直接本人から聞いたわけじゃないけど、これが莇のストレス解消のひとつなんだと分かったのは出会ってから初めての冬を越した頃。ちょっと前までは年がら年中太陽を浴びて焼けていたオレの肌だけど、その時から特にケアをしなくてもそこまで状態が酷くなる事は無かったんだ。そんな意外とタフな肌を莇という美肌番長に鍛えられたもんだから、今ではこうして触られても文句も言われない状態へとレベルアップしていた。
最初の頃は化粧水とかパックとかついつい忘れちゃってたけど、番長のしごきっぷりにいつしかそれが身に付いてからは忘れることなんて一度も無かった。
「やっぱお前の肌にはあのオイル合ってたみたいだな。柔らかさが増してる」
「ちょっと柑橘系の匂いがするやつ?」
「そ。…ん、合格。弾力もしっかりあんな」
目の前の莇は、それはそれは嬉しそうにオレのほっぺたを両手で包んでいる。表情があまり変わってないから他の人から見れば莇が嬉しそう、だなんて分からないんだろうけど、オレには分かるんだ。莇のきれいな目がきらきらって輝いてるから。
肌の負担にならないように、ってまるで宝物でも扱うみたいに優しくほっぺたを味わう莇の機嫌は触れる前とは大違い。今年の夏もちゃんと日焼け止めも塗って、しっかりケアして莇に触って貰わなきゃとオレは隠した仄かな下心にこっそりと頷いた。