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    2874itmaxx

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    エロ皆無ですが、下ネタなのでこちらへ。

    悩む回遊魚「なぁじゅーしぃ、マグロみたいっつぁ、どういう意味なんだ?」
    「……はっ?」
    金木製の香る穏やかな秋の午後、空却はふと思い出した言葉について弟子に訊ねた。

     それは一週間ほど前、一応は恋人ということになっている男、白膠木簓が空却に向けて言った言葉である。
    『お前はホンマ、マグロかっちゅうねん』
     そう言って、可笑しそうにけらけら笑っていた簓の様子を思い出す。
    オオサカの街をあちこち簓に案内させ、あれはなんだ、これはなんだと手を引いて時間目いっぱい歩き通した。2人の休みが揃う機会はそう多くない。デートなどという浮かれ切った単語を使うのは抵抗があったが、だがあれは確かにデートだった。もっとも、2人の時間を楽しむというよりは、オオサカを最大限楽しむために奔走した、と言ったほうが正しいが。
     件の簓の発言は、そんな最中での一言である。言われたその時は「人間だっつーの」と顔を顰めて終わったのだが、よく考えればあれは何かの比喩だったのだろう。いったいどういう意図でそんなことを?十四に訊ねたのは、単純に最近流行りのネットスラングだとか、あるいは芸人の一発芸とか。そういったものの類だと思ったので、十四の方が詳しいであろうと、とはいえ別にすごく知りたいというわけでもない、言ってしまえば割とどうでもいい雑談の一部のつもりの発言だった。
     だが当の十四はサッと顔色を変え、がしりと空却の両肩を掴んできた。
    「ちょ、ちょっと待ってください、……えっ、誰スか、そんなこと言ったの」
    「え……簓、だが」
    「…………」
     面食らった様子で空却が答えるなり、十四はまるでクラリと立ち眩みをしたかのように揺れた。半歩うしろにたたらを踏み、そしてぽかんと見返すだけだった空却の肩を、再度がしりと掴んだ。
    「……いいスか。できるだけ落ち着いて、聞いてくださいっす――」

     ***

     空却は暮れなずむ境内の木陰が延びていくのを、ただボーッと眺めていた。
     十四の言った言葉があまりに予想外で、だが決して心当たりがゼロなわけではなかったせいで、少なからず空却はショックを受けていた。
    ――『マグロっていうのは、エッチの時に無反応で完全受け身の女の子のことっす』―
     十四は空却と簓の関係を知っている。そしてまた、空却と簓は確かにちゃんと性交渉まで済んでいる。十四がそんなことまで知っているとは思いたくはないが、だがこれらすべてを結びつけるのは容易だっただろう。
    「完全、受け身……」
     もはや空却の頭の中には、その発言をした際の簓の笑顔など消えていた。シチュエーションが合致しないということなど、十四の説明で受けた衝撃ですべて吹っ飛んでいたのだ。
     確かに、これまでの空却は文字通り受け身だった。簓が年上で経験豊富ということもあって、手を引かれるままいろいろなことを受け入れてきた。緊張で強張った肩を優しく撫で、根気強く愛撫して丁寧にほどいて、そうしてやっと繋がった。そこからは、ムードづくりとやら然り、お誘い然り、もちろんセックス内容然り。空却が女側、つまり受け入れる側である以上は仕方のないことなのかもしれない。だがつい、簓があえて「マグロ」と言ったことについての意味を考えてしまう。
     ……どうするべきだったのだろうか。もっと積極的に、自分から誘ったりした方がよかったのだろうか。それか、男を悦ばせるテクニックやスキルを磨く努力をすべきだったのだろうか。だが、何かしてほしいことがあるんだったら言えよとも思う。わからないなりにいっぱいいっぱいなのだ、受け身であることを揶揄する前に歩み寄るのが筋ではないだろうか。なにぶんこれまでに簓以外とそういったことを経験したこともなければ、興味を抱いてすら来なかったことなのだ。
    空却はぐるぐると考え、そして外気がひんやりと冷えて身震いする頃合いになって初めて、すっくと立ちあがった。
    「ッダぁーー!!なんッで拙僧がこんな思いしなきゃなんねーんだ!」
    ガシガシと頭を掻き、そして自室に駆け戻って上着を引っ掴んだ。
    「悪ぃ親父!ちっとオオサカ行ってくるわ!」
     背後からは耳慣れた怒号が聞こえたが、空却は薄墨を溶いたような夕暮れの街にケッタで走り出した。

    ***

     オオサカの簓の自宅のインターホンを押すと、画面いっぱいに簓の驚いた顔が写し出されてつい笑ってしまった。勢いだけで乗り込んでしまったわりに、簓が在宅していたのは運がよかった。簓は収録で遅い時間に帰宅することはザラだし、なんならトウキョウで泊まりも多い。
    「どしたん!びっくりしたぁ」
     エントランスに駆けてきた簓は肩で息をしていた。エレベーターがのんびり昇ってくるのに焦れて途中まで階段で来たせいだ。
     ぎゅうと胸のあたりが軋む。ここまで来たのは、簓に確かめるためだ。あの言葉の真意を、そして自分はどうするべきか、どうしてほしいか、簓の言葉を聞くためだ。意を決して顔を上げる。
    「おい簓、拙僧がマグロみたいってのはどういうことだ」
    「はっ?」
     開口一番、まだエントランスの入り口だというのに、空却はまっすぐに簓を見て言った。その目は真剣そのもので、何かの冗談を言っている様子ではない。簓は少々気圧されながらも、困惑しつつ口を開いた。
    「なんの話……?まぁお前はいつでもマグロみたいやとは思うけども」
    「………っっ」
     空却の耳には、ガアンとタライが頭頂部に落下した音が聞こえた。実際にはそんなもの落ちてなどいないが、この衝撃はいったいどういうことだ。
    「は、は、……そうだよな、はは」
    「空却?ほんまにどしたん、とにかく部屋に……」
     簓が気遣わしげに顔を覗き込み、手を引いてマンションに引き入れようとした瞬間、空却はキッを顔を上げて簓の襟首を両手で掴んだ。
    「ぐええっ」
    「拙僧はなぁ!テメェしか知らねえんだよ!好きだと思ったのも!小せえことで浮かんだり沈んだり、ダッセェ自分見るはめになったのも!セックスだってそうだ!なのにテメェは、そういう拙僧のこと笑ってやがったのか!」
     人目など憚らず、空却は声を荒げた。思わず簓を非難する言葉になってしまったことに気づき、空却はハッと我に返って手を離した。目を逸らす空却をぽかんと見ていただけの簓の顔は、空却とは対照にじわじわと口角が緩んでいく。ついにぷく、と漏れた笑い声に、空却も思わず視線を上げた。
    「ふ、ふふ、はは、ははっ!なるほど、読めたで。誰の入れ知恵や」
    「……え?」
     空却が顔を上げるや否や、今度は簓がガバリと空却を抱きしめた。ぎゅうぎゅうと両腕に締め付けられ、空却は困惑と驚きで声を上げることもできない。
    「あーもう!猪突猛進なんやから!敵わんわもう!」
    「なにを、」
     思わず言いかけた空却の頬を両手で挟んでぶにゅとさせた簓は、なにやら嬉し気な顔を隠そうともせずに続けた。
    「マグロってな、回遊魚なんや。泳ぎ続けてないと死んでまうから、常に全力疾走。ほんまにお前はマグロや、くるくる動いていっつも大人しくなんてせん、追うこっちまで酸欠になってまうような回遊魚。比喩表現やと、こっちが一般的やと思うで?」
    「……回遊魚……?」
     顔をぶにゅとさせられたまま、空却は茫然と簓の顔を眺めた。
     聞いたことはある気がする。マグロは泳ぎ続けないと呼吸ができないのだと。そして今さらながら、簓が「マグロかっちゅうねん」と言った際の表情を思い出す。空却が楽しそうにオオサカを駆け回っていたせいで、付き合わされた簓はへとへとだった。それでも手を振り解いたりなんてしなかった、あの時の簓の笑顔である。

     勘違いだったのだ。早とちりともいう。
    「あ……」
     みるみる間に空却の顔は真っ赤になり、ぱくぱく喘ぐ口は潰された頬のせいでヒヨコの嘴のようになってしまっている。
    「やあっと気づいたか。下世話な慣用句のほうのマグロもあるけどな、俺が言うわけないやろ。あ~んなに悦さそうなん見てたらンなこと思わんわ」
    「……な、っえ?」
    「感想言うたら怒るかな思て控えとったけど、こら言うた方がよかったな。不安にさせてもうたみたいやし」
    「あっ、いや、……えっ」
    「夕飯食べたか?新幹線の便考えたらまだやろ。部屋行こ。泊るやろ?」
    「えっちょ、いや、」
    「ええからええから、ここまで来たんや、ゆっくりしてってや」

     ぺらぺらと喋る簓に肩を抱かれながらエレベーターに誘導され、ほぼ有無を言わせぬまま簓の自宅の部屋に辿り着く。空却には勘違いをした痛手と、変なことを口走ってしまった負い目があるせいで強く帰ると言い返すこともできず、結局はそのまま、やけに嬉しそうな様子の簓の手によって、ドアはパタンと閉められた。


     ――めでたしめでたし、っスね……!(by十四)
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    oimo91567124

    PROGRESS簓空全体 弱り簓さんと盧笙センセ蕭条


    人間は一生、人間の愛憎の中で苦しまなければならないのです。

    (ー『竹青』より  太宰治)



    酷く揺さぶり、欲の象徴たる怒張で力一杯貫き壊しても、失われた執着を取り戻そうとしてもどこか宙へ視線を揺蕩わせ「別れたい」と繰り返す恋人を抱く夢をみて飛び起きたのはマフラーを外しているのだろう轟音を立てるバイクの音が遠くで鳴る外が夜の深みを極め人間の気配が薄らいでいる丑三時であった。
    汗でTシャツが張り付き気持ち悪く、ドクドクと忙しなく鼓動が警鐘を鳴らすかのよう不快なリズムで体の内側から身体を叩かれる。
    息は浅く、吸っているのに肺まで満たらないような気がして回数は増えるばかり。

    …あぁ、またか。

    簓には昔から自分にもどうにもできない悪癖があった。他人に執着を覚える度、感情が大きくなる度、愛を捧ぐほど、同じだけソレを手放したくなり諦めたくなるのである。
    根底にあるのはついぞ、手中に出来なかった家族の団欒や無条件の愛の存在、成長途上で親から送られ教えられるその安堵感を与えられなかった事の傷がケロイドになりもう治せないのである。
    この悪癖を自覚したのは相方との離別の際。嫌だ嫌だと喚き 1807