祈りにも似ていた百鬼夜行の後。一気に4級まで落ちた教え子を鍛える為、呪霊の湧く霊峰の上空へトび、落とした。
「え…?」
ぱっと手を離すと少し間の抜けた声が上がり、そのまま落下していく様を観察する。
特に何の説明もしなかった為、しばらく慌てふためいていたが、呪霊の存在を感知するとその動きが変わる。背中に背負っていた刀を抜き去るとすぐさま臨戦態勢に入り、落下のスピードを伴いながら呪霊へと刀を突き立てた。そしてそのまま地面へと降り立ち、残りの呪霊をばっさばっさと切り捨てていく。
「うん。いいね。ちゃんと対応できてる。ただ──」
全てを祓い終え、刀を鞘に収める憂太の姿に自分も地へと降り立ち声をかける。
「お疲れサマンサー」
「酷いですよ、先生。いきなり何も言わずに落とすなんて。」
「メンゴ。けど憂太なら大丈夫だと思ったんだよね。実際そうだったでしょ?」
「確かに、そうですけど……だからって、何の説明もなしなんて」
「それも含めてできるか見たかったから。」
そう言ってしまえば不平はそこでストップしたけれど。少しむすっとした表情を見せる教え子に、特級の力を有するとはいえやはりまだ子供だなと感じる。
「それで。僕は合格ですか?」
「百点満点。けど」
「けど…?」
それは、前から少し懸念していたことだった。
「憂太ってさ。もしかして、呪霊かわいそーとか思ってたりする?」
「まさか。そんなこと思ったこともないです。」
嘘を言ってるって訳でもなさそうだ。ならあれは、無意識のものか。
「だって呪霊は忌むべきもので、祓うべき存在でしょう。」
「まあ、そうなんだけど。」
杞憂だったかなと考えていると、憂太は少し思案してからまた口を開いた。
「憐れみ、とかはないですけど。呪霊に自我みたいなものがあるなら、それは生き物を殺すことになるのかなと。」
「罪悪感を感じるってこと?」
「いえ、そこまでは。彼らは所詮呪いですから。ただ。人から生まれた負の感情を祓うということは、浄化に似てるのかなとは思います。」
「ふーん。」
成仏しろよ、みたいな。そんな感情だろうか。自分にはないものだから、いまいちピンとこない。
祓うとは、神に祈って罪や穢れ、災いなどを取り除くという意味だ。ならそれは、本来正しいことなのかもしれない。そう踏まえれば、これまでの彼の戦い方や先程の光景にも納得がいく。
目を瞑り、祈るように呪霊に刀を突き立てた彼の姿に。それはどこか神聖な儀式にも見えて、美しいとすら感じた。
呪術師の仕事は綺麗なものとは無縁の、言わば汚れ仕事だ。それでもそういう風に見えてしまうのは、彼の心が綺麗だからだろうか。
軽薄と言われる自分とは大違いだなと、思わず笑みを零した自分に不思議そうな顔を浮かべる憂太に、何でもないよと告げ改めて宣言する。
「次はショッピングモールに行きます。」
「買い物でもするんですか?」
「ははっ。違う違う。呪霊わきわき廃墟モールでーす。」
「……何だ。先生とモール行けると思ったのに。」
「僕も一緒に行くから大丈夫だよ。」
「そうじゃなくて……もういいです。」
拗ねてしまった憂太に、少し意地悪が過ぎたかなと内心で笑って。それから
「嘘だよ。それが終わったらちゃんとしたモールでデートしよ。」
「!はい。」
途端笑顔になった憂太はやっぱり子供で、単純だなと思う。
まあ、そういうところがかわいいんだけど。
そんな年下の子に絆されて舞い上がってる僕も、大概大人ではないけどね。
「先生。早く行きましょう。」
「はいはい。」
うれしそうにはしゃぐ姿がかわいくて、五条は微笑みを浮かべながら歩き出した。
これは二年生憂太がアニメで初登場した時に私が感じたことで。それを元にこのお話を書きました。
なんかホント、美しすぎて天使が舞い降りたのかと思いながら何度も見返した覚えがありますw
今回ちょっと子供っぽくし過ぎたかなと思いつつ。年相応に先生に甘える憂太が書きたくて。
憂太は人に甘える時期に甘えられなかった子なので、先生にめちゃくちゃ甘えて甘やかされるといいと思います。