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    そのこ

    @banikawasonoko

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    文責 そのこ

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    そのこ

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    キスをねだるビクフリ。フリックさんはビクトールさんの事がなんだかんだと好きなので、ねだられれば際限はないです。

    #ビクフリ
    bicufri

    2025-06-09


     今日はなんだか暇な日で、早々に風呂に入って夕飯も食べて部屋でぼんやりと本をめくっていた。興味を惹かれて借りてきた兵法書だが、同じ個所を何度も読んでいる事に気づいて、自嘲気味に閉じる事にした。つい先日まで異様に忙しかったから、いまいち余暇の過ごし方と言うのが思い出せない。そもそもそんなに得意ではなかったというのもあるけれど。
     行儀悪く、本の隅をはじくようにめくっていく。もう寝てしまおうか、それともそろそろ返ってくるだろうビクトールのやつを待っていてやろうか。
     そんなことを思っている時点で、決まっているようなものだ。本を卓の上に置いて、グラスと酒を取り出すために立ち上がった。
     自分の酒とグラス、少しだけ考えてビクトールのボトルはやめておく事にした。ビクトールの同室のここには、当然奴の私物もぽつぽつと存在している。お互いにそこまで荷物を持たないが、しばらく滞在していればそれだけ自然と増えるものもあるのだ。
     そう言う事を、自分たちはもう知っている。好きな酒も肴も、起きる時間も寝る時間も知っている。交わした十分後には忘れてしまうような会話をして、それをずっと後で持ち出したりもする。
     言ってみれば友人なんだろう。少なくとも、先日まではその呼び名で良かったはずだ。
     椅子に戻り、グラスに酒をわずかに注ぐ。まだ兵舎は賑やかで、誰かの笑い声や話し声が絶え間ない水の音とともに部屋の中にしみ込んでくるのは嫌いではなかった。
     友人だった。少なくとも、俺はそう考えていた。それが変わったのは先日の話。
     俺に言わせればひどく軽い言い方で、ビクトールは俺に好意を伝えてきて、断る理由を思いつかなかったので受け入れたのが最初だ。
     ビクトールのことは別に嫌いではなかった。オデッサの事なんて分かった上で言っているんだから確認するほうがなんだか失礼な気がして、でも多分あいつと同じ温度の感情は抱けないと思ったからそう言った。
     それでもいいよ、とあいつが言ったのは、全部分かっていたからであり、多分塗り替える覚悟と勝算があったからだ。
     それにまんまとはまった俺が未熟で愚かなんだ。
     ビクトールはキスをしていいか聞いてくる。朝、寝起きの目元とか、昼間に一旦戻った私室で鉢合わせた時とか、夜に寝る前とか。
     不意打ちということは一切なくて、毎回律儀に聞いてくる。キスしていいか。いつも通りの、お前の肴をくれよ、と同じ声音でキスをねだる。
     日常の中に食い込ませてくるようだ。新しい、当然の習慣。なるほど。ビクトールは俺が好きなんだそうだ。だから好意の表れとして、一つの習慣としてキスをする。理解は出来る。
     理解はできるから、その意図もなんとなく知れてくるというわけだ。
     頭を抱えた。
     キスをするのは嫌ではないが、毎度毎度律儀に聞いてこられると嫌だと思わない自分にも気づく。もしも俺が嫌だといえば、あいつはあっさりと引くだろう。そう言うやつだし、力づくの代償も正確に理解している。
     ビクトールはキスをねだるが、俺が許可を与えないと話が先に進まない。先日から数え切れないぐらい交わしたキスの全てが、俺が望んだ結果というわけだ。
     してやられた。
     逃げ場をふさがれている。あいつが望んだからで、俺はあくまでもそれに応えているだけだ、なんて楽な立場をビクトールは俺に最初から用意なんてしていなかったというわけだ。
     ため息が出た。最初に応えた時点で、全部あいつの術中だ。
     人の関係、まして色恋に関してビクトールに勝てる道筋など一本たりとも見えないが、こうまで自分が見事にはまってしまったとなると、あいつも笑いが止まらないことだろう。
     自分がビクトールの好意の対象だと言うのはなんだか不思議な気分だというのは間違いないが、それを拒絶するのはなんだか違う。
     うめいて、誰も見ていないのに目元を覆い隠した。
     俺からキスをねだれば、あいつはまた次のおねだりをしてくるんだろうか。それに俺はどこまで応えるのか。
     たぶん際限はないんだろうな。ビクトールが望むんなら、いくらでもかなえてやろうと思う程度にはあいつのことが好きだからだ。
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