自己認識 少し離れた場所でしゃがみ込み、デコピンを食らった額にハベトロットから絆創膏を貼ってもらう道満を眺めてから、マスターは振り返りヘシアンを見た。
「そういやヘシアン、ニャンコを説得した時、ロボはなんて言ったのか知ってる?」
首なしの騎士に問うと、彼の指が狼王の脚を指さした。
それから指は道満を指し示し、最後に自分の喉へ向けるジェスチャーをしてみせた。
「どういう事?」
「……こうではないでしょうか」
マスターと共にヘシアンの動きを目にしていた晴明が口を開く。
「ロボ殿にとってその鎖は忘れがたき屈辱の証であり、彼を構成する概念の一つ。我々が現界した時の服を着替えられるように、鎖も実を持っているのだから外せるはずで。だが今なお身に着けたままであるのは、人間を憎む心を決して忘れてなるものかという楔の役割を持っているから。鎖の音がする度に、彼は自身が何者であるのか認識し、だからこそ彼であり続ける事ができる。
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