Beast うつ伏せたままの白い背から、ゆっくりと体を引き剥がす。
粘着質な何かが二人の間に糸を引く、淫らな錯覚と共に。
すでに汚れ切ったブランケットを引き寄せ、なるべく清潔な一角を使って、恋人の身体から体液を拭き取っていく。
だらしなく投げ出された四肢をそのままに愛でて、柔らかい尻に散った噛み跡をなぞり、数日は残りそうな腰の圧迫痕を密かに撫でる。
湿った大腿をざっと綺麗にしてやってから、脊椎の凹凸に静かに唇を寄せた。
一つ一つにキスを落とし、甘く苦い皮膚を味わいながら、首筋まで登っていく。
意識の無い恋人が、小さく喃語のような音を出した。軽いハミングで答えて、銀糸のような髪の生え際に指を通す。
顔を離して、大きく息をつき、彼の後ろ髪をかき分ける。
もはや習慣になっている。確認せずにはいられないのだ。
うなじの奥、髪に隠れてしまっている際どい位置に、何かが見える。
ただのアザではない。焼きごてでも無さそうだ。
皮膚から滲み出て、自ずから発光するかのような。
――自分では確認できない位置だ。おそらく本人は知らないのだろう。
彼の師も、仲間たちも。彼の父親は、もしかしたら気づいていたかもしれないが。
過度に興奮した時にだけうっすらと現れる、奇妙なしるし。
ラーハルトは目を細め、首を傾げて、その形を読み取ろうとした。
反転した竜のような。何かの製造番号のような。
だがなぜか、いつも記憶できない。快楽に溶けた脳が機能不全に陥っているからなのか。
それともこの紋様が、認識されるのを拒否しているのか。
「お前は、一体、誰なんだ」
何十回目かの呟きは、ほぼ寝入ってしまった恋人には届かない。
俺は一体、なにを抱いているんだ。
薄れていく紋様に、眠気が呼び覚まされていく。
ため息とともに全てを諦め、薔薇色に染まった首筋に頬を預けて目を閉じる。
どうせいつか、分かる。この不吉な運命が追いついてくる。
来るがいいさ。
俺からこいつを奪えるものなら、奪ってみろ。
地獄の底まで追って取り返し、運命とやらを八つ裂きにしてやるまでだ。
規則正しい寝息が混じり合い、熱が夜気に癒されていく。
二人の皮膚の間、濡れた銀髪に隠れて、そのしるしが緩やかに明滅した。
何かの警告のように。
あるいは、祝福のように。