二人だけの秘密だよ 閉じた目を開いた少年の視界に映り込んだのは、普段と変わらぬアオガミの表情。
少年以外にとっては、だが。
「嫌じゃ、ない?」
緊張で震える少年の声。
好きだと。愛してると伝えた少年に対して、アオガミは即座に首肯で答えた。私も同じだと。
だが、本当に同じか不安になった少年は咄嗟に動いてしまったのだ。目前にあるアオガミの首へ両腕を回し、唇を重ねた。
(どうしよう)
取り返しの付かない事をしてしまったと、少年は己の体も震え始めてきたことを自覚した。
――もしも。
もしも、アオガミの「同じだ」が自分の好きと違った場合、きっと、これから先は――。
「少年」
少年を呼ぶと同時に、アオガミは少年の背中へと両腕を回した。
「私にはベテル日本支部への報告義務が課せられている」
直前までの諸々とあまりにも関係のない話。
その唐突さに少年がぽかんと口を開けるが、アオガミの表情は至って真剣なものであった。
「我々の逢瀬に関しては、秘匿しておこう」
「え?」
「……ベテルの神造魔人としては不適切な言動だとは理解している」
だが、と続けてアオガミは少年の後頭部に触れる。
「君のその表情を私以外が見るなど――我慢ならない」
普段よりも早口で、普段よりも熱の篭もった宣言。
(俺の馬鹿)
――どうして自分は、アオガミの主張を素直に信じられなかったのだろうか。
アオガミに対する罪悪感と、己に対する失望感と、それらを遙かに凌駕する幸福感。
少年はアオガミの手の動きに身を任せ、再び目を閉じる。
二度目の口づけは、長く、ゆっくりと時間が過ぎていくのであった。