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    nappa_fake

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    オペイルでバレンタインです。
    オペイル初書きなのでオペイル村の方と解釈が違ったらごめんね。

    #オペイル
    opoil

    与えられた熱の名前 その日イルマが学校から帰ると邸内がいい匂いでいっぱいになっていた。

    「おかえりなさい、イルマ様」
    「ただいま、オペラさん。すっごくいい匂いがします!」
    「今日はバレンタインデーですので、チョコレートのお菓子をたくさんご用意しました。着替えていらしてください」
    「はあい」

     いつもはおやつは二袋までと言うオペラが「たくさん」と言った。きっとたーくさん! なのだろう。イルマはウキウキしながら着替えて食堂へ向かう。

    「わ! わわ!!」

     本当に、たーーーくさん!! だった。
     長く広いテーブルの上にチョコレートのお菓子ぎっしりと並んでいる。

    「すごい、これ、全部食べていいんですか」
    「張り切って作り過ぎてしまいました。サリバン様の分もありますので、半分は残してください」
    「わ、わかりました。努力します」
    「残らなさそうですね。では、こうしましょう。最後の一口は私が手ずから食べさせて差し上げます」
    「えっ」

     つまり「あーん」してくれるということだ。たまに厨房で味見をさせてくれるときに、してくれることもあるけれど、それくらいしかしてくれない。
     イルマは、オペラに「はい、どうぞ」とスプーンを差し出されるのが好きだった。理由は解らない。でもそれだけで特別に美味しく、幸せな気持ちになる。

    「わかりました」
    「けど半分以上食べたらナシですよ」
    「はい! 半分食べたらお願いします!」

     イルマが勢い良く返事をするとオペラが目を細くして頷いた。

    「おいしっ」
    「そうですか」
    「すごい、これ何が入ってるんですか?」
    「リキュールを一垂らししてから加熱しています」
    「わあ、かわいい」
    「先日スージー先生から教わりまして」

     イルマが食べている間もオペラはずっと横にいてお菓子の説明をしてくれたり、遠くの皿を取ってきたりと甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。
     ……それに対してなにか物足りないと思うのは欲張りだろうか。でも、もっと欲しい。……なにを?

    「そろそろ、半分でしょうか」
    「ではこの皿でおしまいにしましょう」
    「……はい。あの、お願いします」
    「承知しました。イルマ様。はい、あーん」
    「――、この一口が一番美味しかったです」

     照れながらイルマがオペラを見上げると、優しい笑顔が返ってきた。

    「何故だと思いますか?」
    「え、オペラさんが、食べさせてくれたから?」
    「半分正解です。残りの半分は、私がとびきりの愛を込めたからです」
    「とびきりの」
    「ええ。お口に合ったようで何よりです。夕食後のデザートにもチョコレートを使用したものを用意していますから、楽しみにしていてくださいね」
    「はい!」

     イルマは自分の部屋に戻ってベッドに転がった。枕を抱えて机の方を見ると、イルマがオペラとサリバンに挟まれて笑っている写真が置かれている。

    「オペラさんの、とびきりの、愛」

     愛ってなんだろう。
     イルマはそれまで考えたこともなかった。愛でお腹は膨れないから。けど、初めて考えてみたそれは、ものすごく美味しいもののように思える。
     アリスやクララがくれる温かさとは違う。サリバンや師匠がくれる優しさとも違う。
     オペラからもらったものにだけ感じる熱の名前が愛なのだろうか。

    「わっかんないなー」

     イルマはベッドから起き上がって宿題を終わらせる。そろそろ期末試験もあるので、それに向けた勉強もしないといけない。
     愛がなんだかはわからないけど、オペラに身の回りの世話をされたり、心配をかけているうちは受け取れない気がした。

     夜ごはんにはサリバンもいて、一緒に美味しく楽しく食べる。
     サリバンがレディ・レヴィとアムリリスからもらったという高級チョコレートも分けてもらって、それももちろんすごく美味しかった。
     オペラが予告したとおり、デザートにもたくさんのチョコレートが使われていて、やっぱりどれも美味しい。
     お腹がいっぱいになるまで食べて、サリバンとオペラと三人でゲームをして、風呂に入って寝る。
     ……けどイルマは眠れなかった。
     だから厨房に向かうと、オペラはそこにいた。

    「オペラさん」
    「やはりいらっしゃいましたか」

     そう言うオペラが電子レンジから取り出したのは二つのマグカップで、中には今日はホットチョコレートがほかほかに温まっている。

    「そろそろ、いらっしゃる頃合いかと思いました」
    「お見通しですね」
    「もちろんです」

     薄く微笑むオペラにイルマはそっと視線を外して寄り添う。

    「おじいちゃんから貰ったチョコも、夜ごはんのデザートもすごく美味しかった。美味しかったんですけど……やっぱり、オペラさんに食べさせてもらったものが一番美味しくて」
    「……」
    「このホットチョコレートも同じ味がします。これにも入っているんですか? その」
    「入ってますよ」
    「……やっぱり」

     イルマはマグカップをそっと傾ける。甘さが舌の上で蕩けて、喉を通るたびに温かな熱が広がる。

    「僕にはわからないんです。オペラさんの言う、とびきりの愛っていうのがなんだか。でも、それが欲しい」
    「イルマ様が望まれるなら、いくらでも差し上げます。けど、そうですね。それがなんであるか、イルマ様がきちんと理解をしてからにすべきでしょう」
    「……そう、なんですか」

     オペラは少し切ないような顔で頷いた。どうしてそんな顔なのかもイルマにはわからない。わからないけど、やっぱり欲しい。欲しいなら諦めてはダメなのだ。

    「愛は綺麗なものばかりではありません。酸いも甘いも全てを受け入れる覚悟ができたら、教えてください。私の全てを差し上げます」
    「……わかりました。もう少し、待っててください」
    「楽しみにしております」

     イルマはマグカップを空にしてシンクに置く。
     振り向くとすぐ後ろにオペラがいて、頬に手が触れた。

    「おやすみなさい、イルマ様。どうか良い夢を」

     額に柔らかいものが触れる。すぐ離れてオペラがマグカップを洗っている。

    「おやすみなさい、オペラさん」

     幸せな夢が見られそうな気がして、イルマは急いで寝室へと戻った。
     実際に見た夢は、炎に包まれて熱の中を進む夢だった。進んだ先で誰かの手を掴むと、汗びっしょりで目が覚めた。

    「……掴まなきゃ」

     イルマの瞳には熱が宿っていた。
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