だれにもおしえてあげないよ。 ベテルの研究者達よりもアオガミを知る者はいないだろうと、少年は冷静に理解していた。
知恵であるというのに立ち会いを許可されないメンテナンス。いつの間にか治っていた指先の塗装。アオガミが生まれた時の事。きっと、彼らは自分が知らないアオガミについて沢山の事を知っているのだろうと、少年は理解していた。嫉妬を抱きながら。
(でも)
己の頬を撫でる大きな白銀の手に、少年は自身の手を重ねる。
ただ触れるのではない。躊躇いながらも、のばしてくれた手。優しくなでる冷たい指先。
(この感覚を知っているのは、俺だけだ)
アオガミの掌に唇を触れさせながら、少年はそっと微笑むのであった。
***
アオガミは少年について詳細を教えられていた。
いつ、どこで生まれたのか。通ってきた学校の名前や、現在の少年の身長体重などの情報も全て。ベテルから教えられた情報である。
しかし、アオガミは理解していた。これは少年を理解している訳ではないと。
少年が生まれてから十八年間、彼の日々をアオガミは一切知らないのだと。
(だが)
アオガミの手は少年の柔らかな頬を撫でた。
戸惑うことなくアオガミを受け入れた少年の細い指先が、彼の手の甲をなぞる。意地悪な笑みを浮かべながら、同時に嬉しそうに少年がアオガミの掌に口づけをする。
(この感触を知っているのは、私だけだ)
もう片方の手で少年の前髪を上げ、アオガミは丸い額に唇を落とすのであった。