「あ」
洗濯当番中のある晴れた五月某日。
次々と干されていく洗濯物の中に見つけた黒いパーカー。一目で分かってしまう、莇のパーカーだ。洗濯籠の前にしゃがみ込んでジャージの下にいつもあるそれを洗濯物の中から引っ張り出して広げてみたら意外に大きかった。細いのを気にして少し大きめのものを着ている、と小耳に挟んではいたから、あーなるほど、と微笑ましく思い空に掲げるようにして広げたそれをゆっくりと下げながらオレはきょろきょろと辺りを見回した。一緒に当番してる紬さんと綴さんがシーツの山と格闘しているのを確認してからオレは莇のパーカーに顔を埋めて匂いを吸い込んだ。最初にやってきたのは柔軟剤の香り。東さんが定期的に貰ってるって言うその柔軟剤は全然匂いがきつくなくて、仄かに石鹸みたいなさっぱりした香りがして万人受けするってこういうのなんだろうなあ、なんて思う。
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