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    mochi_70

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    mochi_70

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    ファウスト以外のまほは親愛ベースです

    転生ファウ晶♀③ 魔法舎で暮らすことが決定した私は、彼の手に引かれて食堂へとやってきた。
    先生会議での結論はとりあえず様子見、だ。
    ただオズの助言で私とファウストが離れるのは良くない、とのことだったのでこれからはなるべく共に行動することになった。

    そうなると東の魔法使い達とも多く顔を合わせることになる。ファウストは紹介は早い方が良いと言い、食堂へと足を運んだ。
    魔法舎を案内されつつ向かったけれど、内装は前とほぼ変わらないままを維持していて懐かしい気持ちになった。
    100年後の彼らはどんな姿なのだろう。
    各国の先生役である魔法使い達は新しい一面を見せられつつも、私の記憶通りの姿だった。
    食堂の扉の前に立ち、ドアノブに手をかける彼を横目で見る。
    不安気な私の視線に気づいた彼は大丈夫だ、と言うかのように瞳を細めた。
    本当によく気づく人だ。
    私は深呼吸をして目の前を見据えた。ゆっくりと扉が開かれる。
    見慣れた景色の中に青年の影がふたつ、あった。

    高級な絹糸のように美しい金の髪、落ち着いた蒼の瞳の青年。その彼より少し年若い見た目の黒髪に夕焼けを閉じ込めたような瞳の青年。
    ヒースクリフとシノだ。
    名乗られなくともわかる。私の知っている姿から成長しているけれど間違えようがない。
    見た感じヒースクリフは二十代後半のように思えた。ネロとファウストと同じぐらいの歳。
    シノはヒースクリフ達より若く、成長が止まったようだ。二十代前半、それより前かもしれない。けれど背は当時よりぐんと伸びていてヒースクリフと並んでも大差なかった。

    「おまえか、ファウストの気配のする魔女って。」
    「本当にこんなことあるんだ……」

    話を聞いていたのか、二人は私をまじまじと見つめた。忘れられているのは当たり前だ、と自分に言い聞かせながら私は軽く会釈をし、言葉を発する。

    「アキラです。よろしくお願いします。」

    「シノ、ヒース。これから彼女は僕と共に行動することになった。きみ達とも顔を合わせることも多いだろう。よろしく頼む。」

    ファウストの一声で二人は同時に頷く姿に、彼は軽く笑みを溢した。先生を慕う気持ちは何ら変わりないみたいで私まで嬉しくなる。
    それに軽口をかけ合う彼らは何も変わっていないように思えた。
    顔はにやけていないだろうか。
    気を取り直して、と私をじっと見つめたシノは親指で軽く私を差しつつ己の先生に問いを投げた。

    「それで、こいつはなんだったんだ。」
    「こらシノ!」
    「だってヒースも気になるだろ。」
    「…….そうだけどさ。」

    どうなんだ、ファウストとでも言うかのようなシノの視線に大きくため息を吐いた彼は先程オズ達から聞いた話と、私の記憶の話を二人に伝えようと口を開いた。

    「彼女は前世で賢者をやっていたらしい。丁度シノやネロが召喚された年だ。」

    賢者、という言葉に二人は大きく目を見開いた。
    ファウストは驚くのも無理はない、と頷きを返して話を続ける。

    「端的に言うと僕と彼女の魂が複雑に混じり合っている。解呪の方法はわからないが、離れると存在が不安定になる危険性があるそうだ。」

    「ふーん、なるほどな。だから不思議とあんたに嫌な感じはなかったんだな。」

    彼らは私が賢者であったことを驚きはしたものの疑わない様子だった。オズ達だって飲み込むのにタイムラグがあったのに。
    それはファウストへの信頼の賜物なのだろう。
    シノの茜の瞳が私を見つめる。彼は口元を緩め静かに笑った。

    「昔、コタツを教えてくれただろ。あれはブランシェットで今でも大人気だ。誇れよ。」
    「あっ、あの。おじやを一緒に作ったり、賢者様の世界のお話をしてくださったことありますよね。ラジオ体操とか……」
    「あとバラエティの食レポをするとネロが嬉しそうになる。」
    「ネロのことはわかりますか?もう一人の東の魔法使いで。」
    「はい。大丈夫です。」
    「今はキッチンでレモンパイを焼いています。」
    「多分もうすぐ来るぜ。さっきから良い匂いがしてる。」
    「知っていると思いますが、ネロの作る料理はとても美味しいんです。」

    嬉しそうな顔で口々に記憶を紡ぐ。
    笑顔で話す彼らに釣られて自然と笑みを浮かべた。
    カチャリ、と微かな物音がしてシノの視線が動く。私の耳に柔らかな声が聞こえた。

    「おーいお子ちゃま達、パイ焼けたぞー」
    「もうお子ちゃまじゃない。」
    「はは、食うだろ?」
    「食べる。」

    食い気味に言葉を重ねる彼はもう待ちきれない、と笑いながら私を追い越して声の主の元へ向かった。
    鳴り止まない心臓を押さえつけながら振り向くと見慣れた空色が瞳に写った。
    ネロは、やはり前とあまり変わりないように思えた。既に数百年生きていた魔法使いはもしかしたら百年なんてあっというまなのかもしれない。
    穏やかな笑みを浮かべながら彼は口を開く。

    「ほらヒースも、先生も──」

    ネロの瞳が私を、ファウストを順に見つめ、その瞬間、気怠げなシトリンが大きく見開かれた。
    ぽかん、とした顔のネロは無防備に口元を緩めて、なぜか幻でも見るかのように私とファウストを順番に見た。

    「え、あれ。なんで賢者さんがここにいるの?」

    うそ。
    聞き間違いか、と思うような発言がネロの口から飛び出てきて私は思わず口元を抑えた。
    動揺する私を置いて彼はまじまじを見つめながら言葉を重ねる。

    「ちょっと、まって。なんか若くないか?」

    ネロも動揺してるのだろう。着眼点がおかしなことになっている。たしかに、昔は二十代だったから十代の姿では違和感があるのかもしれないけれど。
    幻覚の魔法か?と頭を押さえ始めたネロの様子を見てようやく金縛りが解け、小さな声を出せた。

    「ね、ねろ。」

    震えた私の声に応えるようにシトリンの瞳が私と視線を合わせる。

    「賢者、さん?」
    「ネロ、どうして……」

    存在を確かめ合うように互いの名を呼ぶ。
    どうやら彼は賢者のことを覚えているらしい。どうして、と繰り返しながら自身のシャツの袖をぎゅっと掴む。
    沈黙が食堂を包んだ。
    いつも茶化すように軽口を重ねるシノも思慮深いヒースクリフも声すら出せずに私たちを見つめている。
    驚きで思考が回らない。
    なぜだろう、なぜ、ネロだけ。なんて思いながら瞬きを繰り返した。
    静寂を切り裂いたのはファウストの一言だった。

    「ネロ、彼女の記憶があるのか?」

    ネロはシトリンを彷徨わせながら曖昧に口を開いた。

    「いや、覚えてたっていうか……今、思い出したっていうか……」

    東の魔法使い達の顔を見ながらなんで俺だけ思い出したの?とネロは頬をぽりぽりと掻いて嬉しそうな気まずそうな東の魔法使いらしい微妙な顔をした。
    けれど私と目を合うと彼の顔が綻んだ。目を細め、柔らかい笑みを浮かべている。

    「でもあんたにまた会えて嬉しいよ。」
    「わたしもっ、私もネロにまた会えて嬉しいです。」

    会えて嬉しい。
    覚えてくれていて嬉しい。
    ようやく実感が沸いて差し出された手のひらを勢いよく掴んだ。
    諦めきっていた『賢者の私』が救われたような気がして、気を抜くと涙が出てしまうと思って瞼にぎゅっと力を入れた。

    「ネロだけずるいな。」
    「ずるい。俺も思い出したい。」

    二人の少しいじけた声が耳に届く。頬をぷくりと膨らませる彼らは今は私より年上だとわかっていてもなんだか可愛らしい。
    でもどうして、と首を傾げる。
    なぜネロだけが覚えているのか、と四つの視線が空色に集まる。居心地がわるそうに首をすくめながらネロは首を傾げた。
    わからない、とファウストを見るけれど彼も首を振るだけだった。

    「ネロ、あんたこいつと特別な関係だったのか?」
    「はぁ!?」
    「えっ!?」
    「シノ!?」
    「なんでそうなるんですか!?」

    突飛な発言に各々驚きの声を上げる。
    いや、突飛ではないのかもしれないけれど。
    シノの純粋な瞳は違うのか?と問いつつ腕を組んでネロをじっと見つめた。

    「だって、ネロだけ覚えてるなんておかしいだろ。恋人だったのか?」
    「いやいやいやいや。恋人じゃない、恋人じゃない。」

    シノの言葉にネロは思いっきり否定を繰り返す。手を左右に振りながら勘弁してくれ、と眉を八の字に歪めた。心からの否定を聞いても子供たちの疑う視線は変わらず、ネロは懇願するような声で悲鳴をあげた。
    そう捉えられてもおかしくない状況だもんな、と思いつつ私は隣にいる彼の横側をそっと覗いた。
    けれどサングラスに隠されて彼の感情は読み解けなかった。

    「俺じゃないって!」
    「じゃあ誰だ?」
    「えーと、ほら……あー、プライバシーだからさ……」

    ネロはちらりと私たちの方向を向いて言葉を濁す。私の瞳に迷いを見つけたのだろう。
    自身の口から関係を告げるわけにはいかない、と気遣ってくれたようだ。

    「でも覚えてたってことはネロと賢者様は仲が良かったの?」

    ヒースの助け舟のような質問にネロは私と目を見合わせてう〜ん、と唸った後恥ずかしそうにぽつりと声を出した。

    「厨房友達?」
    「厨房友達です!」

    照れくさそうにあってる?と問うネロに力強く言葉を返す。そう、ネロはともだち。
    ネロの正体のひとつが『私の友達』なら私の正体のひとつも『ネロの友達』なのだから。
    胸が熱くなって笑みが溢れる。
    自分の頬が緩むのを感じるけれど、表情筋をぎゅっと引き締める気にはならなかった。

    「じゃあファウストは何だったんだ?恋人か?」
    「猫友達だそうだ。」

    ヒースが話を逸らせてくれたけど、それを気にしないシノの無邪気な問いかけに私はびくりと肩を震わせ、先程まで沈黙を保っていたファウストが静かに言葉を発した。
    おそるおそる横顔を見上げるけれど、先程と同じようにそこに感情はあまり見つけられなかった。
    ネロはシトリンの瞳を瞬かせながら困り顔を浮かべる。

    「……あんたら、そう言うことになってんの?」
    「……なってます。」

    ちょっとだけ寂しい声色でネロは笑った。
    その苦い笑い方は昔、私がネロとブラッドリーの関係を尋ねたときのようで。
    恋人、と言い張れない私を責めることなく、甘やかすわけでもない、その柔らかな問い方はやさしかった。
    だけど少しだけ面白がるような表情を浮かべて私ではなくファウストを見つめた。
    肩をすくめてにやり、と笑う。

    「でもなんで賢者さんと先生がそんな状態になってんだ?……最初、マーキングでもしてるのかと思ったよ。」

    「してない。」

    含んだ笑みを浮かべるネロに食い気味にファウストは否定した。
    ため息を吐いて説明するから、と着席を促した。
    たまにやるだろ、と口を挟もうとするシノをヒースクリフが今度こそ叱って座らせる。
    ネロが持ってきたパイを配って彼は口を開いた。

    ***

    「──と、いう事だ。」

    ヒースクリフが淹れたコーヒーとネロのレモンパイを味わいながら再び説明を聞いた。
    何度聞いてもそんな状態になっている実感はないけれど。私の中にファウストの魂の欠片が入っているだなんてなんだか不思議な気持ち。
    これは私とファウストの魂がムルみたいに分裂してるという事なのだろうか。
    だけど、なんとなくムルの時とは何か違う気がする。
    話を聞き終えたネロは腕を組んで体を反らせた。

    「ふーん。じゃあこれから賢者さんは俺たちと一緒に行動するってこと?」
    「あぁ。授業も依頼も共に行く。……彼女には悪いが。」
    「いいんじゃねぇ?負担じゃねぇんじゃないか、多分。なぁ、賢者さん。」
    「はい!……むしろ、いいんですか?」
    「嫌だったら言わないよ。」

    ちょっと悪い笑みを浮かべながらネロは私に声をかけた。そう、彼の言う通り負担じゃないし、むしろ嬉しい。
    ずっと一緒にいられるだなんて、少し前は思いもしなかった。
    授業だって、昔気になっていたのだ。魔法を使えないから見学することしかできなかったから楽しみでもある。私は今世は魔女だけど全くと言っていいほど魔法を使ったことがない。
    呪文の紡ぎ方も、マナエリアの見つけ方も、魔道具の扱い方も何も知らない。それを信頼できる先生に教えてもらえるだなんてなんて幸せなのだろう。
    それに、嫌だったら言わないなんてぶっきらぼうな言い方だけどその奥に柔らかな感情を見つけて嬉しくなる。

    「ネロ、なんだか今日嬉しそうだね。」
    「たしかに。昔の賢者に会えて嬉しかったんじゃないか。」

    ネロの横に座る二人に声をかけられながら、肯定するように瞳を細めた。
    じっと見つめてくるネロに思い出したお願い事を告げようと口を開いた。

    「ネロ。私はもう賢者じゃないので……」
    「わかった名前で呼ぶよ。これからよろしくな、晶。」

    私の意をすぐに汲んでくれてネロは手を振ってくれた。もう彼らにとっての賢者様はあの年若い黒髪の青年なのだから、と。
    ネロに倣うように隣り合うシノとヒースクリフも同じく言葉を発した。

    「よろしくな、アキラ。」
    「よろしくお願いします。アキラ様。」
    「呼び捨てでも大丈夫です。」
    「じゃあ、アキラさん……で。」

    ヒースクリフの様呼びは今はなんか違う気がしてもっとラフな呼び方に変えてもらう。
    くすぐったそうにはにかむヒースは相変わらず美しかった。
    隣で吐息が溢れた気がして横目で見る。
    瞳をサングラスで隠した彼はやわらかく微笑んでいて、それを見た瞬間、自然に私の口元も緩んだ。
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