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    陽炎@ポイピク

    ジョジョ5部プロペシメインです。パソコンもペンタブもないので携帯撮り&アナログ絵しかうpしません。
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    陽炎@ポイピク

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    #アヴドゥル生誕祭おひつじ座
    『ガニュメートは天で輝く』
    承太郎とアヴドゥルさんのお話です
    CP未満のつもりで書きました

    秋の闇夜に鈴虫の音が静かに響く。
    暗がりの中で葉掠音が時折外から聞こえてくる。
    俺は旅立つ前の高潮感で中々寝付けず夜風に当たる事にした。お袋の傍で細い掌を握ったまま眠るジジイの落ち掛けたブランケットを掛け直して布団から抜け出す。
    暫く床を鳴らさねぇように廊下を歩いて行くと縁側に腰掛けたまま佇む人影があり俺はふと足を止めた。
    「アヴドゥル」
    名を呼ぶと金木犀の香りと共に占い師の男は振り返る。
    「む……?承太郎か」
    そいつ――アヴドゥルは、ジジィから借りたのか親父の着流しに袖を通していた。
    髪を解いて艶やかな長い黒髪をゆるやかに後ろで纏めたアヴドゥルは不思議と馴染んでいた。
    遠い異国からやって来たこの男は俺をわざわざ塀の中から出した。さしずめ檻の中から獅子を出す猛獣使いのような男だ。
    全てを焼き尽くすような焔を操るこの男によって、俺はまたこの家へと戻って来た。
    だが帰ってすぐお袋が倒れた。DIOの仕業と突き止めた俺は、エジプトへ旅立つ事となった。
    この男にとっては、巡礼のようなものだろう。
    「……明日には出発だ」
    「分かっている。今の内に星を眺めておこうと思ったのだ」
    「星――?」
    アヴドゥルの傍に歩み寄って空を見上げる。
    「綺麗な星空だ」
    太い眉を少し下げて美しいものを愛でるように目を細めるアヴドゥルに俺は隣へ胡座をかいた。
    「あんた、意外とロマンチストなのか?」
    「ははは。星詠みをするのが好きなだけだ」
    占いみてぇなもんなんだろうか。俺は煙草を1本咥えた。
    「こら。高校生が吸うんじゃない」
    唇へ日に焼けた褐色の指が伸びてきて煙草を奪われる。
    スタープラチナで取り返そうかとも考えたがやめた。
    「俺は不良なんだぜ」
    「私はそうは思わないがね」
    アヴドゥルが煙草をそのまま空へ掲げた。
    「喩えばあの星。ある星座の1部なのだが」
    俺は視線を煙草の指す先へ向けた。
    「水瓶座の最も明るい星、サダルスウドだ。その意味は最高の幸運」
    「ふぅん」
    星には興味なかったが星について熱を持って語るアヴドゥルの話に耳を傾けるのも悪くない。
    俺は黙って続きを促した。
    「あれがサダルメリクで王の幸運という意味を持つ。そしてあの星がスカト。名の語源はアラビア語の『望み』だ。承太郎、水瓶座の君は幸運の星の元で生まれたんだ」
    「それは占いか?」
    「そうかも知れんし、そうでないかも知れん」
    アヴドゥルはそのままくるりと煙草を指で回すと赤の魔術師(マジシャンズレッド)であっという間に炎で燃やし尽くしてしまった。
    鮮やかな焔火に包まれて一瞬で灰になって散るさまはまるで役目を終えて消える間際の星屑のようだった。
    「……俺の人生も未来もあんたが決める事じゃねぇ」
    小さく溜息を吐きながらそう返すとアヴドゥルは詩を紡ぐように答えた。
    「君にとって私はさしずめガニュメートを攫った大鷲のゼウスだろうな」
    ガニュメート――聞いた事がある。
    水瓶座の神話となった少年だ。ゼウスにその美貌を見初められ不老不死にされる代わりに、酌取りとして神の酒を注ぎ続ける事になる。
    「あんたは神じゃない。俺をあの場所から連れ出したのだってジジィに頼まれたからだろ。それで俺の事を救ったとでも思っているのか」
    恨みがましくアヴドゥルを睨んだ。お袋を助ける事はこいつにだってできっこねぇのに俺は苛立っていた。
    教皇の力も隠者の力も世界の理の前では意味を成さない。
    「星は天に在るべきだ」
    アヴドゥルは罰が悪そうに上空を仰ぎやった。
    「……星?」
    「私にとって承太郎、君は星そのものだ」
    首筋の後ろにある星形の痣を俺は無意識に摩る。
    星に喩えられるのは初めてだった。俺は誰かを照らす光にはなり得ないと思っていた。俺の中に流れる血も俺の運命も、あんまり考えたくはなかった。
    「白金のような君はあんな薄暗い地下に閉じこもるべきではない」
    「勝手な事を――」
    「そうだな。私の独りよがりな考えだ」
    俯いた後俺を真っ直ぐ見据える瞳。その中に焔火があった。
    ずっと見つめられていたらこの炎に焼き尽くされてしまいそうだ。
    「朝陽の輝きの中で、おまえがわたしの周りに燃え立つさま。春よ、愛するものよ。愛の歓喜が無限にひろがり、おまえの無限のあたたかさが聖なる感情となってわたしの胸に迫ってくる、尽きることのない春の美しさよ。おまえをぐっと抱きしめたい、この腕の中に」
    「ゲーテのガニュメートの詩か」
    捕まっていた間無限に時間だけはあった俺はありとあらゆる本を鉄格子の中で読んだ。その中にはゲーテの著書もあった。
    アヴドゥルは小さく頷いて続きを唄う。
    「ああ、春よ。わたしはおまえの胸に身を委ね、心を焦がす。そしておまえの花、おまえの若草をわたしの胸に押しつける。おまえはわたしの胸の燃えるような渇きを癒してくれる。爽やかに吹いてくる朝のそよ風に乗せて、連れ合いを求める鶯の鳴き声が霧深い谷間から響いてくる。わたしは行く、いま行くのだ。どこへ? ああ、だがどこへ?」
    アヴドゥルの続けようとした声を遮るように俺が口を開いた。
    「上へ行くのだ。力の限り、上方へ。上空に漂う雲は、下方へ向かいつつ、胸を焦がし、愛するものに身を傾ける。俺に、この俺に。雲の膝に抱かれてまた上方に向かう。雲を抱きしめ、雲に抱かれつつ」
    アヴドゥルが息を飲む気配がした。彼の方を横目でちらりと見遣ると、褐色の肌が紅潮していた。
    「承太郎、大人を揶揄わないでくれたまえ」
    視線を彷徨わせるアヴドゥルに俺は苦笑する。
    「俺を口説いたのはあんたの方からだろう」
    「そんなつもりは――」
    俺はその先を言わせまいとスタープラチナの指を厚ぼったい唇へ押し当てた。
    「…俺が『星』なら…。簡単に堕ちる訳にはいかねぇがな」
    そっと指を離して俺は立ち上がった。
    「もう寝ろ。この先眠れる暇があるか分からねぇぜ」
    「承太郎、」
    呼び止めようとするアヴドゥルへと振り返る。
    「正直に答えてくれ。私を恨んでいるのかね?」
    「それこそあんたの得意な占いでもすればいいさ」
    今度こそ踵を返して藺草の香る畳の上を歩く。
    少し意地悪し過ぎちまったか。だが、アヴドゥルみてぇな奴は案外引き摺るタイプだからな。否定した所で罪悪感が残るに違いない。だから俺はアヴドゥルの傍らへタロットカードを置いておいた。
    逆位置の星。
    意味は『水に流される』だ。
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    陽炎@ポイピク

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    承太郎とアヴドゥルさんのお話です
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    秋の闇夜に鈴虫の音が静かに響く。
    暗がりの中で葉掠音が時折外から聞こえてくる。
    俺は旅立つ前の高潮感で中々寝付けず夜風に当たる事にした。お袋の傍で細い掌を握ったまま眠るジジイの落ち掛けたブランケットを掛け直して布団から抜け出す。
    暫く床を鳴らさねぇように廊下を歩いて行くと縁側に腰掛けたまま佇む人影があり俺はふと足を止めた。
    「アヴドゥル」
    名を呼ぶと金木犀の香りと共に占い師の男は振り返る。
    「む……?承太郎か」
    そいつ――アヴドゥルは、ジジィから借りたのか親父の着流しに袖を通していた。
    髪を解いて艶やかな長い黒髪をゆるやかに後ろで纏めたアヴドゥルは不思議と馴染んでいた。
    遠い異国からやって来たこの男は俺をわざわざ塀の中から出した。さしずめ檻の中から獅子を出す猛獣使いのような男だ。
    全てを焼き尽くすような焔を操るこの男によって、俺はまたこの家へと戻って来た。
    だが帰ってすぐお袋が倒れた。DIOの仕業と突き止めた俺は、エジプトへ旅立つ事となった。
    この男にとっては、巡礼のようなものだろう。
    「……明日には出発だ」
    「分かっている。今の内に星を眺めておこうと思ったのだ」
    「星――?」
    アヴド 2615