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    owl47etc

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    呪専夏七。というか夏→七。入学したて。

    学校の寮生活と言うと、消灯時間は勿論のこと、大人数ゆえに食事も入浴も洗濯機を使う時間でさえも順番も時間も決められていて、共有スペースに置いてあるテレビ番組のチャンネル争いやら揉め事が耐えない。などと想像していたものの、東京都立呪術高等専門学校では1クラスが片手の指で足りる程度、場合によっては入学者ゼロの年もあるだとかで。オマケに任務で各々が寮を空けることが多々有り、おおよそ一般的な寮生活からはかけ離れた、穏やかな時間を過ごせていた。特に現2年生の3人はその実力から入学して1年と経たずに任務に駆り出され、数日顔を合わせないことも珍しくはない。

    だから、脱衣場で1つ上の先輩にあたる夏油と遭遇するのは、七海にとって初めての事だった。




    七海がシャワーを浴びに脱衣場に入った時、夏油はタイミング良くシャワー室への出入口から出てくるところだった。その時は軽く会釈と一言二言挨拶を済ませ、七海はさっさと服を脱いでシャワーを浴びた。これが五条であれば絡まれて無駄な時間を費やし、灰原と共に訪れたのであれば夏油と話し始めたであろう。心底1人でシャワーを浴びに来て、そして居合わせたのが夏油だけで良かったと安堵した。

    今日は訓練で土まみれになったから念入りに頭を洗ってからシャワー室から出ると、入れ違いに出て行ったはずの夏油が、未だ脱衣場にいた。寝巻きと思しき少々オーバーサイズのTシャツとハーフパンツ姿で備え付けの低いベンチに腰をかけ、男にしては珍しい、肩より長く黒い髪を丁寧にブローしていたのだ。
    シャワーを浴び終えたあとの夏油は頭にタオルをかけていて気付かなかったが、普段は髪を団子にしてまとめている。お団子を作れる程なのだからそれなりに長さがあるであろう。そう言えば髪を解いたのを見るのは初めてかもしれない。湯冷めしないようにバスタオルで身体を拭き、寝巻きを身に付けつつも、七海の視線は初めて見る夏油の姿を追っていた。
    慣れた手付きで櫛を髪の根元から先へと通しながら、ドライヤーでブローをかけていく。七海がシャワーを浴び始めた時からしているのだろう、夏油の髪は傍目には濡れているようには見えず、最後の仕上げに入っているようだった。
    髪の色こそ違うものの、母が同じように丁寧に髪を乾かしている姿と重なり、七海は首を振った。断じてホームシックなどではない。たまたま思い出しただけだ。浮かんだ光景を振り払うように、七海は乾いたタオルでがしがしと乱雑に髪の水分を拭い、洗濯物を持参していたバッグにこれまた適当に詰め込んだ。どうせこの後洗濯機に放り込むのだ。畳む必要などない。頭を拭いてほんのり湿ったタオルを最後にバッグに詰め、忘れ物がないか周囲を見渡していると、物静かな脱衣場で唯一聞こえていたドライヤーの起動音が鳴り止んだ。


    「使うかい?」


    そう言って、夏油がドライヤーを持った右手を七海の方へ差し出してくる。高専の脱衣場には、ドライヤーなど備え付けられていない。七海も男にしてはそれなりに長い髪をしているから部屋にドライヤーを置いている。差し出されたドライヤーは夏油の私物だろう。長い髪を乾かすためか、七海の部屋にある安物に比べると大きく、つい先程まで聞こえていた音からして相当勢いのある熱風を吹くに違いない。


    「部屋にあるので大丈夫です。」

    「なんだ。ずっと見てたから、使いたいのかと思ったよ。」


    申し出を断った七海に、夏油は少し目を丸くした後、ドライヤーのプラグを抜いてコードをまとめていく。そんなに見ていただろうか。押し黙った七海に、夏油はくすくすと笑いながら、鏡、と一言だけ発した。
    夏油の座っていたベンチの前には洗面台がある。鏡に写った自分と目が合い、七海はバツが悪そうに目を伏せた。初めて見る姿に視線をやったのは自覚しているが、髪を乾かしている夏油からは見えないだろうと思っていたのだ。すみません、と呟けば、七海も髪が長いからね、と返ってきた。


    「その、…夏油さんが髪を下ろしてるの、初めて見たので、つい…」

    「そうだっけ。」


    風呂上がりは大体こうだけどな。夏油は自分の頭を指さして見せる。だが、生憎七海は寝る前の夏油を見たことがない。任務で寮を空けることが多い夏油と、一般家庭からの推薦で呪術のじゅの字も知らない、学校の授業くらいしか運動なんてしたことなどなくて授業終わりはクタクタで部屋に戻る七海が夜間に寮で出くわしたことはなかった。
    改めて目にすると、夏油の髪は家入よりも長く、良く手入れされているのか、毛先は少し外側に広がっているが、綺麗に伸びて艶ややかである。学生服を脱ぎ、髪を降ろしているとたった1つしか違わない、自分と同じ学生のはずの夏油がいつにも増して大人びて見える。髪型でこうも印象を変えるとは。それにしても。


    「…乾かすの、大変そうですね。」


    七海がシャワーを浴び終わるまで乾かし続けていたのだ。それなりの時間を要しただろう。この長さですら温風を当て続けるのは面倒だと言うのに。まだほんのり湿った自分の髪に触れながら七海は零した。自分ならそこまで伸ばさずに切るだろう。ドライヤーを片付け終えた夏油は、すっかり乾いた髪をひと房掴み指で弄り出す。


    「まぁね。でも朝は楽だよ。寝癖ついてても縛ってまとめるだけだから。それに私、髪が細くて柔らかいんだよね。」

    短くすると立たないしセットも上手くいかないんだ。パーマもすぐ落ちちゃうから意味無くてさ。かと言って中途半端な長さだと邪魔だし暑くてね。ほら。

    夏油は毛先を適当に掴むと、耳の高さまで持ち上げてから手を離して見せた。よく見かけるシャンプーのCMのようにさらさらと流れるように落ちる髪は、確かにボリュームも出にくく、少なくとも五条のようなスタイルは難しいだろう。てっきり何か拘りがあって伸ばしているのだとばかり思っていたが、意外な理由に思わず七海の口元が緩む。髪型を気にするあたり、やはりこの人は自分と差程変わらない男子高校生なのだ。数少ない特級呪術師で、普段から落ち着いて大人びている夏油が途端に身近な存在のように思え、七海はこそばゆさを感じていた。
    お風呂上がりで気が緩んでいたことと、手の届かない人だと思っていた先輩の年相応らしいところを見たせいだろう。気がつけば七海は思っていたことをそのまま口にしていた。それを聞いた夏油は、ふは、とこれまた如何にも男子高校生らしく大きく口を開けて笑って見せた。


    「結構評判良いんだ、これ。」

    「確かにお似合いだと思います。」


    世の女性が羨む絹のように艶のある濡れ羽色は、夏油の纏う同性すら惹きつける色気を醸し出す要素の1つだろう。世間一般的に男性の長髪は良い印象を与えないと言うが、夏油に限っては寧ろ彼の品の良さを引き出していた。
    男女限らず長い髪というのは手入れも大変で、ただ放置して伸ばすだけではここまで整わない。母も長髪であったから、その苦労は七海も僅かながらではあるが知っている。伸びてくると途端に量が増えて野暮ったくなり、湿気の多い日は髪がまとまらないと愚痴り、毛先も傷むからと、こまめに美容院に通っていた。
    周囲への印象や身嗜みにも気を使う人なのだと関心していた七海だが、どうも夏油の言いたいことは違ったらしい。七海に視線を合わせ、すっと目を細めて口角を上げて見せる。ああ、この笑みは知っている。あまり良くないことを考えている時の顔だ。


    「髪を解く時なんて限られているだろう?そういう優越感と、汗ばんだ髪をかきあげる仕草がイイらしいよ。」


    にやり。妖艶さを孕んだ瞳を七海に向けながら、夏油は男らしい筋張った手で顔にかかった前髪を後ろに撫で付けるようにして見せる。悔しいかな、夏油の言う通り、その動作は様になっていた。
    ようやく夏油の言いたいことを理解した七海は、顔に熱が集まるのを感じて小さく舌打ちをした。前言撤回。大人びてるのはガワだけで、中身は初心な後輩を揶揄って楽しんでいる遊び人だ。外面の良さに加えて性格も取り繕うのが上手いから夏油はモテるのだ。いつぞや家入から聞いた武勇伝という名の手癖の悪さを思い出し、七海は数分前の自分の言動を後悔した。そうだ、何だかんだあの破天荒で子供のような五条と肩を並べて友人をやっている。五条のせいで相対的に目立たないだけで、夏油も中々に癖のある性格なのだ。

    これ以上相手にするのは面倒なことこの上ない。遅いので失礼します、と七海は雑に話を切り上げ、洗濯物の入ったバッグを手に持ち夏油に軽く会釈をする。夏油の方はまだ座っているベンチに荷物が置かれたままだった。このまま脱衣場を後にしてしまえば絡まれることもないだろう。珍しいものを見かけたせいでとんだ目に合わされた。最後におやすみなさい、とでも声をかけて会話を完全に終了させておこう、などと考えながら歩を進めていた七海だったが、突如として目の前に現れた壁に足が止まる。
    顔を上げると壁、もといベンチから立ち上がり、七海の前に立ち塞がった夏油が嬉々として七海を見下ろしていた。絡まれたくない一心で七海は夏油を視界に入れないようにしていたため、夏油が音もなく近付いていたことに全く気付かなかった。無駄に高い身体能力をこんな所で発揮しないで欲しいものである。夏油は心底嫌そうな表情を隠しもしない七海の気持ちなど汲むことなく、まだまだ発展途上の薄い肩に手を手を置くと、押し倒すように力を入れ始めた。


    「ちょ、夏油さっ、」


    体格も力も敵わない上に、身構える暇すら与えられなかった七海の身体は簡単に後ろに倒れる。咄嗟に片足を下げて踏ん張ったため床に倒れることはなかったが、仰け反った体勢はつらく、今も尚上から掴まれたままの肩に力をかけ続けてられていて油断できない。このままでは倒れるのも時間の問題だ。腕で押し返そうにも夏油の厚い胸板はびくともしないし、抗議の声も聞く気がないのか相変わらずにこにこと笑ったまま、一歩前に踏み出して身を乗り出してきた。そのまま近付いてくる顔に唾でも吐きかけてやろうかと不穏なことを考えはじめたところで、重力に従ってぱらぱらと、夏油の髪が七海に向かって落ちてくる。夏油の顔がほぼ真上にあるせいで、愉快そうな夏油の表情と、帳のように垂れ下がる漆黒の髪のみが七海の視界を覆った。夏油の使っているシャンプーだろうか、ミントのつんとする香りが鼻を打つ。夏油と七海の2人だけ。ここは高専で、共有の脱衣場のはずなのに、たった2人だけが別の空間にでもいるような錯覚を起こさせる。抵抗するのももう限界だ。


    「…ね、私しか見えないって、特別な感じがするだろう?」


    全身にかけられていた力が抜け、その拍子に倒れかけた七海の身体を夏油の腕が抱きとめる。自身の身に何が起きたのか分からずにぱちぱちと瞬きをし、周囲を見渡す。ここは高専。脱衣場。腰に回された夏油の腕が七海の身体を起こす。こうなった原因も夏油だが助けたのも夏油だ。悩んだ末、一応礼を伝えようかと口を開きかけて、七海は止めた。

    イタズラ大成功。

    夏油の顔にはでかでかとそう書かれていた。大笑いこそしていないが、口元はひくひくと痙攣しているし、肩も震えて如何にも笑いを堪えてます、というのが見て取れる。


    「あぁ、でも寮生活だと何時でも見られるからそう珍しいものでもないか。七海は見放題だね。」

    「…そういうのは、意中のお相手にでもしてくださいよ。」


    いよいよ耐えきれず、夏油は声を出して笑い出した。こうなりたくないからさっさとこの場を後にしようと思っていたのに。七海は盛大に息を吐き、ゲラゲラと腹を抱えて笑う夏油をひと睨みする。腹をかかえて下を向いている夏油には見えないだろうが。一方的な取っ組み合いで乱れた髪と衣服を軽く整え、七海は今度こそ本当に脱衣場をあとにすることにする。先輩に良いように揶揄われ、腹いせのように脱衣場のドアを叩き付けるようにして閉めて出て行った。
    1人残された夏油は未だにおさまらぬ笑いをそのままに、笑いすぎて出てきた涙を適当に拭うと、持ち込んだドライヤーや湿ったタオルを拾う。それにしても七海の反応は面白かった。夏油の言わんとするものが夜の、それも男女での話だと分かるや否や頬を赤らめるから、夏油の加虐心が煽られたのは七海本人も気付いていないだろう。もしかしたらお風呂上がりのせいで、自分が赤くなっていたことすら分かっていなかったかもしれない。今頃どかどかと足音を立てながら廊下を歩く七海の姿が思い浮かび、またもや夏油の笑みは深くなる。

    …だから七海にやって見せたんだけどな。

    しんとした脱衣場に、夏油の欲を孕んだ声は良く響いた。
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