめぇの悪意の塊じゃねぇか!!!」
    『心外ですねェ。私はただ、『ボスの大好きなビーストくんとモクマさんのモチーフともいえるニンジャジャンをコラボさせたら思い出にもなる上に何よりボスが喜ぶのでは?』という100%の善意でしか動いていませんが?ちなみにそこそこヒットしたので次回作も検討中です。よかったですねェ怪盗殿』
    「なんにもよくねぇし許可した覚えもねぇんだよこっちは!!!!」
    『おや?『自分とビーストくんはあくまで無関係の別物』と、先ほど必死に仰っていませんでしたっけ?でしたら、怪盗殿の許可など端から不要では?』
    「ッッッてめぇは、ほんと……!!!!」
     今すぐタブレットを床にたたきつけてやりたい衝動を必死に堪える。画面越しに相手をぶっ飛ばす方法があるなら今すぐここで実行したいさせてくれ。
    『あァ――申し訳ございません。そろそろモクマさんが帰ってくる頃合いですので、今夜はここで』
    「『今夜は』じゃねぇ二度とかけてくんな!!!!」
    『あァ、そうそう、ひとつ申し上げ忘れておりました。怪盗殿、』

     ――くれぐれも、不埒な真似はしないことです。

     ド低音の忠告の後、ぶちんと一方的に通話が切れる。かたんと、計ったみたいなタイミングで、玄関の方で物音がした。
    「…………」
     なんとなく嫌な予感がしながらも、玄関の方に脚を向ける。重たいドアを開けると、玄関先に段ボール箱が置かれていた。宅配便の伝票はない。代わりに、暗号めいた手裏剣マークがえらく達筆な筆文字で書かれている。となりに書かれた送り主は『あなたのピアノの先生より』。
    「……おいコラ待て」
     なんとなく、誰が送り主か――というか、『誰が運んできた』のか察してしまった。暗闇を奔る忍者の姿は見えないけれど、アーロンの目をかいくぐれているその時点で、該当者なんてただ一人だ。
    「……おっさんもグルかよ」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤💗☺💗👏👏👏👍👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    ぱんつ二次元

    DONEED後時空でカジノでルーレットするモクマさんのモクチェズ。モブ視点です。 軽やかなピアノの音色に合わせて澄んだ歌声がホールに響く。カジノのBGMにしておくには勿体ない美しい声が、けれどきっと何処よりこの場に似合う挑発的な歌詞を歌い上げる。選曲はピアニスト任せらしいのでこれは彼女の趣味だろう。
     鼻歌に口ずさむには憚られるようなその歌が、どれほどこの場の人間に響いているかは分からないけれど。
     ルーレット台の前には、今日も無数のギャラリーがひしめいていた。ある人は、人生全てを賭けたみたいな必死の面持ちで、ある人は冷やかし半分の好奇の視線で、いずれもチップを握って回る円盤を見つめている。
     片手で回転を操りながら、もう一方の手で、乳白色のピンボールを弾く。うっとりするほどなめらかな軌道が、ホイールの中へとすとんと落ちる。かつん、と、硬質な音が始まりを告げる。赤と黒の溶けた回転のうちがわ、ピンに弾かれ跳ねまわるボールの軌道を少しでも読もうと、ギャラリーの視線がひりつくような熱を帯びる。
     もっとも、どれだけ間近に見たところでどのポケットが選ばれるかなんて分かるはずもないのだけれど。
     ルーレットは理不尽な勝負だ。
     ポーカーやバカラと違って、駆け引きの余地が極端 9552

    ぱんつ二次元

    DONEED後時空で海と雪原のモクチェズのはなし。雪原はでてこないけど例の雪原のはなし。なんでもゆるせるひとむけ。降り積もる雪の白が苦手だった。
     一歩踏み出せば汚れてしまう、柔らかな白。季節が廻れば溶け崩れて、汚らしく濁るのがとうに決まっているひとときの純白。足跡ひとつつかないうつくしさを保つことができないのなら、いっそ最初から濁っていればいいのにと、たしかにそう思っていた。
     ほの青い暗闇にちらつきはじめた白を見上げながら、チェズレイはそっと息をつく。白く濁った吐息は、けれどすぐにつめたい海風に散らされる。見上げた空は分厚い雲に覆われていた。この季節、このあたりの海域はずっとそうなのだと乗船前のアナウンスで説明されたのを思い出す。暗くつめたく寒いばかりで、星のひとつも見つけられない。
    「――だから、夜はお部屋で暖かくお過ごしください、と、釘を刺されたはずですが?」
    「ありゃ、そうだっけ?」
     揺れる足場にふらつくこともなく、モクマはくるりと振り返る。
    「絶対に外に出ちゃ駄目、とまでは言われてないと思うけど」
    「ご遠慮ください、とは言われましたねェ――まぁ、出航早々酔いつぶれていたあなたに聞こえていたかは分かりませんが。いずれ、ばれたら注意ぐらい受けるのでは?血気盛んな船長なら海に放り出すかもし 6235

    related works

    recommended works