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    フスキ

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    恋人がさんたくろーすな幼児水の水麿小説。鶴丸さんと清光と一緒にクリスマスにお留守番をする幼児水です。メリークリスマス!

    #水麿
    mizumaro

    こいびとが(幼児水×麿)「恋人がサンタクロースなんだよ、水心子ぃ!」
     加州が半分閉じかけの目をしてそう喚きグラスをテーブルに置く。その目の前できょとんとする幼児を眺めながら、鶴丸は引きつった笑いを漏らした。
    「……また、ずいぶん派手に酔ったなあ、きみは……」
     珍しくも泥酔しきった加州清光は、だって、と声を上げたあと唐突に泣き出した。子供のように声を上げてである。本物の幼児の身の水心子はびっくりしたように肩を跳ねさせたので、そっとこちらに引き寄せた。
    「だって、だってさあ、せっかくのクリスマスなのに! こんな日に一人にするとか主ばかだよ~! 恋人がいなくたってせめて仲間と祝いたいのに! なんで俺だけ残して出陣なのさ~!」
     びえええ、と表記するほかない泣き声に、さすがに同情心は湧いてくる。
     クリスマスで世間が浮かれる今日この日も、時間遡行軍は侵略の手を止めてはくれなかった。一部の男士は出陣が命じられて、その部隊には加州以外の新撰組刀が名を連ねた。
     手を振って出ていくのを名残惜しそうに見ていたのは知っていたが、あれでも我慢していたほうだったのだろう。慰めにと宴会に呼んだのがいけなかったかもしれない、加州はしこたま酒を飲んで、べろべろに出来上がってしまっている。
     それは可哀想だと鶴丸も思うのだが、自制心は働くべきだとも思う。なにせここにはもう一人、ひとりぼっちがいる。
    「水心子だって一人で耐えているんだぞ? きみが背中を示してやらなくてどうする」
     そう、水心子の親友で世話係たる清麿も、今日新撰組刀たちと共に出陣していった。幼子は健気に一人で彼の帰りを待っているのだ、同じ空間で。
     加州がひぐっと鼻をすすった。普段気にする可愛さはどこへ行ったのか。
    「だって! だってさあ~……」
     なおもぐずる加州の横に、ふいに水心子が歩み寄った。顔を上げると、真面目な表情に出会う。
    「……さんたさんは、ぴよまろなの?」
     アッ、と声が漏れた。加州を咎めようと視線を向ければ寝落ちる寸前の顔が見えて、今日はどこまでも自由人らしいと思い知らされる。歪む笑いを浮かべたまま彼をとりあえず畳に寝かせているうちに、水心子はうんうん唸り出した。
    「すい、水心子? 気にすることないぞ、加州の言ったのは」
    「さんたさん、まだぼくのところにきてくれたことないけど、ぴよまろなんだあ……」
     次第に何か納得した様子で頷くので、どうやら彼の中で彼なりの理解は進んでいっているらしい。おいきみ後で清麿に殺されるぞ、と加州に思うが彼はもう夢の中だ。
    「ショックかい?」
     問いかけてみる。水心子は首を傾げたあと、ぶんぶん振って否定した。
    「だって、すごいよね。ぴよまろ、とうけんだんしなのに、さんたさんもしてるんだ!」
     輝く瞳はそう理解したらしかった。――少し、圧倒されてしまって鶴丸は目を細める。
     新々刀の祖として、何も恥じることのないような感受性。この歳で、恋人と言われてたった一人を迷いなく挙げる一途さ。すべてを前向きに受け入れる素直さ。眩しくて堪ったものじゃない。
     感心している間に、幼児ははっとした様子で眉をハの字にした。
    「でも、じゃあぴよまろ、かえってきてもやすめないの? こんどはさんたさんのおしごと、しなきゃいけない……?」
     なるほど言われてみればそうなる。刀剣男士として出陣して、帰ったらサンタクロースとしてプレゼントを配らなければいけない。そうならそれはものすごい激務だ。
    「どうしよ、しんぱいだよお……ぴよまろ、つかれてるのに、またおしごとなんて……」
     その目がじわじわ滲んでいく。慌てて肩に手を添えた。上向く大きな目に、目一杯笑いかけてやる。
    「大丈夫だ! なんせ、俺もさんたくろーすだからな!」
    「つるまるどのも?」
    「そうさ、さんたは一人じゃない。貞坊たちに教えてもらっただろう?」
     いい兄貴分である短刀たちに、彼はサンタクロースの村のことを教わっていた。クリスマスの準備をする最中の一場面を思い出してそう言えば、こくこくと頷かれる。
    「だから、俺が清麿のぶんも代わってやる。そうすれば清麿も休めるぞ」
     これで解決だ。そう思ったのに、水心子は複雑そうな顔をした。あれ、と目を丸めた時、彼はでもと紡いだ。
    「それじゃ、つるまるどの、やすめないよ! ぼくとぴよまろだけよかったらいい、なんて、ぜったいだめだって、ぴよまろいつもいってる!」
     視界が、ちかちか瞬いた。
     ――ああ、きみは確かに育まれているのだ。きみが優しいのは優しい人に育てられているからなんだな。その優しさで互いを想い合うのだから、まったく新々刀というものはなんと愛情深いのか。
     微笑んで、鶴丸は水心子の頭を撫でた。
    「……きみに、さんたの秘密を教えよう」
    「ひ、ひみつ?」
     声をひそめると、幼児もまた身を縮めた。秘密といえば、とでも言いたげに人差し指を口の前にかざすのが可愛くて、つい笑ってしまいながら。
    「さんたには、担当があるのさ。俺と清麿はこの本丸担当のさんたくろーす。他のところには、元々行かなくてもいいんだ」
    「そう、なの?」
    「ああ。だから仕事も大した量じゃない。それに俺はこの仕事が好きでな、清麿が代わらせてくれるなら万々歳なんだ」
     ぱちぱち瞬きをする彼に、にっと笑う。
    「――それよりだ。きみも、さんたくろーすになってみないかい?」


    「ただいまー……あれ、水心子、まだ起きていてくれたの?」
     戦闘服のままの清麿が、部屋に入ってくるなり驚いて目を見開いた。その後ろから入ってきた大和守は、『こいつは寝てるけどね』と加州を呆れた顔で見下ろしたが。
    「おかえりなさい、ぴよまろ、あのね、あのね、ぼくもさんたさんなんだよ!」
     幼児の言葉に清麿が大きなハテナを浮かべる。そういう図が見えるような光景だ。水心子はぴょんぴょん飛び跳ねて、しゃがんで! と喚く。
     言葉に沿ってしゃがみこんだ清麿の手を、幼児は取った。
    「ぼく、さんたさんだから、ぴよまろにぷれぜんとあげるね!」
    「え? すいしん」
     ――ちゅ! と、可愛らしいリップ音。
     頬にキスを受けた清麿は、じわじわそこを染めていく。瞬きをする彼に、水心子はえへへと笑った。
    「ぷれぜんと! おつかれさま、ぴよまろ、よくがんばりました!」
     腰の下までの外套が、畳に降りる。清麿は幸せそうな笑顔で水心子の身体を抱き締めた。
    「――……ありがとう、水心子!」
     最高のクリスマスプレゼントだ、と笑う彼を、それを受けとめる幼子を、鶴丸は盃を傾けて見つめていた。
    「おいおい、潰れてんのかよ清光……」
    「清光くん、ここで寝たら風邪引いちゃうよー」
    「おれが運ぶか?」
    「お願い長曽祢さんー」
     どやどや部屋に顔を出した新撰組刀たちが加州を連れていく。水心子も清麿に手を引かれて自室に帰っていった。一人になった鶴丸は、伊達の縁のものたちのところにでも行こうかと腰を浮かせる。
     恋人はサンタクロースで、けれど加州にとっては仲間たちがそうだろうし、鶴丸にもそれが当てはまる。それぞれにそれぞれのサンタクロースがいる。それでいいのだ。八百万に神が宿るように。
    「……なんて、若干外れている気もするがなあ」
     一人呟き、笑い飛ばした声は、寒い廊下から空気へ溶けて見えなくなった。
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    フスキ

    DONEまろくんが天使だったパロの水麿、すいくん風邪っぴき編です。
    ひとは弱くそして強い(水麿天使パロ) 僕の天使。嘘でも誇張でもない、僕のために人間になった、僕だけの天使。
     水心子は、ほとんど使っていなかった二階の部屋に籠もり、布団をかぶって丸まっている。鼻の詰まった呼吸音がピスー、ピスーと響くことが、いやに間抜けで、布団を喉元まで引き上げた。
    「……水心子」
     僕だけの天使、が、ドアの向こうから悲しげに呼びかける。
    「入らせて。ね、顔が見たいよ」
     清麿は、心細くて堪らないような声でそう言った。ぐっと息を詰める。顔が見たい、のは、こちらだってそうだ。心細くて堪らないのだって。けれど、ドアを開けるわけにはいかない。
     水心子は風邪を引いてしまった。もとより人である水心子は、きちんと病院に行き診察を受け、薬を飲んで今ここで寝ていられる。けれど、一緒に暮らす清麿は、元が天使だ。医療を受ける枠組みの中にいない。もし彼に移してしまって、悪化してしまっても、水心子には術がない。天使だったのが人になった身なのだ。病院で診られて、もしどこかに普通の人とは違う部分があって、それが発端となり彼を失うことにでもなったら。
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