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    そのこ

    @banikawasonoko

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    文責 そのこ

    以下は公式ガイドラインに沿って表記しています。
    ⓒKonami Digital Entertainment

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    そのこ

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    フリオデについてニナとビクトール。フリオデ、わりと文脈を読ませるカプだよなという感想はある。

    #幻想水滸伝2
    theWaterMarginOfIllusion2

    2025-05-20


    「心に決めた人ってだれなの」
     ニナの大きな緑の目がまっすぐに俺を見つめてくる。真昼間のレオナの酒場。次の仕事までに開いた時間で昼飯を、いままさに食おうとしていた俺めがけて歩いてきたニナが開口一番言ったのだ。
     馴染み客だけに出される昨日の残り物サンドイッチに食いつきながら、俺は内心首をかしげた。この娘がフリックに熱を上げているのは流石に知っている。フリック側が逃げ回っているのも理解しているし、そこに介入するつもりもあんまりない。
     勝手にやるだろ。あいつだって大人だし、ガキに手を出すような奴じゃないことなど百も承知。何よりオデッサの事がある。
    「誰に聞いても知らないの。リッチモンドさんは教えてくれないし」
     探偵まで雇おうという気迫には驚いた。安いもんでもないだろうに。
     今日のサンドイッチの具はポテトサラダだ。昨日も食ったな。レオナの作るポテトサラダは玉ねぎが多めで胡椒が効いててうまい。
     フリックが好きなんだよなこれ。あいつは今日どこで飯食ってんだろ。
     ニナの真剣な目を一応は受け止めながら、それでも思考はあんまり定まらない。
     フリックの心に決めた人ね。指についたジャガイモを舐めて、一つ唸った。
    「それ、聞いてどうするんだ」
    「知りたいじゃない。好きな人の事だもの」
    「フリックはお前に知ってほしくないかもしれない」
     ニナが口を尖らせた。俺から目を逸らして、子供らしい柔らかな指を組み合わせてまた解く。
     それを眺めながら、俺もまた困ったなと頭をかいた。
     言っていい事なのかは正直判断がつかない。
     解放軍はオデッサの婚約者が組織した。婚約者はその罪で帝国にとらえられ処刑されたが大部分はオデッサがそのまま引き継いだと聞いている。我々を愛するアキレス様が愛した人が、その遺志を受け継いだ。まったく美しい話だ。
     じゃあそのオデッサが、他のだれかと恋仲になったとしたらどうだ。愛されるんじゃなくて、愛したとしたらどうだ。
     それは許されないだろう、と少なくとも彼女は考えた。民衆ってのはとかく物語を好むから、美しい物語に水を差すのは得策ではない。シルバーバーグの考えそうなことだ。
     だからフリックとの関係は本当にわずかな人間しか知らないはずだ。たいていは、フリックの片思いだと認識している。
     まあ、あいつの自認も半分ぐらいはそうなんだろうけど。
     サンドイッチを食べ終え、コーヒーをすする俺をニナは辛抱強く待っている。
    「知ってほしくない、って何」
    「複雑なんだよ。あいつ、お前より10年以上も長く生きてるんだぜ」
     アキレスへの愛をずっと心に秘めた解放軍の盟主。
     オデッサが自らの役目をそう定めたんなら、フリックはほとんど無条件で受け入れただろう。
     あいつらはそういう仲だった。オデッサはフリックを都合よく利用していたんじゃないかという言い方だって出来そうなぐらい、フリックはオデッサの事のいう事をよく聞いた。好きだったんだろうな。ほとんど盲目的に。
     その愛をオデッサは全身で受け取って、だからこそ立っていられた。
     俺はそれを知っている。今際の際に彼女が誰の名前を呼んだのかも。
     だが、解放軍はもう存在しない。目的を終え、オデッサは本当の意味での物語となった。あとは飾り付けられるだけだ。少なくとも、トランという国が残っている間は。
    「フリックさん、好きな人がいるんでしょう」
     過去形でさえない言葉に、俺の心も少し沈む。
    「でもその人、たぶん傍にはいないのよ。だからあんな顔をする。してほしくないの」
     フリックを一人で置いとくと、考えても仕方のねえことをずっと考え込むから本当に良くないんだよな。それは全くニナの言う通りだ。
     俺でも多分近すぎる。オデッサを知っていて、思い出話も出来るけれど、フリックにその先は示せない。
     じゃあこの子供なら出来るのか。背負いたがっている荷物の重さもしかとは計れないというのに。
     フリックに楽になってほしいとは、俺だって思ってるんだよ。
     コーヒーの黒い水面に、情けない顔の自分が映った。
    「人に言いふらす話じゃないぜ」
    「分かってるわよ!」
     ニナに椅子を引いてやれば、いそいそと座ってこちらを見た。まるきり子供のその顔に、俺は話始めるのを少しだけ躊躇した。
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