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    いしえ

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    新規の文章と絵などの公開をこちらに移動。
    最近はコとか封神とか。
    そのほか、過去にしぶに投稿したものの一部もたまに載せたり。
    幽白は過去ログ+最近のをだいたい載せています。
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    いしえ

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    趙呂の全年齢。いちばん気に入っているのが[エンプティ・~]。少しでも趙呂の多様性の生態展示になれば幸いです。詳細は本文内キャプションにて!
    ・[ネームプレートとネームカード]
    ・[頭痛くんの頭痛のタネ/趙呂+頭痛くん]
    ・[寒天培地に愛をこめて/趙呂(+呂親子少し、余化と飛刀の要素一瞬あり。微エロ)]
    ・[エンプティ・ネスト、ハッピー・エンド]

    #封神腐
    rottedTofu
    #趙呂

    趙呂全年齢4作まとめ(微エロ要素含むものもあります)[ネームプレートとネームカード]

    (キャプション)
    呂岳の名札と一人称、趙公明が彼(ら)の戦いをうつくしいと評しながら暗く下賤とも形容した理由について。
    幼少の呂岳を趙公明が拾って名付け、その出会いの記念日を毎年祝っている設定です。
    性行為ほのめかしあり。
    最後に一文、馬元を趙公明が名付けた設定をさらっと入れてますが、ここは呂岳が名付けるかちょっと悩みました。
    初出2023/1/15しぶ
    (キャプションここまで)





    「ねえ、呂岳。僕の、かわいい所有物。前から思っていたのだけれど――キミの、その、一人称。この僕のモノだと言うのに、キミがへりくだる必要が、どこにあるんだい?」
     それは決して責めるというふうでなく、ただただ純粋純然たる疑問視。ただ、問いかける。対話がしたいのだと正しく酌んで、呂岳は、真っ直ぐ返す。
    「公明さま…だからこそ、です。“小生”は、美しく気高い貴方さまのしもべ。しもべに過ぎません。公明さまと比べて、小生の、なんと暗く下賤なことか…! そう思うと、どうも気軽に、…ぼく、だとか、ましてや俺なんて、名乗る気にはなっちゃえないんですゼァ」
     エヘ、と困ったように笑んで呂岳が返せば、主は、きょとりと、あどけないかお。それからにこり、すべて包み込むように笑み返してこう言ったのだった。
    「……ふぅ。わかったよ、呂岳。キミがそう思うのなら、好きなようにするといい。僕は、キミのその意向を受け止めよう! けれど、これだけは忘れてはいけないよ。キミは、僕のうつくしい、しもべのひとりだと。
     さあ、明日は、僕が幼かったキミを拾い、門下にした記念日だね! この晴れやかな日を今年も祝えることを、心から嬉しく思う」
    「……ありがとうございます、公明さま…」
     ふわりほころぶその至高は、さながら黒薔薇。その魅力をわからせてあげてもいいけれど、それはもう少し、この長い仙人生のとっておきにしておきたいものだね! そんな主のまなざしにそわり、そわついておきながら気付かぬそぶりで、子猫は、翌日のパーティーの飾り付けを手伝いに行くという。それを狂おしいほど愛おしく思いながら、趙公明も、そのあとをついていった。
     そのパーティーには、例年、恒例となっている習わしがあった。ひとつ。呂岳曰く、主との出会いに感謝する日でもあるので準備は呂岳も手伝うこと。即ち、主役は呂岳と趙公明の二名。ふたつ。これは趙公明が幼子を呂岳と名付けた記念日であり、つまりは“呂岳”の誕生日である。よって、三姉妹により用意されるケーキには、決まってチョコレートプレートが乗るのだった。仕上げとして手伝う趙公明による、このプレートが。
    ――“呂岳へ。出会いを祝して。”
     これらは、いちばん最初の年だけはサプライズで用意されたため異なった。準備は三姉妹と趙公明の四名のみが行なったし、プレートの文字は“誕生日おめでとう、呂岳”だった。呂岳はそれをたいそう喜んで、ぽろり、琴をつまびくよう涙をこぼしたものである。そして。四名に感謝を述べたのち、呂岳はこんなことを言ったのだった。
    『趙公明さま…いただいたこの名前、もっと好きになっちゃいました。名札にして、ずっとつけておきたいくらいです!』
    『名札…! それほどまでに喜んでくれて、心から嬉しいと同時に、ひとつ名案が浮かんだよ。キミへのプレゼントを、今ここで、ひとつ追加しよう。とりあえずは間に合わせだけれど…』
    『へァ?』
     さらさらっと、ペーパーナプキンに筆を執る趙公明。そうして出来上がったのが、呂岳の名札だった。
    『このパーティーが終わったら、すぐに正式に作ってあげるけれど…今はこれがキミのネームカードさ! キミが僕のかわいい呂岳という証であり、お守りになると、いいのだけれど』
     趙公明は、三姉妹相手にも見られるように、疑似家族への情をそれなりに持つ。このころの趙公明と呂岳とは、まだ、疑似親子に近い間柄だった。けれど同時に、当初から、一貫して所有に近い感情も見せていた。それを、理解していたからこそ。だからこそ呂岳は、その所有タグを、大いに喜んだのだった。
     呂岳はそのペーパーナプキンを初めての名札と認識し、そのまま胸に付けたがったけれど、趙公明がゆるさなかったので、正式に用意してもらったものを胸に付けるようになった。ペーパーナプキンの名札は机の引き出しに仕舞い、日に何度も、胸元と一緒に見返した。つまりは、その、いちばん始めの所有タグを、知る者はほとんど居ないということだ。それすらもが、趙公明の所有欲のグラスに上質酒をわずか注ぐのだった。
     呂岳は戦闘向きではないけれど、すぐに研究者としての能力を伸ばし、研究にいそしむようになった。薬品を燻したり、手洗いをする際などにわずかずつ名札はまっさらではなくなる。徐々に、ゆっくりと劣化する。その都度、主はつくりなおしてくれた。引き出しに積み重なっていく名札の枚数が、積み重ねてきた日々をそのままに表現するようでいつも呂岳の胸を満たす。胸元掲げたその名が、趙公明に所有されている感覚が、常に、呂岳のこころを満たす。
     かくして今年も、パーティーの日となった。ケーキにはお馴染みのチョコプレート。呂岳は、おもはゆく思う。同時に、同時にだ! おこがましい感情もちらつくのだから、自身はやはり卑しいとおもうのだ。
    ――小生、そろそろ、プレートや名札で満足しきれちゃうガキじゃないですゼァ。
     ああ、なんてぜいたいくな感情だろう! 言えばきっと、『キミはいつまでも、僕の子猫さ!』だとか言われるのだろう。わかってる。それでも、止められないのだ。呂岳は、ちょうど、肉体的に思春期に差し掛かっていた。プレートを挑発的にたべれば、なにか、なにかが起きるだろうか? 主が自身に向けるまなざしのニュアンスに、気付かないほど阿呆ではなかった。それでも、それでもまだ手を出されない。所有物なら、所有物らしく扱われたいのに、まるで成長を待たれでもしてるようでじれったい。
     早く大きくなりたい。だからこそ。このプレートを、この名札を、着実にまた一枚と、重ねて行くしかない。わかってる。だのに。
    「………、公明さま。…小生、このあとの二次会を、考えついちゃいました」
     あたう限りの媚びを声音に。あたう限りの、道化をこの身で。ぴくり。うるわしい眉がわずかぴくついて止まり、こくりと、グラスを傾げ嚥下する。ふぅ、と、静かにグラスを置いて、趙公明は、ふるり、ちいさくその長い前髪を揺らす。刹那絶望。見透かされ拒まれた。けれど、ああ、ああ違ったのだ!
    「……ぼくの、…かわいい、呂岳…… いいだろう。このパーティーのあとは、二人きりで、水入らずといこうじゃあないか…」
     機が熟すのを待たれるほど子どもじゃあなくて、けれど上品に誘えるほど大人でもない。下卑た誘いに乗る貴公子が、すべて、すべての理解者であり超越者。予定より少し早いとでも視線が言う。構いやしませんゼァ、と、視線で返す。
     黒薔薇は、摘まれてなお、うつくしく香った。幾度も、愛好されるためだけに咲いては香り、散り乱れ、そして咲き直した。
     それからも呂岳は名札を付け続けたし、変わらず、パーティーは執り行われた。ひとつ加わった慣習に、そのあとの“二次会”があるけれど。それから、二人の関わり方が日常的にひとつ増え、名札は時折、胸に留めた紙に直接書かれることもあった。一画、一画、緩急付けゆるぅり運ばれる筆。そのくすぐったさは呂岳を昂ぶらせ、趙公明の嗜虐心を大いに満たしたものだ。
     のちに呂岳は子を拾い、趙公明が馬元と名付ける。その子どもからの疑似家族としての情を信じ込んだことは、呂岳の、生い立ちによるものなのだった。






    ---
    [頭痛くんの頭痛のタネ/趙呂+頭痛くん]
    (キャプション)
    頭痛くんと趙公明がメイン。周囲を巻き込む趙呂の趙の話。呂岳の出番は少しだけ。キスのみですが発言が少しよこしま。
    初出2023/1/18しぶ
    (キャプションここまで)





     呂岳の手下“頭痛くん”には、今、大きな頭痛のタネがある。それは――
    「っ、…公明さま、ぁ…」
    「…っ、呂岳……今日も、キミは、うつくしいね…」
     上司と、その師である“主人”との濃厚でディープなキスシーンをたびたび見せつけられていることだ。正直言って困惑どころかドン引きである。なにかのプレイに巻き込まれている。そんな予感が、するのだった。彼らの仲は門下では有名で、だれでも知っていた。
     しかし、それにしても、だ。用があるとラボに呼びつけておいて、この仕打ちはいったい何度目だろう。たまりかねて、上司に苦境を訴える。理由を、尋ねた。すると、こんなふうに返されたのだった。
    「っ、…そんなことはっ、小生ごときが分かっちゃってるもんかァ! 公明さまに訊いても、…うったえても、なにも、理由は教えてくださらないんだ…頭痛くん、キミ、取り次いでやるからちょっと訊いてみちゃってくれない?」
     理由は教えてくれない、の“は”に無意識下のニュアンスを感じていっそうに頭がキリキリする頭痛くんなのだった。ほかには、なにか、教え込まれているのだろう。上司の性事情なんぞ知りたくもない。
     頭痛くんは、呂岳の回答がはぐらかしやすっとぼけでなく、本気で心当たりがないのだとだけ理解することにして、仕方なく、無理矢理取り次がれたサロンで直接、趙公明相手に尋ね直すのだった。
     すると、こんな答えが返ってきた。
    「僕のかわいい呂岳が、その気のなかった卑しい小男にさえ欲情の目を向けられるようになる……それでも、彼の愛するのはこの僕ただ一人…… 最高に、燃えるシチュエーションだと思わないかい?」
     己を抱き締め酔いしれるよう一人語りに浸るなり(それでもやけに通る声だ)、キリッ、と、向けてくる整った顔。理解できるものか! くらり、めまいがしそうな頭痛くんなのだった。愕然とさえした。けれど。真相は違うのだと、すぐにタネ明かしされる。
    「…と、言うのはあくまでジョークだけれど」
     どう考えても、半ば本気に思えたものだが。
    「キミ、…“頭痛くん”、と言ったね?」
     空気が、まとうものががらり、変わるのを身にヒリついて感じ、ぞくりと寒気がした。
    「呂岳はね、拾い子馬元さえも、僕に名付けさせたんだ。それが、初めて、自発的に名付けを行なった。――その一番手が、キミ、というわけさ」
     ころされる。そうとさえ、思った。死が、死がすぐそこに見える。
     ぱちくり、ゆたかなまつげがきょとりとばかり瞬いて、一転ふわりほころぶ。
    「ああ、すまないね、そんなに怯えることはないんだよ、頭痛くん! 僕は、ただ、少々キミに、ジェラシーを抱いてしまったというだけのことさ! 召し使いの成長は好ましいけれど、それを見つめる主人の座は、時に悩ましいほど、僕を苦しませるものだね…」
     へなへなと、安堵でへたり込みそうになるのを、こらえる頭痛くんなのだった。
    「…けれど、安心したよ。キミには、どうも、間男になる気は砂塵のひと粒ほどもないようだ。キミが、僕の呂岳によこしまな感情を一切も抱いていないと、確認できてよかったよ。試すようなことをして、すまなかったね」
     どちらかと言えばからかわれたのだと、感じつつ、この絶対者の余裕をわずか奪う上司を心底恐ろしく思ったものだ。性的に意識しようとはみじんも思わないけれど。
    「それじゃあ、行っていいよ、頭痛くん」
     それは、それはすべてからの解放の宣告だった! けれど、続きがあろうとは!
    「あ、それから――」
     どきん。心臓が、跳ねて止まるかと思った。
    「今度は、昏迷くんにもよろしく言っておいてくれたまえ」
     ああ、あいつ、いつだかラボに用事があったみたいでたまたま戸の隙間から様子を窺っていたんだった。昏迷くんがそれを話題にあげることはなかったし、上司も気づいていなかったようだから忘れていたけれど、頭痛くんはまた肝が冷えついた。
    「順番はともかく、みんな、一通りこのテストを受けてもらうつもりだけど――いいかな?」
     いいものか! 思っても、言えるはずもない頭痛くんの頭痛は、まだまだしばらく続きそうだ。






    ---
    [寒天培地に愛をこめて/趙呂(+呂親子少し、余化と飛刀の要素一瞬あり)]
    (キャプション)
    バレンタインネタ。媚薬ネタ(直接描写は少し)。全年齢ですが終盤微エロ。+呂親子、一瞬だけ余化と飛刀の要素あり。
    初出2023/1/18しぶ
    (キャプションここまで)





     趙公明の門下では、バレンタインなる慣習がある。それは師弟の間で贈り物を交し合うものだ。師・趙公明の弟子たちは、更にその配下にまで贈り物をよこすのだった。
     呂岳から手下の頭痛くんたちへの贈り物は、決まっていつでも、てのひら型の寒天培地。厳密には、それ風の寒天なのだけれど…菌などの培養に用いるそれを、ましてやてのひら型のタイプのものを贈られるのは正直、ちょっと気味が悪い。呂岳がその嫌がるリアクションを楽しんでいることも理解していたから、手下たちにとって、バレンタインは素直に嫌そうなオーラを出す日となっていた。けれどそれは、いとし子馬元と、主人趙公明相手には、どうも異なるものらしい。
    「はい、馬元くん。これ、なんとお父さん手作りの、培地風寒天だよ~!」
    「わーい!! いつもありがとうございます、お父さん!」
    「……うん。手作りだけに、手、なんだけど…コレ、嫌がらないの馬元くんくらいだよ。まあ余化のヤツも飛刀への嫌がらせにいいとか言ってるけど」
     頭をよしよしと撫でながら、呂岳はしみじみ、己の英才教育ぶりを噛みしめるのだった。それを面映ゆげに喜びながら、けれど馬元は純粋に、疑問をぶつけてくる。
    「そうなんですか? 趙公明さまは?」
     どきり。鋭すぎる、質問だ。やはりこの子は、自慢の子だ。おもうと同時に、はぐらかす呂岳。
    「あー……あのかたには、そのー…ちがうものを、手作りで、贈ってるから。馬元くんは知らなくていいからね」
    「むぅ。悔しいですけど…お父さんにとって、やっぱり、趙公明さまは特別なんですね」
    「…ん。そーね、トクベツ、か…まぁ、そーなっちゃうねぇ…」
     なにかふたりだけの世界を感じて、まばゆく思う馬元なのだった。
     そして、そのあと、呂岳は最後にと、趙公明のところへギフトを贈りに向かう。師を最後に持ってきているのは理由があった。それは。ひとつだけシャーレに入れた、紅茶あじのあまい寒天。これには、特製の媚薬が入っているのだ。
    「……、…今夜、…今年も、小生のラボで、お待ちしちゃってます」
     ひときりなまめかしく、つとめて。ひときわあざとく、つとめて。誘えば、時には夜を待てないとその場で抱かれることもある。だから、師をいちばん最後にしない限りほかへの贈り物がバレンタインデー当日に間に合わなくなるのだ。過去に、実際そういうことがあった。
     くらり、今年が初めてでもないのに毎年新鮮めかしてよろめく師は、いつも呂岳を肯定した。
    「ああ―― かわいい、僕の呂岳! キミが望むのなら、僕は、いかようにもキミを抱こうものを…けれど、今年の出来栄えがまるでワインのように興味深いね!」
    「へへ…今年は、小生…公明さまと、半分コしたいなァなんて、思っちゃってたりして~…」
     くらり、いっそうくらめく師が、呂岳の胸をどきどきと躍らせるのだった。
     師が、そのかたちよいくちびるをひらく!
    「…わかったよ、呂岳。僕はその愉しみを、今夜までのお預けとしよう! それでは、夜に、キミのラボで」
    「…はい!」
     かくして夜となり、メスで半分に切った寒天を師に先に堪能してもらう。どきどきと、いっそうに、期待が呂岳を高めるのだった。
     師は香りからあじわい、そして、上品に切り分けたものを口腔いっぱいに堪能する。
    「……この香り、この味…間違いなく、僕の気に入りのピーチティーだね。まさに、キミそのものだ」
     この師はよく、呂岳をピーチフレーバーの紅茶にたとえるけれど、呂岳にはどうも、理解しあぐねるのだった。
    「…小生、せいぜい、香りだけで言えばウバだと思いますゼァ」
     メントールの香りのウバなら、まだわかろうものを。と、思うのに!
    「…そんなキミもいいけれど、僕だけが知るキミは、いつだって甘く芳醇な香りをまとっているよ」
     師、趙公明は、寒天の飾りのミントをひょいとつまんでぱくりのみこみ、それさえもまるごと愛すると言外。カァッと、呂岳は頬の火照る心地がする。それどころか、もうまるのみされた心地で全身火照る!
     もうくすりがきいてきたとは思えない。だってまだ、口にもしていないのに!
    「…さあ、キミもお食べ。おっと、そのまえに…」
     ちゅっ、ちゅむり、と、上質な口づけ音。あまい、あまいくちづけ。舌に感じる、師のあじわい。この香りはどちらかと言えば師のイメージだと、蕩けそうなあたまで思った。
    「…まずは、お裾分けだけれど…ふふ、お気に召したようだね。それじゃあ、はい、あーん…」
    「あーん…んむ、……ん? ……っ、!! …公明さまっ、…っ……コレ、ぅ…、…摂って、…よく、正気でっ、…っ…居られますね…?!」
     その即効性たるや! ちかちか、明滅しそうな視界は、心臓ばくんとばくつかせる。すべて、すべて師への欲望だけが支配者。絶対者をより絶対づける、その効能は間違いなく媚薬だ。
    「…正気で、居られるとでも?」
     ぐいと腰を抱き寄せられ、押し付けられたそこに確かに同じ感情を見出して、きゅううっと、胸の締め付けられる心地になる呂岳なのだった。
     その夜は、ずいぶんとたのしいものになったそうだ!






    ---
    [エンプティ・ネスト、ハッピー・エンド/趙呂]
    (キャプション)
    色々と捏造多め。さびしがり屋の趙公明な設定。体の関係あり(作品前主従として、作品後伴侶として。その転機の話)。呂岳がかなり人間してる&宝貝人間を複数つくるつもりだったかんじの発言はしてます。
    初出2023/1/23しぶ
    (キャプションここまで)





     趙公明は、さびしがり屋だ。三人もの妹たちと義兄妹の契りを交わし、ともにティータイムやフレンチを嗜んでいる。かつては競り合える相手を求めて単身崑崙に乗り込みさえした。その、結果として彼は、弟子をとり一仙人として暮らすよう命じられた。いずれ構われにゆく(あるいは、構いにゆく)さだめの相手ができ、自在に構い倒せる召し使いたちさえできた。結果はすべて好材料。その、はずなのに。
     趙公明は、さびりがりやだ。召し使いたちは、優秀な師のもとめいめいに成長する。者によっては、必要な配下を従えるほどになった。彼らが順調に育っていけば、いずれ、仙人の位を得て独立するのだろうか? ちくり! 手入れしていた薔薇の棘が、まるでとげが胸にすら刺さったよう! 趙公明は、そのうつくしい眉を寄せ、親指をくっと、握りこむ。滲む程度の血が、たとえば流れてしまえばいいとさえ思った。構われたいのだ。ぎりり、と、にぎりつぶしたいほど、淀んだ感情が胸をかき乱し髪をぐしゃぐしゃにしたい心地にさえさせたのだ。いつか、この巣は、楽園は空っぽになるのだろう。新しい者を次々入れたとて、巣立っていった者がいればそれは喪失に他ならない。薔薇を、手折りさえしそうになる衝動。弟子じゃなく召し使いと、呼んであえて心の距離を置いているはずなのに。感情は移入と言うよりは依存。趙公明は、さびしがりやなのだ。けれど、ああ!
    「ちょちょちょ、趙公明さまァ?! 親指が、出血あそばされちゃってますゼァ?! 小生でよろしければ、消毒、させて頂きますが…」
     じわり。なにか、そうだたとえばぬくもりが、ぽつんとスポイトで垂らしたように胸に沁みる心地! 温室の薔薇の消毒に呼びつけていた呂岳が、わずかにうつむいた主人の暗い顔を見やったのだろう、鉢に気を付けテクテクかけつけてきて、自らの白衣の胸元に手を突っ込む。取り出したものはほかと似たり寄ったりの試験管だったけれど、趙公明はそれの内容物にあたりをつけ、どこか肩の、こわばりがとれる心地がした。
    「…人間用の消毒液も常備しているとは、恐れ入ったよ。呂岳、キミは、まるで歩く保管庫だね!」
    「ラボのものを持ち出せるのは、小生の特権ですから」
     少し得意げな呂岳のはにかみめいた軽口に、一本欠けた歯に、ああ、心底安堵する! 華奢な体躯を隠すかのように、白衣にびっしり、数々の試験管を仕込んでいる彼はその武装でなで肩に見え、少しチャーミングだと思っていた。その恩恵に直接的にあずかるとは思いもしなかったけれど、長い仙人生、こんなこともあるのだなと思った。
    「…ねえ。キミは……、…呂岳、キミは…いつか、仙人になって、独立したいと思うかい?」
     手当を受けながら、眉間がわずか寄るのを知らずに、趙公明は、単刀直入に問うたのだった。そんな自分にらしくなさを思いながら、どこか、なにかが変わることを切望しながら。すると。
    「小生は、一生、道士のままで居たいですなァ。弟子をとって教育に時間を取られるより、研究に、集中したいですから」
     やはりそれは、はにかみだった。けれどそれが決して趙公明にとって救いのことばにならなかったのは、最近呂岳が宝貝人間の開発実験に成功し、その育成や改造に時間を割くことが増えたためにほかならない。いわゆるノロケ。親馬鹿。師のこころすら、知らないくせに一人前ぶって。趙公明は呂岳の手を跳ねのけ突き放したくなる。消毒されたての親指を、噛んでさえしまいたいと思った。だが、ああ、趙公明のほうも弟子のこころを知らなかったのだった!
    「…公明さま」
     趙公明が呂岳をごっこ遊び的に抱くときだけ許す呼びかたを、意図的にされたことにぴくりと動きが止まる。注意が、引かれる。関心が引かれた。同時におそろしかった。呂岳の顔を、見ることが。責める? 呆れ? それとも――けれど恐る恐る目にしたそれは、彼の顔はいずれの予測とも違ったのだ!
    「公明さま…、宝貝人間プロジェクトがこのままうまくいけば、趙公明さまは、一生弟子に困りませんぜ。巨(おお)きな、おぉ~~きなファミリーになることでしょうなァ。そしたら小生、メンテナンス係として一生公明さまのおそばに、控える必要ができちゃったりなんかして~…」
     冗談めかした彼の念押しする一生のひとことが、軽ぶって重く、ぐわんと、趙公明のあたまをかき鳴らすのだった。その音は天使のトランペットで、教会のベルで、そしてもっとささやかな、夜伽の吐息だった。
    「…小生は、一生、道士のままで…召し使いのままで、居たいんです。宝貝人間も、いつかは成長して、大して手がかからなくなる。者によってはメンテナンスに来るだけで半ば巣立っていくヤツなんかも出来るでしょうなァ。そしたら小生は、新しい核を、べつの個体に埋め込んじゃうんです。…さびしいのは、嫌なんですよ。研究に、集中したいですから」
     ああ、ああ! 彼こそは真に欲し合ったたましいの伴侶で、決してごっこだけで抱いていい相手ではなかったのだ! 趙公明は、自身の目がまるきり曇っていたことを思い知る。そして、ただひとり彼だけを理由なく抱いてきた意味を真に理解した。直観。その語に、ほかならなかった。
    「……、…はは……はーっはっは、僕としたことが、どうやら、こんな簡単なことも理解していなかったようだ…
     呂岳、僕も、一人は御免なのさ。キミは、察していたんだね」
     くらりとよろけそうにばかばかしく安堵して、ようやく、趙公明は呂岳をまじまじ観察し直す。ぼさぼさの髪はツヤも大してない。顔面、標準。体躯は華奢。それなのに。何故かうつくしいと感じてきた、その理由に納得してしまえば、確かに彼は間違いなく誰よりも趙公明自身の次にうつくしいと確信できた。
     少し雑然とした清潔な研究室も、花の香(か)満ちたこの温室も。すべて、すべてが、かりそめの楽園だ。空になることを恐れる鳥の巣だ。永遠めいた祝福を、交わすためのこの生そのものだ。
    「――呂岳。今晩、ダンスはいかがだい」
     てのひらくるり、手当のそれをそのままつうっと撫ぜていざなえば、きょとり、ぱちくり。まんまるのまなこの、ちいさな瞳が瞬いて、きらり妖艶めく。
    「…へへァ。どうぞ、お手柔らかに」
     ああ、ああ! てのひらは、返ったのだった。
     趙公明は、さびしがりやだ。それが変わることは、ないだろう。けれど。だからこそそのたましいの充足を、神かけて感謝する。その伴侶を、神かけて愛す。この生を、今一度肯定づける!
    「…ともに……、…子だくさんなファミリーをつくって行こうじゃあないか。ね、呂岳?」
     ウインクひとつ、半ば冗談。それは逃げ道。必要ないと、わかっていてもまだこわい。趙公明は、理解されないさびしさがこわいのだ。呂岳なら理解してくれる。直観がそう言えど、頭の片隅ちらつくは不安。振り切ってくれるのは当然とばかりその頼りない痩身だった!
    「それじゃあじきに、金鰲じゅうが宝貝人間になっちまいますぜァ」
     けらり、こちらはどこまで冗談かわからないけれど本気の覚悟をその目にみて、趙公明はごくりと、襟で隠したなかでのどを上下させる。同様隠れた呂岳ののどに、喰らいついて痕を寸分残さずつけたい衝動に駆られる。同時にまるで聖人のように、すべて清らかなここちで、つうっと涙ひとつ流したい気にすらさせるこの召し使いが心底恐ろしい!
    「…、…構うとでも?」
    「ひゃははっ。思いませんなァ」
     ひょうひょうぶって、さびしがり屋はふたり、羽根を寄せ合う。
     この巣は仮に空になったとて、しあわせな結末のみが待ち受けている!





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    いしえ

    DONE▼聞仲さまの教育方針=生き様について(ミュ2の話も少しある)(朱聞要素と、途中から飛虎聞とある)
    ▼ミュの飛虎と聞仲について(たぶんCPではない)
    後者はCPではないものの、ともにミュに関する色が強いのでまとめました。
    封神考察とメモ集2(①朱聞要素と、途中から飛虎聞②たぶんCPではない)▼聞仲さまの教育方針=生き様について(ミュ2の話も少しある)(朱聞要素と、途中から飛虎聞とある)▼


     王として生きることは、王として死ぬこと。血族を残し、場合によっては殷のために殉死することで、長期的視野での“殷”全体、即ち殷王国の存続のバトンをつなぐこと。それが王太子の地位に生まれた者の責務である、というのが聞太師の教育でまず刷り込まれることだと考える。
     これは朱氏に子=殷の存続を託されたときから無意識に掲げていて、聞仲さまの潜在意識にあったことで、そして、仙道としての生が意識的に冷酷にさせた、個々の人間生へのまなざしだと思う。聞太師に直接託された“新たな殷王”は、朱妃の子個人のみでなく、半永久的に続くべき、“今後のあらゆる殷王という可能性”なのだった。聞仲はそれをじゅうじゅう承知して、次々に代替わりせざるを得ない人間生を、受け入れるしかなかった。
    3925

    いしえ

    DONE▼三強ベルばら論
    ▼趙公明の"独演・ベルサイユのばら"論 ――三強ベルばら論Ⅱとしての加筆事項
    ▼呂岳考 ――呂岳とその周辺に関する一つの説
    ▼飛刀について・余化や飛虎について
    ▼WJ封神読み返し時の考察&推測とメモ
    そのほかCP色強めのもの(+ミュの話)を別投稿にて。
    封神演義考察ログ集1(大半CP無、一部趙呂等含む)▼三強ベルばら論▼


    趙公明の立ち居振る舞いオスカルっぽいという話めちゃめちゃわかる~~と思ったあと、というか趙公明ってベルばらの三主人公の要素全部混ぜ混ぜだな!?と思ったり、三強もベルばら三主人公の要素割り振られ受け持ってるな~と思った、という話。

    ベルばらは主人公が三人(マリー・アントワネット、マリーと惹かれ合うフェルゼン、そしてオスカル)でマリーとフェルゼンの禁断の恋が王権を破滅に導く。

    妲己がマリーはセリフ引用+役どころで自明。趙公明の「バラのさだめに生まれた」はベルばらOP引用で、歌詞めちゃめちゃ趙公明すぎる曲よね…アニメはオスカルメインゆえ、趙公明がアニメベルばらOPモチーフ+仏王家紋章のユリ(厳密にはアイリスの仲間)の意匠に金と青の配色+髪型もオスカル意識のふわふわ金髪、かな?と。ただ、趙公明と妲己に共通するのが、マリーが取り巻きのそそのかしや恋により悪政へと向かった、外因により造られたれ"マリー"であるのを踏まえると、二人とも見せかけの言動は"マリー"な点。一方、素朴だった頃のかつてのマリーが蘇妲己。
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    いしえ

    PASTしぶから再掲。登場当初のロペスは作中で無欲と扱われていたけれど、実のところ彼にとってみれば、王に仕えたいというその願いが持つ意味がすご~~~~~~~く重かったんだよねぇ!!!!!というのと、それをだれもしらないんだよね!!!っていうのが最高で…無欲そうに見えるロペスが大願を成就させているところ本当に好き…という気持ちを、ロペス一人称文で少しアウトプットしたもの。巨大感情隠した従者のイデアで理想です
    ここに、在るは幸運がため/マルティン・ロペス(アルカサル) 「なんとまあ、欲の無い男だ」。諸侯らが口々に、私を謙虚と褒めそやす。厳しい審判の眼を持つ王さえ、私をそう、賛美なさる。誰もが、ご存じないのだ。その実私が、生涯をおいてもあるいは遠く及び得なかったかもしれぬ大願を、既にこの双肩に得たのだと。十六の少年が、不意の家督において心のささえにしたカスティリア国王、十五で即位したかつての少年ドン・ペドロ王そのひとのお側近く仕えるその至上を、その幸運を! それこそが、私の何よりの強い願望で、悲願で、意欲で、目標だったことを。誰もが、ご存じないのだ。
    「恐れながら――」
     王の取り計らい、即ちサバ読みに応じたのも、お側仕えの夢を快く受け入れてくださった主君への、王のご厚意への、誠意だと思ったからにほかならない。たとえば神がこの方便をとがめたとても、私はそれを、恐るるまい。ドン・ペドロ王そのひとに、そのお心に適うのなら、私は地獄も恐れはしない。
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    いしえ

    PAST趙呂の全年齢。いちばん気に入っているのが[エンプティ・~]。少しでも趙呂の多様性の生態展示になれば幸いです。詳細は本文内キャプションにて!
    ・[ネームプレートとネームカード]
    ・[頭痛くんの頭痛のタネ/趙呂+頭痛くん]
    ・[寒天培地に愛をこめて/趙呂(+呂親子少し、余化と飛刀の要素一瞬あり。微エロ)]
    ・[エンプティ・ネスト、ハッピー・エンド]
    趙呂全年齢4作まとめ(微エロ要素含むものもあります)[ネームプレートとネームカード]

    (キャプション)
    呂岳の名札と一人称、趙公明が彼(ら)の戦いをうつくしいと評しながら暗く下賤とも形容した理由について。
    幼少の呂岳を趙公明が拾って名付け、その出会いの記念日を毎年祝っている設定です。
    性行為ほのめかしあり。
    最後に一文、馬元を趙公明が名付けた設定をさらっと入れてますが、ここは呂岳が名付けるかちょっと悩みました。
    初出2023/1/15しぶ
    (キャプションここまで)





    「ねえ、呂岳。僕の、かわいい所有物。前から思っていたのだけれど――キミの、その、一人称。この僕のモノだと言うのに、キミがへりくだる必要が、どこにあるんだい?」
     それは決して責めるというふうでなく、ただただ純粋純然たる疑問視。ただ、問いかける。対話がしたいのだと正しく酌んで、呂岳は、真っ直ぐ返す。
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