◯◯◯味の×××と×××味の◯◯◯②ヒュン&ロン編 ラーハルトくん、ヒュンケルくん、エイミちゃんの三人は、ポップくんたちと別れた数日後、武器の修理のために、ロン・ベルクさんの工房のあるランカークス村に立ち寄りました。
ラーハルトくんとエイミちゃんは旅道具を買い足すために出かけましたが、ヒュンケルくんはロンさんと話をするために工房に残ることにしました。
腕を怪我しているロンさんは、武器の修理を弟子のノヴァくんに任せ、工房の片隅でヒュンケルくんの話を聞くことにしました。
「話とは何だ?」
ロンさんが話を促すと、ヒュンケルくんは神妙な面持ちで口を開きました。
「ロン・ベルクよ、聞きたいことがある。あなたは、ウンコ味のカレーとカレー味のウンコのどちらかを食わなければならなくなった時、どちらを選択する?」
「…なんだそれは?何かの謎かけか?」
ロンさんは、怪訝な顔で聞き返しました。
「いや違う。どうやら人間は、いつこの状況に瀕しても良いように、己の中で答えを出しているようなのだ」
ヒュンケルくんは苦しそうな顔で続けました。
「エイミも、人間の社会で育ったラーハルトも即答していた。しかし、魔物の中で育ったオレは、そのような問いかけを知らぬのだ…」
ロンさんは静かに、そしてとても真剣に話を聞いています。
「オレも、いつ選択の瞬間が来ても良いように答えを決めておかねばと思ってな…それで、あなたの考えも参考にしたいと思ったのだ」
「…そうか、なるほど…」
ようやくヒュンケルくんの目的が見えました。しかしこの問いはロンさんにとっても難しいものでした。
「この問いかけは、一見ウンコ味のカレー一択であるように思う。味はどうあれカレーはカレー。間違いなく食い物だ。カレー味のうんこは、たとえどんな味であろうと排泄物に違いはない。動物や魔物の中には、自分や親のウンコを食すものもいるが、魔族や人間がそれをすれば、健康を害するだろう」
ヒュンケルくんが大きく頷いたのを見て、ロンさんは続けました。
「しかし、その程度の話ならば、常日頃から即答できる程に備えておくはずがない。そんな単純な話ではないのだろう」
「ああ、その通りだ」
ふむ…と、ロンさんは思案すると、こう言いました。
「お前は大勇者アバンの一番弟子だそうだな。彼から戦い以外のことは教わらなかったか?人間にとって大切なことならば、一度くらい話題に上ったことがあったのではないか?」
ヒュンケルくんはハッとして、古い記憶をたぐりました。
「そうだ!そんな話を先生としたことがあった…!思い出したぞ!あれはたしか、初めてカレーを食べた翌日の話だ」
ヒュンケルくんの記憶の中のアバン先生が彼に語りかけます。
『ねえヒュンケル、もしウンコ味のカレーとカレー味のウンコがあったら、あなたはどちらを食べますかー?』
「そうだ…あの時オレはこう言ったんだ…『ウンコ味のカレーやカレー味のウンコが本当に存在するんですか?』などと生意気なことを…!」
ロンさんは目を見開きました。
「そして先生は、『タハハ…』と困ったように笑ったんだ……あのとき先生はオレに大切なことを教えようとしてくれていたに違いない。オレはなんということを…!!」
ヒュンケルくんは奥歯を噛み締め、爪が食い込むほどに拳を握りしめました。
それを見てロンさんが言いました。
「今更悔やんでもしかたない。今から自分なりの答えを見つけ出せば良いさ」
「ああ、その通りだ」
ヒュンケルくんはようやく笑顔になり、釣られてロンさんも笑みをこぼしてこう言いました。
「オレも長い人生をかけて、ゆっくりその答えを見つけるとしよう」