君に白の祝福を「先生。どうして僕の制服は白いんですか?」
彼にしてみれば当然の疑問だったことだろう。
同級生は皆黒の制服を身に纏っているのだから。
「乙骨憂太は、呪術高専で預かります。」
「いいだろう。だが、努々忘れるな。彼の力が暴走すれば、町一つくらい簡単に消えるということを。」
「分かってますよ。では。」
「五条。」
「まだ何か。」
踵を返そうとしたところで呼び止められ、内心面倒だなと思いながらも振り返る。
「乙骨憂太が要監視であることに変わりない。だから──」
「…………」
どこまでも白く、まるで彼の心を表したかのような無垢な色だ。いや、無知と言ってもいいかもしれない。
呪術など何も知らない子供が、ただ強大な力を持ったが故に危険と判断され、死刑を突きつけられた。
そんなのはフェアじゃない。せめて力の使い方を学ばせてやるべきだ。それからどうするかは、彼自身が決めればいい。
『制服は白。どこにいるかすぐ分かるようにだ。』
君は問題児だから、すぐ分かるようにって上の連中の指示なんだ〜。
はっきり言ってしまってもよかったけれど。
この子、繊細そうだからな。
「うーん。それはね、君が特別だからだよ。」
「特別?僕が?」
「白いバイソンって知ってる?」
「白いバイソン…、ですか?」
「そう。米国先住民の文化においては聖なる動物で、その誕生は神の祝福である、と考えられているんだ。」
「へぇ。そうなんですね。」
「君は嫌がるかもしれないけど。君の力は特別で、それこそ呪術師をしている人間にしてみれば、羨むほど類稀なるものだ。それこそ、神の祝福と呼ばれる程にね。」
「祝福……」
彼の今までの経験を思えば、そんな風には思えないし、文字通り呪いでしかないだろう。
それでも、その力がある限り持つ者の宿命からは逃れられない。
「けど、これだけは覚えといて。力を持つものには責任が伴う。望もうと、望むまいとね。」
「……はい」
解呪が終われば彼は一般人に戻る。
勿体ないとは思うけれど。それが本人の希望なのだから致し方ない。今は無事に終わることを祈ろう。
「…………」
米国先住民の間では、白いバイソンの子の誕生は、大きな変化の兆しという予言がある。そしてその誕生は、神の祝福であるとされる。同時に警告とも。
実際、白の呪術師の誕生は色々なところに波紋を呼んだ。いい意味でも、悪い意味でも。
何もなければいいけど。
「先生?」
「何でもないよ。さーて。今日もみっちりシゴくから、覚悟してね。」
起きてもないことを心配しても仕方ないし、変に不安を煽るべきじゃない。ようやく落ち着いて、彼本来の姿になったのだから。
『乙骨の秘匿死刑は保留だということを忘れるな』
「憂太」
「はい。」
「何があっても、僕は君の味方だから。」
「っ……ありがとう、ございます。五条先生。」
泣きそうな、うれしそうな。そんな表情を浮かべる憂太の頭を優しく撫でる。
いずれ別れの時が来るとしても、最後まで見届ける。大事な生徒を守る。それが、教師である僕の役目なのだから。
昔から、嫌な予感ほどよく当たった。それともこれは必然だったのか。
ずっと行方知れずだったあいつの痕跡を見つけた時、もう既に変化は起きていたのだと知った。
そして──
「悟ー!!久しいねー!!」
11年振りの再会だった。
乙骨憂太の存在が傑を表舞台に引き寄せ、結果百鬼夜行が起きた。
あの時。はぐらかす為に言った言葉は、本当に現実のものになった。
『傑。───。───。』
『はっ。最期くらい呪いの言葉を吐けよ』
「………………」
夕暮れ時。誰もいない教室で一人椅子に座っていると、その扉が開く音がして顔を上げる。そこにいたのは憂太で、おかえりと声をかける。
「先生。待っててくれたんですか?」
「当たり前でしょ。かわいい生徒の進級がかかってるんだから。で、どうだった。」
自分の正面まで歩いてくると、手にしていた一枚のカードが差し出される。それは学生証で、そこに記されていたのは特級を示す特の文字であった。
一度は4級まで落ちた。けど
「見事に返り咲いたね。」
外の桜が風に揺られる。まるで彼を祝福するように。
「おめでとう。ま、今の憂太の実力なら当然でしょ。」
「ですかね。」
少し照れくさそうに頭を掻く彼は、けれどとてもうれしそうで。本当によかったねと微笑んで、それから五条はそれまでとは一転して真剣な眼差しを向ける。
「乙骨憂太君。もう一度、力を背負う覚悟はあるかな。」
「っ…」
変わった雰囲気を感じ取ったのか。驚きに目を見開いていたが、少ししてまっすぐに自分を見据えて
「はい!」
「いい返事だ。じゃあこれは、僕からのお祝い。」
脇に置いていた紙袋を手渡し、受け取った憂太が中を確認して声を上げる。
「白い制服……。なんか、懐かしいな。」
サプライズと思って用意したけれど、憂太にはもう不要のものかもしれない。
「もう、白である必要はないんだけどね。」
「祝福なんですよね。」
思ったことをそのまま声に出せば、返ってきたのは思わぬ言葉で。
覚えてたのか。忘れててくれた方がよかったな。
なんて内心で笑いながら、ちゃんと説明しないとなと思う。
「憂太。それなんだけど」
「先生。分かってますから。僕はもう、大丈夫。」
『力を持つものには責任が伴う』
この子は、ちゃんと背負っていく覚悟を決めたんだ。
なら、僕が言うことは何もないな。ああでも。これだけは伝えておきたい。
「祝福ってさ、神から恵みを授けられるってことだけど。幸福を祈るって意味もあって。だからこれは、僕からの祝福。」
きっとこの先、色んなことが待ち受けているだろう。辛いこともたくさんあるだろう。それでも
「僕はいつでも、君の幸福を祈ってるよ。憂太。」
君に幸あらんことを。
何回も同じようなネタ書いてる気がするけど。
憂太の白制服ネタはいつまでも捏ねくり回せるんだよな。大好きだから。
先生に貰った初めてのものだから。僕の大切な宝物なんです。
と憂太さんも供述しており