桜は、まだ咲かない「もう少し早く、ダアトに行きたかったな」
少年の発言の意図が分からずにアオガミが首を傾げると、少年は図書室の窓を指さした。
「その辺の木、全部桜なんだ。でも、今年はもう」
彼は「一緒に見たかった」と、風に揺れる新緑の葉を眺めている。
日本支部のデータベースを検索する迄もなく、簡易な検索でこの学園の春景色をアオガミは知れるだろう。しかし、アオガミの指先がこめかみに当てられることはなかった。
「そうか」
少年と同じ景色を視界に収め、アオガミは呟く。
「ならば、来年か」
「え?」
己を振り返った少年の視線に気づき、アオガミも少年へと顔を向けるのであった。
「私も、君と同じ景色を見たいと思う」
「……そっか」
アオガミとの距離を一歩詰め、少年は白銀の指先へと手を伸ばした。
「楽しみだね」
触れた瞬間、ゆっくりと握り返される感触。
大きな手に包まれる幸せを享受しつつ、少年は再び緑の光景に視線を向ける。
桜並木を共に歩む日を――願いながら。