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    フスキ

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    フスキ

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    水麿小説、二人の出会いを真面目に妄想してみた編。
    まろくんのほうが先に顕現していた場合です。

    #水麿
    mizumaro

    君に会いたかった(水麿) 源清麿とはこの程度なのか。最初の訓練でそう言われて、腹の底が怒りで爆発しそうになった。
    「江戸三作の刀がこれではな。実装計画は尚早だったんじゃないか」
    「新々刀としていい働きを見せてくれると思っていたのに、期待外れだ」
     人間たちは清麿に勝手に期待をして勝手に失望したようだった。抗う力だってあるはずなのに、好き放題並べる人間にこの手は刀を向けることさえできない。
     政府の人間たちが次に唱え始めた言葉はひとつに集約していった。
    「来たるべき祖の実装に向けて、お前が新々刀の誇りを示さなければいけないんだ」
     新々刀の祖。水心子正秀。当然のように認知していた自分すらなんだか憎らしかった。人間たちは彼に酷く期待を寄せているようだ。
     ――きっとそれだって期待外れになる。君たちの底知れぬ欲に汚されて。
     そう思って奥歯を食いしばって生きた。……生きるって、こんなにも気持ちの悪いことなのだ。自分を打った刀工の温かな手を忘れそうなほどに、政府での日々は冷たかった。

     ついに水心子正秀が顕現されるのだと耳にして、清麿はまた深く俯いた。
     政府での顕現から一ヶ月が過ぎた頃には、清麿はすっかり水心子正秀というものが嫌いになっていた。毎日毎日『新々刀の祖のために働け』と呪いをかけ続けられてきたのだ。そうだ、呪い以外の何物でもなかった。刀工に多少の接点があったとして、刀剣男士の源清麿にとっては見ず知らずの相手でしかない。それなのにどんな心を寄せて手足になれと言うのだと、八つ当たりのような恨みしか湧いては来なかった。
     訓練所を出て、政府施設の渡り廊下を歩く。食堂に行かなければならないのだが、どうにも食欲は湧かなかった。食事時間をすっぽかして外で寝ようかな、なんてことを考えていたら、中庭に人影が見えた。
     黒髪と黒い装束。自分の正装に少し似ている。けれどそれより先に、てるてる坊主みたいだな、という子供めいた思考が脳裏を巡った。
     その少年がくるりと振り向く。目が合って思わず肩を跳ねさせると、彼は咳払いをして近づいてきた。
     高い襟で隠された口元から、声が届いてくる。
    「すまない、B棟に行けと言われているのだが、場所を知らな――」
     目の前一メートルほどのところまで寄ってきて、彼は目を見開き立ち止まった。なにか酷く衝撃を受けた顔だ、襟で良く見えないけれど。不思議に思って視線を返していると、ふいに彼から幼い声が漏れた。
    「……きれいだ……」
     ぽかんとする。瞬きをして、清麿は尋ねた。
    「……まさか、僕が?」
     彼はこくこくと頷く。食堂のテレビで見た、赤べこのようだと思った。
    「あの、……違ったら申し訳ないのだが、君はもしかして、源清麿?」
     さらに目を丸くした。どうして知っているのだろう。
    「そうだけれど、どうして……」
    「ああ、いや、……源清麿が顕現していると聞いた時、きっと美しい男士なのだろうと思ったんだ。それが想像以上に美しかったものだから……すまない、驚いて、嬉しくなってしまった」
     勝手にすまない、と重ねながら、彼の目元は柔らかに緩んでいる。先程までの緊張したまなざしではなくて。
     最初はとっつきにくそうな印象だったけれど、どうやらそうでもなさそうだ。少し安堵して、それから彼が言いかけていた言葉を思い出す。
    「B棟に行きたいんだよね。案内するよ、一緒に行こう」
    「え、でも、何か用事があったのでは」
    「いいんだ、別に。食事の時間だからと思ったのだけれど、食欲がないからサボろうとしたところだったし」
     そう笑ってB棟に足を向ける。彼は慌てたようについてきて、横に並んでから、少しだけ顔を顰めた。
    「……食事は摂らないと駄目だろう。人の身なんだぞ」
    「あはは、君は真面目だね」
     返してから、やっと可能性に思い至った。この格好、整った顔。――もしかして。
    「君も、刀剣男士かい?」
     尋ねると、彼は少しはっとした顔をした。ああ、と頷かれる。
    「そうなんだ。他の男士とあまり交流がないものだから気づかなかった……名前は?」
     そこで彼は困ったように眉を下げた。唸るような声が届いて、自分がずいぶん配慮に欠けた質問をしてしまったと思い至る。
    「ごめんね、言わないでいいよ。実装時期とかあるものね、まだ名乗ってはいけないとか言われていたんだよね……聞いてしまってごめん」
    「そんな、謝ることじゃない!」
    「だって、無遠慮に踏み込もうとして……これじゃ、ここの人間たちと変わらないよ」
     思わず零れた言葉に、彼が目を丸くした後に眉をひそめた。立ち止まってしまったので慌てて清麿も足を止めたら、その黒手袋の手に手首を掴まれた。
    「……嫌なことでもされているのか」
     あ、と声が漏れて、首を左右に振る。なにを言わなくていいことを言ってしまったのだろう。
    「大丈夫! 大したことじゃないんだよ、暴行や虐待があるわけでもないし」
    「でも何か、嫌なことを言われたりしたんだろう」
     聞かせて、そう耳に届く優しい声。どうしてこんなに胸が締めつけられるのか分からない。彼が喋ると胸が痛い。それなのに頭がふわふわする。正常な判断ができない。
    「……『新々刀の祖の手足となるべき刀が、その程度の働きしか出来なくてどうする』」
     彼の顔が歪む。反して清麿は笑った。
    「それが、僕の担当者さんたちの口癖でね。僕はどうやら期待外れだったみたいだ、顕現はしたけれど、実装させてもらえるかは怪しいものだよ」
    「そんな」
    「いいんだ、でも。……水心子正秀を恨むのも、もう、疲れたし」
     彼が纏う空気が、また硬質なものに戻ってしまったようで、なんだか惜しい気持ちになった。先程のように柔らかな目元になれるのに、彼は今強張った表情をしている。
    「……水心子正秀が、嫌いなのか」
     そうか知っているのか、と思って、まあ源清麿を知っていれば当然だったかと納得する。なにせ新々刀の祖、知名度が高くても当たり前だろう。
     少し悩んでから、清麿は首肯した。彼の表情がさらに苦くなる。
    「最初は……きっと好意的に思っていたはずなのだけれどね。でも、担当者たちに呪いをかけられたんだ。水心子正秀を好きでいられないって呪いを」
    「呪い……」
    「……でも、好きになりたいなあ。誰かを嫌うのは、心がささくれ立つし、その相手のことも不幸にしてしまいそうで嫌なんだ」
     彼が、ゆっくりと瞬きをする。
    「……君は、嫌いな相手のことも、不幸にしたくないと思うの?」
     そう言われてしまうとなんだか大層な思想のようだけれど、実際はそんなすごいものじゃない。清麿は苦笑して右手をぷらぷらと振った。
    「言っただろう、心がささくれ立つのが嫌なだけだよ。僕のためにそう思うだけ」
     ――ふいに、彼の目が細められる。温かくて慈しみ深いまなざしが向けられて、ずきんと胸が鳴いた。
    「……僕は、君が好きだな」
     唐突にそんなことを言われたので、驚いて、それから清麿は慌てて向き直った。
    「あ、ありがとう?」
     どもりながら返すと、彼は柔らかに笑った。人好きのする笑顔だった。
    「……ああ、あの先がB棟?」
     彼の目線が動いて、廊下の先の掲示を指さす。そこにはB棟への案内が下がっていた。
    「うん、そうだよ」
    「そうか、じゃあ、ここまででいい」
     ありがとうと彼は笑う。清麿はぶんぶん首を振った。結局何もしなかったようなものだ。
    「また会えたら、よろしくね」
     そう告げると、彼は微笑んで、清麿を捕らえていた手を放す。
     長い外套が翻り、去り際、彼は笑ってこう言った。
    「その時は、好きになってもらえるように頑張るよ!」

     ――その言葉を受け取った時に思い至るべきだった。三日の時が過ぎ、政府施設の一室で再び向かい合った彼の名前を聞かされてやっとそう思った。
    「私は、水心子正秀。同じ名の刀工の打刀だ。これから君と同じ任務での実装を目指し戦うことになる。よろしく頼む」
     間違える訳がない、確かにあの日出会った彼だ。あの、彼が、水心子正秀。
     呆けていると、後ろから肩を少し乱暴に叩かれた。清麿の担当者だ。新々刀の祖への信仰心に似た思いの厚かった人だ、非礼をするなと言っているのだろう。清麿は慌てて頭を下げた。
    「ぼ、僕は源清麿。あの、あの日は――」
     謝罪を並べようとしたその瞬間、横でがっと音がした。人の唸り声が聞こえて、不思議に思い顔を上げる。
     水心子正秀の手が、清麿を叩いた担当者の手首を握り締めていた。
    「いっ、だだだだだだ」
    「彼に乱暴をするな。人間である君が、刀剣である彼に気安く触っていいはずがないんだぞ」
     呆然と見つめていると、担当者の悲鳴が切羽詰まったものに変わった。痛いのだ、とやっと気づき、清麿は慌てて止めに入った。
    「すい、――水心子! だめだ、放して!」
     彼の手を掴む。するとその手は引き剥がすまでもなくあっさりと担当者から離れた。
     そうしてぱっとこちらを見る目が、やたら無邪気にきらきら輝いている。
    「……水心子、って、呼んでくれるの?」
    「え」
    「じゃ、じゃあ、僕は清麿って呼んでもいい?」
     わくわくと胸を高鳴らせる子供のような声。たった今殺気立っていたのと同じものだなんて思えないくらいに異質だ。
    「……駄目?」
     呆然としていると、彼が不安そうに問いかけてくる。はっとして首を振った。
    「い、いいよ、清麿で大丈夫」
    「ほんと? ありがとう、清麿!」
     細められた目が、なんだか狂気的にさえ見えてくる。確かに刀剣なのだ。気まぐれを起こせば、人なんて簡単に斬り払ってしまえそうな。
     けれど、それがやけに魅力的に目に映る。どうしてだろう、僕おかしいのかな。そう惑っているうちに、彼がまた硬質な顔になって担当者たちのほうを向いた。
    「……これから我々は同室で生活する。そういう話だったな」
    「あ、ああ」
     頷く担当者を尻目に、水心子は清麿の手を取った。また外套が翻って、清麿のそれと裾がぶつかる。
    「それでは、我々はこれで失礼する。――明日からの合同訓練で、結果を示してみせよう」

    「す、水心子、あの」
     廊下をしばらく行ったところで、やっと水心子に声をかける。彼は早足だったのがようやく立ち止まり、くるりと振り向いてくれた。
    「なに? 清麿」
     あまりにも何も気にしていなさそうな振る舞いに、逆にトーンダウンしてしまいそうだ。それでも謝らない訳にはいかなくて、清麿は水心子に頭を下げた。
    「――あの、あの日は、ごめん! 嫌いなんて言って……まさか本人だったなんて、思ってもみなくて」
     己の洞察力のなさが嫌になる。自己嫌悪でどうにかなってしまいそうで、顔を歪めて俯いて言葉を探していると、ふいに頭を撫でられた。
     驚いて顔を上げる。清麿の軍帽を奪った水心子が、やっとこっち見てくれた、と笑った。
    「いいんだよ、謝ることじゃない。君はそういう呪いをかけられたんだろう」
    「……そう、言ってしまったけれど……」
    「でも、呪いでよかった。呪いなら、解くすべもあるのが必然だろう?」
     きょとんと彼を見る。水心子がまた、頭をぽんぽんと撫でてくれた。
    「最初がマイナスでも、僕は構わないよ。言っただろう、好きになってもらえるように頑張るって」
    「そ、そんなの!」
    「僕は清麿が好きだからね」
     これも言ったけど、と悪戯っぽい笑み。さあっと頬が熱くなる。そんな清麿を、彼はまるで愛おしいものを見るような目で見るのだ。
    「いつか好きになってくれるように。僕はそれを目指すだけだから」
     眩しい、笑顔。光り輝いて見える。こんな相手がいるのだ。人間たちとは確かに違う。刀剣男士だからなのか、それとも彼が特別なのか。
     そんなことすら、まだ分からない身だけれど。
    「……もう、……達成されていると思うよ……」
     恥じらいつつそう零すと、彼はあははっと嬉しそうに笑って、清麿の頭に軍帽を被せ直してくれた。

     天保の江戸の街並みを見下ろす。自分が生まれないかもしれない世界だ。ここで清麿と水心子は、政府での最後の任務につく。
     水心子はずっと強張った顔をしていて、それがなんだか惜しい。清麿が失われることを恐れてくれているのは嬉しいのだけれど、それよりも彼にはもっと。
    「水心子、本丸への通達を送らないと。機材の使い方は分かるかい?」
    「うぐ、に、苦手なんだけどな……」
     くにゃりとよじれるその表情に、清麿は声を上げて笑った。

     それでいいんだよ。君はそういう顔を僕に向けていて。たとえ最期の時が訪れたって、君がそうして僕を見ていてくれるなら、僕はそれでいい。
     結果的には僕はいい駒になっただろう。まさに水心子正秀の手足、政府の望んだ存在に育った。
     けれどそれを育てたのは政府の人間たちではないし、彼らのための成長でもない。このすっかり厚くなってしまった水心子への忠誠心は、政府からしたら諸刃の剣だ。
    「清麿、これ? ここ押すの?」
    「そうだよ。切る時と混同してしまうよね」
    「うーん、ややこしいな……」
     彼が喋っている途中で通信が繋がる。あ、今の音声、拾ってしまったかも。

     そうして日々はまた始まる。君の手で始められる。
     ――それならどうか閉ざされるのも君の手で、なんて、褒められたものではない想いを抱いて、そっと前を向き直した。
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    フスキ

    DONEまろくんが天使だったパロの水麿、すいくん風邪っぴき編です。
    ひとは弱くそして強い(水麿天使パロ) 僕の天使。嘘でも誇張でもない、僕のために人間になった、僕だけの天使。
     水心子は、ほとんど使っていなかった二階の部屋に籠もり、布団をかぶって丸まっている。鼻の詰まった呼吸音がピスー、ピスーと響くことが、いやに間抜けで、布団を喉元まで引き上げた。
    「……水心子」
     僕だけの天使、が、ドアの向こうから悲しげに呼びかける。
    「入らせて。ね、顔が見たいよ」
     清麿は、心細くて堪らないような声でそう言った。ぐっと息を詰める。顔が見たい、のは、こちらだってそうだ。心細くて堪らないのだって。けれど、ドアを開けるわけにはいかない。
     水心子は風邪を引いてしまった。もとより人である水心子は、きちんと病院に行き診察を受け、薬を飲んで今ここで寝ていられる。けれど、一緒に暮らす清麿は、元が天使だ。医療を受ける枠組みの中にいない。もし彼に移してしまって、悪化してしまっても、水心子には術がない。天使だったのが人になった身なのだ。病院で診られて、もしどこかに普通の人とは違う部分があって、それが発端となり彼を失うことにでもなったら。
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