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    Jeff

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    お題:「くしゃみ」
    #LH1dr1wr
    ワンドロワンライ参加作品
    2024/04/07

    #ラーヒュン
    rahun
    #LH1dr1wr

    Blessing 朝風呂は最高の贅沢だ。
     と、ラーハルトは思う。
     春風そよめくこの家に帰ってくると、つい所望してしまう。
     彼の相棒は、汚れてもいないのに長風呂なんて気が知れない、と、子犬のように疑り深い目を向けるけれど。一緒に入るかと揶揄うと、ヒュンケルは片眉を上げるだけで、古文書の解読に没頭してしまった。
     パプニカ産の高級綿を肩にかけ、裸の胸を見せつけても、微動だにせずページを繰っている。
     ――この至福がわからぬとは、不幸な奴め。
     煌めく水面に癒されたのち、草原の香りを胸いっぱいに吸い込んで。
     途端に冷えが鼻腔を刺激し、ラーハルトは珍しくくしゃみをした。
    「へっくし」
    「ルビスの加護あれ」と、ヒュンケル。
    「む……」
     ひとしきり連発の衝動と戦った後、ゆっくり振り返る。
    「何だって?」
     ヒュンケルは、魔導書専用の薄い眼鏡を引き上げて、ラーハルトを見返す。
    「何って」
    「何の加護だって?」
     ヒュンケルはぱたんと古書を閉じて向き直る。
    「ルビスの加護だ。何がおかしい」
     ラーハルトは数秒黙考した。込み入った話になりそうだ。
    「くしゃみしたから」
     と、ヒュンケルはあくまでマイペースだ。
    「どういう関係が」
    「普通、言うだろう」
    「言わん」
    「地底魔城の、というか、モンスターは皆そうしていた。誰かがくしゃみしたら、『ルビスのご加護を』。言わないのか?」
     心底驚いた顔のヒュンケルに、ラーハルトは眉間を押さえる。
    「知らん」
    「バランに教わらなかったのか」
    「バラン様にそんな田舎者の習慣はない」
    「失敬な。由緒正しい……挨拶だぞ……たぶん」
     ヒュンケルはもごもご言い返しつつ、はた、と考え始める。
    「……そういえば、なんでルビスの加護なのだろう」
    「知らんで言っていたのか。何者だルビスとは」
    「分からん。だが常識だ」
     人間の常識が通じないのはそっちだろうが。
     ラーハルトは言いかけて、妙に悔しいのでやめておく。
    「まあ、仕方ない。俺は純然たる魔物たちに育てられ、物心づいたころから宮廷に住んでいたエリートだからな。お前の知らぬことも知っているのだ」
     自信満々なヒュンケルに返す言葉もなく、ラーハルトは腕組みして不賛同をアピールした。相棒は美麗な腹筋をちらりと見ただけで、また書物に目を戻す。
    「どうでもいいが、服を着ろ」
     と一蹴されて、天窓に目を逸らす。
     朝の黄色い光が差し込み、似ているようで異なる二人の人生を優しく分けている。
     ヒュンケルの中に生き続ける、遠い遠い謎の世界。
     五千光年の孤独を夢見て――というほどではないにせよ、ラーハルトはもう一度くしゃみをした。

     

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