ワンドロお題「狩り」とある山奥に、ひっそりと建つ家がある。
そこに勇者の仲間であるアバンの使徒の長兄と、親友の陸戦騎が住んでいる。
「旅をしていたときを思い出すな」
ヒュンケルがフフっと笑いながら言うその先には、毛皮をなめす作業をしているラーハルトがいる。
旅では狩りをしながら進んでいた。基本的には食べるだけをその都度採るのだが、そのうち毛皮をどうにかできないかと考えたのがラーハルトだ。
元々身の回りの物を作る性分だったラーハルトには、基本的な知識と技術があった。
とはいえ旅先でのこと、十分ななめしができるわけもない。
防腐処理のみ施して町の毛皮業者に買い取ってもらうのがせいぜいだ。それでも路銀になるのでヒュンケルとしてはひたすらありがたかったが、ラーハルトは欲求不満がたまったらしい。
以来、狩りの獲物の皮をもっと有効に使うべく、旅に支障が出ない程度に密かに研究と実験を繰り返すラーハルトの姿があった。
そうした経緯で、今も狩った獲物の肉はヒュンケルが加工し、皮をラーハルトが加工する役割分担になっているのだ。
そしてラーハルトの腕前はかなりのものになっている。努力とこだわりの賜物である。
「あの旅は試行錯誤だったからな…」
作業をしながら当時を思い出してラーハルトも苦笑する。
食料を調達しつつ、周囲から情報を集めつつ、生活をしながら二人で進む。
拳と魂で分かり合ったとはいえ付き合い自体は数日程度、人となりを理解しながら、時に理解不能になりながら。
喧嘩もした…もっとも、解決を模索する過程で言い合うのは二人にとって幸せな事だったから果たして一般的な意味の喧嘩であったかどうか。
様々な出来事を経て、今の暮らしに落ち着いて。
生活のためにずっと働く毎日だが、生きているとしみじみ思う。
肉と毛皮になった狩りの獲物に感謝をしつつ、手を休めることなくきちんと消費する二人であった。