2025-05-06
ここだけの話ですよ。じり貧だなと思ったんですよ。自分はあくまでもミューズの名代としてトゥーリバーに来て、その間にミューズが落ちちゃったでしょう。これでアナベル市長が生き残っていればミューズにも目があったとは思いますけど、現実としてはそうじゃなかった。
ジェス副市長ですか。
悪い人ではないです。ただ、あの人が単独で立ってミューズがやっていけるかというと別の話でしょ。カリスマがない。そういう風に能力値を作っていない。それは能力値の違いの問題で、副市長が悪いわけじゃないですよ。
分かってる? はは、そうですよね。
ジェス副市長に関して言えばもう一つ。お耳に入れといた方が良さそうなのが、彼の現在の状況です。判明してるのか、ってしてますよ。そりゃ。あの人がどう動くかでミューズの動きが決まるのはそうなんですから。
ミューズ市脱出の際に大けがされたらしくてね、しばらくは絶対安静だそうですよ。私にもひそかに連絡が来ました。ミューズはまだ死んでいないと思って動いてくれ、だそうです。
死んでいない。厄介ですよね。
死んだってんなら私がミューズの実権を握れます。でもジェス副市長は生きていますし、ミューズ再興の意思はどうやら固そうですよ。面倒ですね。
いやだって面倒でしょう。この軍は、ほかの市を取り込んで大きくなっていこうっていうんでしょ。盟主であるミューズ市がいないのを良いことにって奴だ。
分かってますって。そんな睨みつけないでくださいよ。私がジェス副市長の側だってんなら最初からそう言います。
我らがミューズをお忘れなく! ってね。今んとこ、ミューズの傭兵隊を中核にしてる軍なんですよ、ここは。ミューズにはそれを言う権利があるんじゃないですか。少なくとも、あの人たちとミューズ市の雇用契約は解消されていませんし。
でも言わない。ジェス副市長にも言わせませんし、私もこれから言うつもりはありません。
言ったでしょ。じり貧だと思ったって。
シュウ軍師、あなた、この戦争の終わりがどこだと思ってます? ジョウストンの再建ですか? 違うでしょ。
ジョウストンはもうガタガタでした。限界いっぱい。ルカがいなくたって、近いうちに内部崩壊してましたよ。同じものをつくったって無意味です。じゃあどうするか。
統一国家しかないでしょう。この軍を中心に作り上げた国でもってハイランドを滅ぼして、国を打ち立てるしかない。
私はそれに賭けたんですよ。今それが望めるのはハイランドのルカ・ブライトかここしかない。ルカ・ブライトは性にあいません。でもここなら、私の望みが叶う可能性がある。
望み? 豊かで楽しい老後ですよ。
おやお笑いになる。大事ですよ。目標ってやつは。
ミューズ市からみたら私は裏切者ですよ。ジェス副市長はどう思うでしょうね。私はミューズの利を代弁するつもりもないし、なんなら副市長を立てる気もない。副市長はもしかしたら望んでるかもしれませんけどね、そんなの知ったことじゃありません。
おっとしゃべりすぎましたね。
ま、ここだけの話ですよ。
今は信用してくださらなくても結構ですよ。役に立つところを見せて、それからですからね。トゥーリバーでの働きで判断してくださいな、ってことで。
「おい」
言うだけ言って踵を返したフィッチャーを呼び止める。へらりと笑ったまま振り返る外交官は、シュウに呼び止められることを知っていたかのようだ。
「この軍が勝つと思っているのか」
「いやだなあ、負ける側に賭けようとするもの好きがいるわけないでしょ」