早咲きの桜が咲き誇る帰り道。
めでたい卒業の日の帰り道も桜たちは何時ものように風に揺れ、薄桃色の花びらを散らし、二人の目の前を悪戯に過ぎる。
「……わ、」
ごう、と音を立てたつむじ風が地上から空に向かって抜けていくと副産物の花びらが一斉に宙を舞う。はらはらと、はらはらと、地面に、九門に、莇に降り注ぐそれは視界を優しい桜色へと一瞬で染めていく。
「すごい」
「…ああ、」
見事なまでの桜吹雪に目を細めて感嘆する九門を横目で一瞥した莇はそれだけ返すと唇を結んだ。今日で見納めになる制服の裾が風でふわりと舞う。しっかりとネクタイを締めてる姿なんて初めて見てしまったのは今朝の事、僅かな驚きがまた胸の中に戻ってきてちくちくと刺していく。
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