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    MASAKI_N

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    『貴公子』①
    リバ言及のマル貴

    #貴公子
    ##貴公子
    #マル貴

    快気祝い「病気が治った?」
     マルコの家で二人、持参したコーラを飲みながら話している。
    「え〜と、そもそも、病気ではなかったというか……」
    「へぇ。良かったね」
     良かったと言ってもらえて、素直に嬉しくて、にこにこしてしまう。
    「だから、快気祝いをしたくて」
    「コーラで?あんま高いとこだと奢れないけど、飲み行く?」
     飲 み 行 く?
     優しい。嬉しい。普通に友達扱いしてくれるのか。
    「お金は僕が。マルコ、遊園地とか水族館とか、行きたいとこない?カジノ?ゆっくり考えてからでもいいし、国外旅行でもいいよ……なんかパァッと僕と遊んでくれない?」
    「んー……遊園地なら、行きたいかも」
     マルコは困惑した顔をしつつも、そう呟いた。

         *

     全部の乗り物に乗ろうと張り切って回り、締めはお決まりの観覧車に乗り込んだ。
    「フー!面白かった!マルコも楽しい?」
    「……うん」
     穏やかに景色を眺める横顔が綺麗だ。
    「ごめんね、連れが僕で」
    「え?なんで?楽しいよ。あんた、遊園地の連れには向いてる」
     確かに、楽しそうにしてくれていた。水族館だと豆知識を延々語ってしまいそうだったし、遊園地は多少変な人が騒いでいても気に留められないから、確かに向いているのかもしれない。
    「そう?えへ、良かった」
    「あんまりこういうとこ来られなかったし、来ても楽しめなかったんだけど、今日は凄く楽しい。ありがと」
     そういえば初めて会った時も、映画をキラキラした目で楽しそうに観ていた。贅沢どころかちょっとした娯楽さえ味わえず、ただ必死に毎日を乗り切っていた彼の苦労を思う。
    「それなら僕も嬉しい。お礼を言うのは僕だ。お祝いに付き合ってくれてありがとう」
    「あんた、友達いないの?俺も、こういうとこに来るような友達は、近くにいないけど」
     まともな友達はあの環境から抜け出して、遠くへ行ってしまったと言う。賭けボクシングの仲間は誰一人、信用できない。遊び仲間や気安い友達はいないのだ。
    「いないよね。僕も、誰も信用してなかったし……でも、マルコのことは信用してる。僕も君と同じ年の頃は似たようなものだった。母親が早くに他界したから、その辺は違うけど」
    「そっか。まぁ……あんたもまともじゃないけど。俺、施設の仕事を手伝うことになったよ。みんな俺の事情は知ってるから、ボクシングも続けられそうだし、母さんの様子もすぐ見に行ける。前よりずっと良くなってる。あんたのおかげ――ではないけど、なんとかなって良かった」
    「ふふ、マルコも優しいし、遊園地は楽しいなぁ」
     しんみりするのは苦手で、少し茶化すように笑ったら、マルコもふわりと笑んだ。
    「あんたはいつでも楽しそう」
    「そう?」
     ドキドキする。
    「でも、今日は作り笑いじゃなくて、ちゃんと笑ってるなって思った」
    「マルコが楽しそうに笑ってくれたから……また遊んでくれる?」
    「いいよ。あの時みたいに強引じゃなければ」
     デートがしたくて誘ったのがバレたら、怒られるだろうか。

     ――恋をしてしまった。

     いつから好きだったのかと問われたら、多分、初めて見た時からだ。
     嫌われて憎まれても仕方ないと思っていたのに、マルコは変わらず善人で優しい。
     暮れ始めた遠くの景色を眺めるマルコの煌めく瞳と横顔を、ずっと見つめていたいと思った。

          *

    「おやすみマルコ……ハグしても?」
     駄目元で訊いたのに、風呂上がりのマルコは手を広げてくれる。
    「ん」
     遊園地でも、肩を抱くくらいは許してくれていた。もうそういう距離感の男だと認識され諦めているのかもしれないが、拒否されないのは嬉しい。
     怒られないのをいいことに、強く抱き締めた。
    「はぁ……離れがたいな」
    「同じ部屋で寝るんだから、離れるも何も」
     そう。ちゃっかり一泊でホテルも同室にしたから、まだ明日送り届けるまで一緒だ。
    「うん……」
     触れたまま、身体を少し離して見つめ合う。
    「……変なの」
     くすぐったそうに笑うのが色っぽく見えて、どきりとした。
    「変かな」
     今マルコに気持ちを伝えてしまったら、怒るだろうか。下心があったのかと、責められるだろうか。
    「あんたも、そんな顔するんだ」
    「どんな顔してる?」
     伝えてしまいたい。殴られて、帰ると言われても、好きなのは本心だから悔いはない。
     早めに振られてしまった方が傷が浅くて済むかもしれない。
    「切なそうな感じ」
    「うん。当たってる」
    「なんで?本当は俺以外の誰かと来たかった?」
    「え?」
    「俺のこと、好きなんじゃないの?あんた」
     からりとそう問い掛けられ、彼を見る。
     大きく澄んだ美しい瞳は、やや気怠げに濡れている。
    「うん……好きだよ」
     マルコはいつものように不審げな顔で探るように見つめてくる。
     逃げられない。
     というか、マルコが逃げないのは何故?
    「『親友』って言ってたのは?」
    「だって君は、僕を好きにはならないよね。片想いなら友達扱いになるだろ」
    「あ〜……」
     マルコはFUCKと小さく吐き捨てて、暗い顔をした。
    「何?どうしたの」
    「じゃあ、俺の気持ちは最初から無視するつもりか。遊んでってそういうこと?」
    「……なんで怒ってるの?」
     自分と二人きりでいる時は、概ね韓国語で話してくれる気がする。マルコ自身の考えを詳しく語る時は英語の方がスムーズにアウトプットできるようだ。コミュニケーションや質問の時は韓国語。感嘆詞の類は英語が多い。
    「なんで?大事なことだろ」
     マルコの「大事」は真剣で重い。理不尽なことに慣らされ、倫理観が鈍ってしまう中、これだけは譲れないと思うこと。
     芯の強さが無かったら、自分の大事なことを尊重してくれる他人の存在に、期待することすらなくなる。
     マルコは絶望的な人生の中でも決して、希望を捨てていなかった。
    「だってそんなの確認するの、怖いだろ」
    「あんたに怖いものなんてあるの?」
     評価が意外と高いことに浮かれそうになったが、多分、恐怖という感情が無い変なやつだと思われているパターンだ。
    「シュレディンガーの猫的なあれだよ」
    「は?」
     年頃の娘が父親を突き放す時ぐらい破壊力のある、「は?」だ。
     マルコの学力レベルは低くない。母親の看病をしながらできることとして、図書室から本を借りてよく読んでいたようだった。同じ『家』で学んだのなら、あそこにある本は大体読んだはずだ。
    「知ってるだろ?有名な実験」
    「毒で猫が死んだかどうかは箱を開けるまでわからないから、開けるまでは生きてることにできるって話?それが何」
     やはり通じた。
    「君に好かれてるとは思ってないけど、はっきり振られたくない。でも、今言っちゃって振られといた方が傷が浅いかもって迷ってた。どうせ僕は君を諦めることなんてできなくて、振られても口説き続けるだろうし」
     この目を見てはいけないのだ。なんだか知らないうちに嘘がつけなくなって、軽口を後悔して懺悔する羽目になる。へらへらと乗り切ってやり過ごす人生は、マルコのこの目に出会って終わった。
    「あんたが俺を好きなのは気付くよ。だって、あんたのお祝いなのに、俺を楽しませようとするのは変だし」
    「変でしたか」
     変な敬語が出てしまった。マルコに怒られると動揺する。でも、怒ってくれるのが嬉しい節もある。変に違いない。
    「変なのはいつもだけど……俺だってガキじゃない。自分のこと好きかもしれない変人の殺し屋と同じ部屋に泊まる覚悟はそれなりにするし……気持ちが伴ってるから誘いに乗ったんだ」
    「お……っ?うん」
    「その、変なとこ思い込み強くて、人の気持ち無視すんの、あんま良くないと思う」
     かなり真剣に怒っているようだが、その理由が予想外だった。
    「え……いや、嘘だろ」
    「何が嘘」
     真っ直ぐな目はひどく悲しそうだ。ずるい。この目に弱いと知っているはずだ。
    「君が僕を好きになるわけない」
     言ってから、自分でも悲しくなる。
    「自分でもよくわかんないけど……別に嫌じゃないから、多分――結構、好きなはず」
    「ん…………?え?」
     怒りながら、気持ちを確認している様子だ。
    「あ、でも俺に説明しないで事件に巻き込んだのは許してないし、良くないところもたくさん知ってる」
    「ごめん、よくわからないのは僕なんだけど」
     これは……振られたのか?いや、違うな。
     まさか――
    「何度目かのデートで、恋人になるつもりなのかなって思ってた」
    「恋人になるつもりが……ある……?」
    「まだ試してる段階でも、ほんの僅かでも、お互いそうなりたい気持ちはあると思ってたんだけど、あんたは違うの?そういう気持ちが全く無いの?」
     凄く怒っているように見えるが、これは――
    「いつから???え?マルコ、自分の言ってることわかってる?」
     動揺して、へらへらしてしまう。いつもの顔といえばそうだが。
    「あんたがそうなりたいなら、なってもいいかって思ったから、今まで付き合ってた」
    「付き合ってた!!!!!」
     悲鳴のように感嘆符が口から飛び出すのを、手で押さえた。
     じゃあもう付き合ってたも同然の、『付き合ってた』だ!
    「母さんにも優しいし……普通に友達になってもいいって思った。酒飲んでる間も結構楽しかったし……そんで今日は、遊んでるうちに、俺のこと好きなのかもなぁって。話してて退屈はしないし、触られても気持ち悪くなかったし……もう別に失うものもないから、ちゃんと口説いてくれるんなら、恋しても別にいいかって」
    「待って、最後の何?マルコ、それ本当に恋かな。よく考えて?もっと自分を大事にしよ」
     事態は飲み込めたのだが、完全に油断していた。いつだってこちらの予想を実直さで覆すのがマルコの素晴らしく素敵なところだが、もう少しゆっくり攻めるつもりでいたのだ。
    「理由もよくわかんないのに好きな方が、ガチの恋だと思わん?つか、俺の命と人生を散々弄んだあんたに、自分を大事にとか言われたくねんだけど」
     怒って言葉がラフになるのが、ギャルみたいでめちゃくちゃ可愛い、とか思っている場合ではない。
     なるほど、マルコもそんなわけないと否定したかったのに嫌じゃなくて、「よくわかんないのに好き」みたいで戸惑ってはいるのか。
     なんという可愛さだろうか。優しいから突き放せなくて困ってるとかでもなさそうだ。
     強い眼差しに射られ、胸が落ち着かない。
    「弄んだって……やだな、なんか悪い人みたいじゃない」
    「悪い人じゃん、明確に。人を身代わりにしやがってさ。人殺しなんだろ。プロの」
     正確に何者かを知りながら受け入れてくれるなんて、有り得ないと思っていたのに。
    「あの時、君は僕のヒーローで……僕も君のヒーローになりたかっただけだよ」
    「ヒーロー?そうなの?登場の仕方から完全にバケモンだったけど……そっか……だったら素直に、助けてくれって頼めば良かったんじゃない?怪しいから、断ったかもしれないけど……うん。多分殴って追い返したからあんたが正解か」
    「え、うん。だからさ、そのバケモンに、普通は恋してくれないと思うだろ?友達はギリいけても、まあ恋人は無理だろうなって」
    「あんた、そんな普通の考え方できんのに、なんであんなことして、そんなことしてんの?」
     本題を逸れてしまった。マルコにその気があるうちにどうにかしなければ。
    「マルコは、告白された子が嫌いじゃなかったら付き合ってくれるタイプ?」
    「子って年かよ」
     急に年の差をえぐられる。マルコは二十四で、自分とは確か九つ違いだ。
     そこも結構ネックだった。
    「そこじゃない。あれぇ、天然なのかな」
     おどけて見せたら、マルコは少し力を抜いて、気まずそうに言葉を続けた。
    「ンー……母さんが元気な頃は普通にボクシングやってて、寄ってくる相手と恋愛っぽいことはしてた。でも元々あんまり他人とか恋愛に興味ないから……中々、お互い本気になれる相手はいなくて。若かったし。母さんの具合が悪くなってから裏でファイトすることになったら、ちゃんと付き合いたいって言われても……母さんが病気でうちが貧乏で、俺が大した稼ぎが無くても大丈夫って相手はいなかった。だから、本気で恋人になれそうなのは、あんたが初めてかな」
    「初めて?どこから何までが?」
    「どこからって……ちゃんとした恋人になるのが。女の子は普通に声掛けてくるけど、俺、基本いろいろ重いし。男は完全に初めてだけど――大体ケツ狙ってくるかペド野郎しか来なかった」
    「マルコ、顔きれいだし、いい身体してるし、性格かわいいし、賢くて強くてかっこいいもん、モテるよね」
    「何急にニヤニヤしてんの、気持ち悪いな」
     決して幼いわけではないのに、正直な子どもの残酷さを失わずにいるところが魅力だ。
    「おや?本心から褒めたんだけどな。ペド野郎は発見次第殺してるから安心して」
     決して全肯定はせず、疑問や思ったことをはっきり言うところもかっこいいのだが、少し照れが見える。
    「あんたも見た目は……いい方だろ」
     まさかの褒め返しに、上目遣いの破壊力が凄い。この照れ方で何人骨抜きにしたのか。
    「おぉ……え、もしかして顔が好きとか?フー!ラッキー!」
     やっと納得できる理由が認められ、テンションが上がる。
    「そのフー!ってやつ何?うるさいし変だし、不気味で意味わかんない」
     おじさんを全否定するギャルそのものなのに、それでも無視はしないのが優しい。
    「全くオブラートに包まない直球のディスり!褒めて伸ばしてよ。ディスらないで?まあ、うるさいし変なのは自覚してますけどね」
     変人であることを今さら指摘されても、痛くも痒くもない。バケモン呼ばわりしたくせに恋人にしてくれるんだから、素直に歓声を上げたのだ。
    「ムカつく時あるけど、セクシャルな意味では……生理的に無理な感じはないかな。あんなに謎にキモいことしてきてたのに、顔自体は別にキモくないっつぅか……表情と言ってることはキモかった」
    「やっぱり僕かなりキモいんじゃない?大丈夫?どうせ振るなら今にしてくれない?僕はどうしたら?」
    「キモいのに大丈夫だから好きなんじゃない?……これが恋愛だって言うんなら、続けてみてもいいかもって思ってるよ。俺は」
     最高にかっこいい顔でそう言われ、美しい瞳に惑う。
    「うわ、かっこいい。恋愛……恋愛ってなんだろう。ね」
     勢いを失い、目をそらしてしまった。
    「あんたもよくわかってないの?見た目だけならモテそうなのに」
    「おっとぉ?中身は全否定かな」
    「まあ俺もよくわかんねぇんだけど……結婚に夢も無いし、普通の家庭を築くのはなんか無理な気がする。だから、あんたの境遇にも同情するし……病気じゃなかったってわかったのは嬉しい」
    「わぁ、どうしよう緊張してきた」
     ゆっくり確実に、口説かれている。
    「俺を好きで、他の誰かと恋人になってほしくないんなら、今、宣言して」
     手首をつかまれ、また目を覗かれる。
    「マルコ――僕と恋人になって」
     ぼんやりと吸い込まれそうになりながら、誤魔化さず心のままにそう吐いた。
    「……やればできるじゃん」
     事件が終わった後ネタバレをしたあの時の、憑き物が落ちたような笑顔が眼の前で眩しく輝く。
    「へ……返事は?」
     珍しく真剣に、一世一代の告白をしたのだから、きちんと答えてもらわないと。
    「え、いいよ。よろしく」
     握手を求められ、応じる。柔らかい笑みは甘く、蕩けそうなくらい心を熱くする。
    「……キスしてもいいかな」
    「うん」
    「ん……」
     爽やかに何をやっているのかと自分に問いながら、甘く口付けてゆっくり離した。
     間近にある潤んだ瞳に、真っ直ぐ見つめられている。
    「もの凄く変だけど、あんたは特別な人ってことにしてあげる」
    「君も特別だから、選んだんだ」
     なんとなく、また抱き締める。拒まれず今度は、マルコも抱き締め返してくれる。
    「好きな人を危険な目に遭わせるの、やめた方がいいよ」
    「僕が守りたいと思える人じゃないとだめだったし……」
    「まだ殺し屋なの?」
    「……悪人がまだたくさんいるから」
    「やっぱり、殺さないと駄目なの」
     頭ごなしにその仕事を辞めろとは言わないのか。
     健康な人間から臓器を奪おうとするほどの邪悪さを目の当たりにしたマルコは、死なないと悪行をやめない人間がいることを知ってしまったのだろう。
    「一応、半殺しくらいにしようと思ってお願いするんだけど、向こうもこっちを殺す気で来るから、仕方ないんだよね。できるだけ、正当防衛になるようにはしてる」
    「嘘じゃん。俺のいる車撃ったの先攻あんただろ」
    「それは……誘拐犯だからさ」
     善性などとうの昔に捨てた。これからそれを思い出させてくれるのはマルコだろう。
    「……死なないでね」
     悪いことを咎められているのかと思ったら、心配されていたと知る。
    「えっ、あっ、そういうこと?大丈夫それは、負けないから――でも、うん。控えめにします」
     余命は短くなくなったから、それはそうだ。
     胸が急に苦しくなる。子どもを持つつもりはなかったが、もしいたらこんな感じだっただろうか。
     いや、お父さんの気持ちになっている場合ではない。それに自分はこんなに純真でかわいい子どもじゃなかった。マルコはきっとジジイになってもかっこよくてかわいくて優しくて、純真で鋭いだろう。
    「お祝いって何がいい?」
     人との触れ合いに飢えていたのか、マルコは心地好さそうに身を任せている。
    「もう、充分もらってる」
     体温や声が届く度、空虚な部分が温かいもので満ちていく。
    「ハグとキスだけでいいの?別に俺、あんたとエロいことしてもいいけど」
     囁かれ、耳を疑う。
     恐る恐る顔を見るが、マルコは純粋に答えを待っている。
    「……え、本当に?」
    「そういうつもりで部屋一緒にしたんじゃないの?節約?」
    「あわよくば寝顔と寝起きが見たいなとは思ったかな」
    「そっか。エロいこと考えてんの俺だけ」
     ドキドキして、触れている身体が熱くなる。
    「ちなみに、どんな感じの……」
    「セックスしたいのかと思った。こんなに真剣に好きなのは知らなかったけど、体目当てなのかなとは少し思ってたし。でも、流されたり押し倒されたりしてもちゃんと、好きかどうかは確かめようって思ってたよ」
    「体は……どこまで覚悟してる?」
    「あぁ、うん。俺後ろは使ったことない。でも前にプロのお姉さんに指突っ込まれたことはある。そんなに悪くなかったから……そっちしたいんなら、ちゃんとできるまで時間かかるけど、してみてもいいよ。あんたがトップがいいんならね。準備すんの待てないなら、今日は素股で勘弁して」
    「強い」
    「何が」
     潔くてかっこいい。好きだ。あと、環境が悪かったせいで恋愛と関係なく性的な知識が具体的だ。
    「逆に、マルコは僕に挿れたいと思う?」
    「俺はどっちでもいいけど、向き不向きがあるんだろ?ゲイの人が言ってた」
    「強いなぁ!」
    「何が。あんただってどっちだかわかんないのに俺を好きだろ」
     そういえばお互い、男同士であることは意に介していなかった。
    「僕もどっちでもいい」
    「どっちでもいい?どっちもしたい?」
    「えっっっ、どっちもしていい???」
     今日は人殺し以外で少しだけしてきたいいことが、やっと報われる日だろうか。
    「うん?体調良くなったんなら、先は長いし」
    「フー……」
    「小声のパターンもあるんだ、『フー』」
     もしかしたらこれは現実じゃなくて、薬物を投与されて死ぬところかもしれない。そのくらい、いい日だ。
    「選べなかったから助かる」
    「じゃあ初めは俺がトップでいい?」
     甘い声で頬に口付けられ、腰が抜けそうになった。
    「……シャワーに」
     頷いて、おずおずと身体を離す。
    「待ってる。俺ちょっと寝ちゃうかもしれないけど、起こして」
     マルコはそう言いながらベッドに座り、微笑んだ。

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