傭兵隊にはいくらか子供がいる。おれがここに来る前からもいたし、ここに来てからも何人か増えた。ボスであるビクトールさんが行き場のない子供を端から拾ってくる悪い癖があるからだ。
ここは傭兵の砦なんだ。子供がそこらをうろちょろしたらたまったものじゃない。命のやり取りに邪魔になるし、何より危なっかしくて仕方ない。おれは皆の中で一番年長だから、面倒を見てやる義務がある。
ここでは飯が食えるし働くこともできる。危なくなればおれが守ってやれる。いい所だ
休戦協定が結ばれたからなのか、砦はどこか緩んだ気配が漂っている。演習という名目で三分の一ぐらいの人数とビクトールさんたちが砦にいないのも多分良くないんだろうな。おれはおれで倉庫の片づけをしないといけないと知りつつも、こうしてのんびりと日向ぼっことしゃれこんでいる。
まあ倉庫がごちゃついているのは今更だし、これから平和が来るんだろう。だったらゆったりしていても悪いことはないはずだ。怖いことはもう起きないんだから。
ハイランドとの休戦協定か。おれが生まれる前から敵国で、ずっとそうだと思い込んでいたけれど変わることもあるんだな。もっと早ければ、おれはきっとここにはいなかったけれど、別にほかの場所にいる想像が出来るわけじゃない。いつからか一人、路上で暮らしていたおれの手をビクトールさんが引いて、仲間に入れてくれた。
それより良い道がほかにあったとも思えない。
ふと気が付くと寝ていたようで、もう空が暗くなっていた。砦全体を包むざわめきが昼間よりも大きいから、ビクトールさん達が帰ってきたのかもしれない。
「お、ポール」
戸口から顔をだした傭兵さんは確か外へ出ていたはずだ。名を呼ばれて、体を起こした。
「ポール、ビクトールさんが呼んでたぜ」
「なんだろ、またガキでも拾ったのかな」
「ぽいぜ。あの人にも困ったもんだ」
子連れの傭兵隊がどこにいるってんだ。そう言って眉を寄せてみせる傭兵も、真実呆れているわけではない。それだけの余裕があって、誰かに優しく出来るビクトールさんのことがみんな好きなのだ。
二階の執務室にいる、という言葉にしたがって階段を上がる。いつもの通り、無防備に開いた扉の奥から声がした。
「ハイランドね」
硬質な響きの声音に足が止まる。
「本人はそう言ってたし、多分ありゃ本当だぜ」
「お前が言うんならそうなんだろ。……あんまり良くないぜ」
「良くないよな」
良くないよ、と繰り返す。
どう良くないのか、この二人が良くないというのならばそうなのだろう。だからと言って、おれがそれを聞いていいものか。扉を開いているのは向こうなのだから、なにが悪いものか。
入っていいものか、逡巡している間に声の主が扉から顔を出した。おれがいることなどとっくに承知だった顔で、あわく笑ってくれる。荒事が仕事の傭兵の中にいるのに、子供にうけそうな優しい顔だった。
「フリックさん、さっきの」
「ああ、お前に頼みたい事に関係している」
ちゃんと説明するから入りな。差招く手にしたがってこの砦で一番大きな部屋の戸をくぐった。
ビクトールさんが少し難しい顔をしている。フリックさんはそれを咎めるように軽くビクトールさんの肩を小突いた。
あんまり良くないとはどういう事なのか。でもビクトールさんが拾ってきたってことは悪い奴じゃないはずだ。背筋をただして二人を見れば、ビクトールさんはにっと笑ってくれた。
「ポール、ガキの世話を頼めるか」
「また拾ってきたんですかビクトールさん」
「仕方ねえだろ。落ちてたんだから」
「落ちてたら拾っていいわけじゃないんですよ」
「もっと言ってやれポール。砦の部屋だって無尽蔵じゃないんだ」
ほら、いつも通りだ。二人が言うんならきっと良くない拾い物で、でもそれをビクトールさんは見捨てるつもりがないんだろう。
だったらおれがやることなんて決まっている。
「仕方ないですね。おれが面倒をみてやりますよ」
へへ、とそれこそガキのようにビクトールさんが笑ってくれると、おれも心底安心できる。ここはいい所だ。良くないハイランドのガキにとってだって、いい所に決まっている。