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    029to5han

    @029to5han

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    029to5han

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    イマ狐晴道(生前) 晴明が狐の姿を持つと知らない蘆屋道満、自宅の庭にひょっこりと現れた狐がえらく賢そうな目で見つめてくるので人語を解するのかなと思い、愚痴やら独り言を聞かせるようになる。そうすると胸が少しすっきりした。
     物言わぬ獣相手に結構な胸の内まで晒す日が数日続き、そんな中で晴明には伝えていなかったはずの事が知られていると気がついた。
     よもやあの狐は式神かと問う道満に、晴明は違うと答えた。
     おかしいとは思いつつ、再び訪れた狐に道満は声をかける。晴明の式神でないのならばと、改めて本人に面と向かって言うのは恥ずかしくおこがましいと、一番胸の奥に隠していた想いをぽつぽつと語り出す。
    「おまえ…そんなつまらない事を考えていたのか」
     いきなり声をかけられて道満の目が驚きに見開かれた。式神ではないはずでは?という考えを見抜いたように、「そりゃ私本人だから式神ではないだろう」と言い返す狐。
     狐が晴明と同じ口調と声であった事に絶句する道満。動揺を知ってか知らずか頭を擦り寄せ「次は面と向かって言いなさい。この姿では抱きしめる事もできやしない」。
    「お断りです。忘れて下さい」
     道満の声は努めて冷静に振る舞おうとしていたが、震えが隠しきれずにいた。秘めた想いを『つまらない』と切り捨てられたのだ、心穏やかではいられる訳がない。
    「聞き入れると思うかい?」
    「ではここで死んで下さいませ」
     問答の後で瞳に剣呑な光を宿した道満の身体は次の瞬間衝撃に揺らぎ、気づけば狐に押し倒されていた。
    「忘れろと言うならこの姿で犯す」
    「なんと乱暴な。それが貴方の答えですか。つまらないと笑ったくせに」
    「私に直接言えない、あれこれと考えて下らない事を気にしているのがつまらない。……せめて初めての口づけは人の姿が良かったのに、強情な」
     苦々しく呟いた晴明だったか、下から手が伸びる。首を締めにかかったかと一瞬警戒した晴明ではあったが、長い指は柔らかな毛皮に沈み込み、ゆっくりと撫でた。かと思えば狐の体は引き寄せられて道満の腕の中。
    「では初めての抱擁を獣の姿で受けるご気分は?」
     笑う声に皮肉はあれど嫌な感じを受け取らなかった晴明は力を抜いて道満の上に身を伏せた。
    「悪くない。それに免じて今回はおまえに華を持たせてやろう。ただし次は覚えていなさい」
    「さて、人の姿の晴明殿はこんなにも触り心地が良いとは思えませんが?」
    「おや、気に入ったのかね?」
    「ええ、とても」
    「……触り方がいらやしい。そういうのは私がするはずなんだがね」
    「では次は、そう言って誘いに来て下さいませ……待っております」
     抱擁する道満の手が緩んだ。
     約束するよという言葉の代わりに鼻先をちょんと道満の頬にくっつけて、狐はするりと腕から逃げると去っていった。
    「夢……ではないですよね?」
     狐の消えた方向を見つめて一人呟いてから、明日からどういう顔で彼と向き合えばいいのだと思い出し、道満は独り悶絶した。


     道満の杞憂とは裏腹に数日は晴明と顔を合わせないで済んだ。正直、生きた心地がしなかったのでありがたい。勿論、合わないように立ち回っていたおかげもある。
     しかし遂に約束の日は訪れた。
     暗くなり人気の途絶えた内裏でとうとう捕まった。
    「さて、道満。あの日の再現をしようか。もう一度聞かせなさい」
     逃げられないと悟った道満は観念して最優の耳元で羞恥に震えながら声を絞り出し想いを告げる。
     言い終えて、今から舌を噛んで死ぬかと思った顎が掴まれ唇が重ねられた。
    「莫迦な事を考えるんじゃない。今からもっと素敵な事をするのだから」
     すぐに離れた晴明の唇は笑いの形を刻んでいた。
    「その前に、私の抱き心地はどうか確かめないのかね?」
     再び晴明の唇が重ねられ、道満の身体は柔らかく拘束される。告げた想いが許されていると知った道満は晴明の身体に腕を回し、滑り混んできた舌に自らも絡ませる。
     激しさを増し奪い合うような口づけと、晴明の背にすがりつく指。それが答えだった。


     数日後、庭にまた狐が現れた。
    「またそのようなお姿で…」
    「この姿の方がおまえは素直に接してくれるからね。それにこちらの姿も好きだろう? ああ、人の姿でなくて残念だったかな?」
     隣にちょこんと座り頭を差し出してくる晴明に『仕方のないお方ですね』と笑いながら、道満は晴明狐を静かに撫でるのだった。
     抱き合えないのは残念だが、この毛並み……やはり虜になってしまう極上の肌触りとうっとりする道満を見上げる狐の顔は、そんな訳がないというのに、なんだかニヤニヤと笑っているように見えた。




    🦊おしまい
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    kanamisaniwa

    MAIKING晴道+息子(吉平)+息子(吉昌)『アー、てすてす!こちら安倍晴明の座経由で通信中!安倍吉平の弟吉昌ですがー!兄さーんまたへんな男ひっかけてないよなー?』
    「……突然の情報過多に色々と追い付けない僕マスター。誰かヘルプ…!!」

    ふいにノウム・カルデアの食堂に現れた五星が描かれた掌大の人形の紙がそんな声を発して、立夏は盛大に頭を抱えた。
    いきなり未召喚ならぬ未実装の英霊から通信が飛んできたことも異常だし、それが安倍晴明の息子で吉平の弟というのも驚くしかない。そして、その紙が飛んできた食堂の状況もまた悪かったのがいただけない。

    「んお?なんだなんだまた日本の魔術師かぁ?」
    「こいつらやたら紙を使う術が好きだな。男なら正々堂々直接乗り込んでこいよー」
    「ひっく!そんな紙切れ気にするな!ほら飲め吉平!シンシン秘蔵の酒だぞー!」
    「んー、…ごくん」

    カルデアきっての酒好き達が集合し、やんややんやの飲み会の真っ最中だった。


    「おわぁぁっ!吉平さんもうやめよ?!顔真っ赤だから!!ってこれ奇奇酒?!誰が持ち出したの?!」
    『…まあ、予想の範囲内だが。おーい、カルデアのマスター!父上か道満法師様は呼べないか?』
    「ついさっきま 1690