それを君が言うのか!「私は、少年を大事にしたいのだと思う」
定期メンテナンスの直前。越水から不具合がないかと尋ねられたアオガミからの回答に越水は一瞬、息を吞んだ。
「何故」
――今、そのような事を口にしたのか。
越水が続けて問えば、アオガミは僅かに目を伏せた。
「貴方に尋ねられたので」
己の感情はベテルの神造魔人としては不要なモノだと、彼は応える。今までに越水が、どのアオガミ型からも聞いた事が無い程の小さな声であった。
「そうか」
肯定でも否定でもない、相づち。
曖昧なままでアオガミにメンテナンスを開始することを告げれば、彼は大人しく越水の指示に従った。先ほどまでの戸惑いの気配を一切感じさせずに。
アオガミの背中を見送りつつ、越水は思案する。生命と知恵の関係性が良好であること。それは、越水にとっても望ましい状態である。だが――。
(お前は、どうして)
――そのような事を口にしたのかと。
神造魔人であるが故に、アオガミの思考を"調整"する事は可能だ。アオガミは、それを理解して越水に告げたのである。
『私は、少年を大事にしたいのだと思う』
隠せていない――否、感情を御し切れていないのだろう、熱の篭もった声音。
心がない筈の神造魔人が得た明らかな恋情を目の当たりにし、越水は溜息を吐き出した。
越水の珍しい挙動に驚く研究員達を尻目に、越水は操作盤へと手を伸ばす。これから実施するのは定期メンテナンスである。前回と全く差異のない、謂わば健康診断である。
この選択がいずれ、越水――ツクヨミにとって不利となる原因になろうとしても。
越水は淡々と作業を続けるのであった。