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    いしえ

    @i_shi_e

    新規の文章と絵などの公開をこちらに移動。
    最近はコとか封神とか。
    そのほか、過去にしぶに投稿したものの一部もたまに載せたり。
    幽白は過去ログ+最近のをだいたい載せています。
    ご反応、めちゃめちゃ励みになってます!! ありがとうございます~!!

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    いしえ

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    趙公明の生い立ちと、仙界入りの経緯について、想像して書きました。それからさきの、本編についてもさらりと。通天教主との会話が多少ある。
    最初、紙にざっくり書いて、それからそれを見ずにパソコンで実際に書き始めたところ、データのものと紙とで扱う時間の長さがめちゃめちゃ違っていて、紙のは部分的に没にしたんですが、これはこれでアリだな…と思ったので、話のあとに、おまけとして載せています。

    #封神演義
    #趙公明
    zhaoGongming

    語り継がれし伝説の花よ、鬼神じみたヤマユリよ/趙公明にまつわる話 伝説の花よ、ヤマユリよ。語り継がれし強大なる鬼神よ。バラの宿命さだめに生まれし気高き騎士ナイトのままに彼は生き、神話へとなお、生き続ける。これは、そんな彼、趙公明の生い立ちにまつわるこの地球ほしの比較的新しい記憶だ。
     それは初め、原初性を未だ残したムラより離れた山中に荘厳に咲き誇るヤマユリの、ごく一株に、過ぎなかった。その個体がほかと違っていたのは、寿命が少々、長かった点。幾ら多年草でも、長すぎたのだ。かと言え、山に住む動物たちも付近の植物も、あるいは、稀に足を踏み入れた人間も、それをそのように認識することは叶わなかった。それよりさきに、皆、天寿を全うするのだから。あるものは何となく、自らの生まれたときより同じ場所に咲き誇り続けるそれが、死を目前にしてなお咲いていることを、薄れゆく意識のなか思いながら、天に召された。けれど、それを語り継ぐものが在るでもなし。そのころまだ仙界というものはなかったものの、仮にあったとて、木々に隠れている一株の花を、あえて観測する者もいなかっただろう。そのころちょうど、人間のつくる集団単位は、規模を徐々に伸ばしつつあった、転換期と言えよう。そんななかで、時が、静かにたった。そのヤマユリは、それでも密かに山中に、誇らしげに、咲き続けていた。
     異変が起き始めたのは、その株が周囲の下草をごくごくわずかずつ、枯らしてゆくようになってからだ。その株の地中に張った根と、まるで下草の枯れたがさびしいとばかりに代わりに根からまばらに伸びる、葉だけのついた茎との中で、一本だけ、花の荘厳に咲き続ける茎が常に在る。それ以外の植物が、花を中心として円状に、枯れてゆく。その花の周囲にだけ、まばらに伸びたヤマユリの葉のほかは、なんにもないのだ。けれどそれも、偶然、周りの木にしばらくは範囲が及ばず、天上に未だまなざしもなく、やはり、あったとてみえるほどではない。あるいは、自身の成長を隠すためにあえてそのよう、本能的にふるまったのかもしれない。徐々に変わりゆくそのヤマユリの周囲に、動物たちが、近寄らなくなった。山に足を運ぶ人間は以前と比べれば幾らか増えたけれど、不自然にぽつんとしたヤマユリのほかには動物も植物もないようなところに、大して、用があるでもなく。それでも、見た者は、あのあたりはあの葉が少し多くて、そのほかは枯れているのに、何故かあの花だけが咲いているなぁ、と、少し、不思議に思い、他者へと話すようになった。そのころヒトは既にヤマユリの根を採集して食すようにはなっていたけれど、薄気味悪がって誰も、その個体には手を出さずにいた。ヒトからヒトに、ちいさな集落の範囲で、伝え聞いた話が広まる。原初的な伝承の、始まりだった。それでもまだ、それは近隣の集落とモノやヒトが往来するようになってやっと少しずつ、範囲を広げていくも注意喚起程度のことで、劇的に高らかに広まったわけでもない。
     そのヤマユリの根が加速度的に周囲の養分を吸収していくにつれ、枯草どころでは済まなくなってゆく。不自然に荒れ、不自然にヤマユリだけが茂る斜面は土に飢えその根の表面をあらわにさえしたけれど、けろりと、たやすく覆い隠すよう、更に太く厚い根が、青々茂る葉が、そこを護るように、むくむくと育っていくのだった。葉を茂らせられる密度も、飛躍的に向上していた。そこまで来ればもう隠れみのは必要ない、とばかり、ヤマユリは周囲の木も枯れさせた。おおきな花が、やけに部分的に枯れた、だのにヤマユリの葉だけが茂る山のなか動じず咲いている。その異様な光景は、そのころやっと生じた仙界のうち片方、崑崙山の長、元始天尊にとっては偶然にも既知のことだったけれど、そうでなくとも、耳に入るに時間は要さなかったことだろう。と言っても、黎明期の仙界はそれぞれ地上と海上とにあり、仙道たちの修行と技術進歩の成果として、また、よりスカウト対象を見つけやすくする目的でも、ゆくゆくの天上への浮上を目指しながら、歩みを始めたばかりだったのだ。体系化も不充分で、妖精、妖げつ、妖怪仙人という区分さえ未だなかった時代に、単なる巨大花にかまける余力まで未だなかったというのが正しいところ。その時点でそのヤマユリは、未だ、意思らしい意思も明確には持たずにいたのだ。それでも異常でこそ明確にあったものの、世で起きる異常は、そればかりにあらず。巨大花の件は黎明期の仙界には少々手が余ったし、後回しになってしまった、という部分が大きい。そのころ人間界も、少し体系だった、複数集落の首長というものを持ち始めていたので、その荒廃しゆく山を伝え聞き、異常として騒ぎ、たたりを恐れ祀りを試みるも、成果なし。関わらないに越したことはない、と、おびえながら見ぬふりを、することしかできなかった。じきだれも、近づかなくなった。伝承され続けるその伝説だけが、その花を、確かに後世へと語り継ぐ。あそこの山には、近づいてはならない。当然ながらそのころ、動物たちも距離を置いて久しい。動物の出入りしないことが荒廃を、いっそう決定づけたとも言える。巨きなヤマユリは、周囲の養分を堂々独占し、のびのびと急速に育っていく。荒廃も、急速に進行する。愉快なここちの、確かなる芽吹きが、彼の初めて持った意思なるものだった。
     巨大ヤマユリの根の一部が太い龍脈へとたどりついたとき、その成長はいっそう決定的なものとなる。何十倍、何百倍にもふくれた巨大花は、龍脈を枯らし、明確な意思をもって、貪欲に養分と成長とを欲し続けた。みしりと根張られからからにかわきはてた山は、砂塵のひとかけさえ残らず風へと散った。こんもりと山型に遺った根は、そこから生えるヤマユリの葉が仮になかったとて、その暴露に何ら、害するものを感じるでもなし。表面を厚い根で少し覆っただけに留める。そんな元・山となった根のかたまりが、いくつか、広大な地に点在するようになった。貪欲さは清流もいくつか枯らした。自身以外になにもない、見晴らしのよい景色は実にすばらしい。星月の光を一身に巨きく浴び、独占できるすばらしさと来たら、ああ、分かち合いたいくらいだけれど、山さえ散り果てたそこではもう叶うことなく、残念だ。辺縁に時折、ヒトが迷いつくことはあるも、すぐ引き返されてしまう。実につまらない存在だ。まあ、たとえば迷いついたヒトに根を伸ばし磔刑にしたとて、観客がいるでもなし、そんなつまらないことは美意識に反するナンセンスでしかない。だから巨大ヤマユリは、星月のうつくしさをひとみに写すよう眺め、うつろいゆく空の色を愛し、雲の流れを愛でて、孤独を陶酔と渇望とのなか、過ごした。雨雲だけは等しく根を張ったどこかしらに慈雨をそそぐので、喉のかつえにだけは困ることはなかったし、それゆえにくちをおおきくあけて雨粒を待つなんていう姿を虚空にさらすことも、幸いとなかった。くちをおおきくあけるのは、たからかにわらうときのみだ。陽射しにまどろんでも、あくびはかみころした。美意識が、うつくしい自身にそれをゆるさなかったのだ。すこしさみしいときは自身のおおきな葉を揺らせば、荘厳なオーケストラもピアノソナタも自在だ。ああ、僕は悲運な存在だ。自身の強大さだけが、ただ信じられるもの。その強大さがゆえに、僕は孤独だ。ああ、実に悲劇的だ――
     仙界が徐々に体系立ち、技術も進歩していく。妖精、妖げつ、妖怪仙人、という区分名も、このころ、崑崙山の長元始天尊と、双璧を成す金鰲列島の長たる通天教主との談義のもと生じた。これにより、通天教主は自認を妖怪仙人に置き、金鰲列島は妖精、妖げつ、妖怪仙人の育成と管理を主に受け持つこととなり、崑崙山は主に仙人骨を有する人間をスカウトし育成する、という棲み分けが生じていった。ふたりの長は、人間界でも噂が着実かつ広範囲に広まりつつあった問題児、伝説の巨大花を区分により妖精と位置付けて、それについて、議論する。可能であれば、早急に対策を講じる必要がある。だが、地上ひろく根を張るそれを仙界へと連れゆくことが可能なのか、と。結論と合意は、容易だった。通天教主が、直接赴くこととなる。
     何しろ、花は中空至る高さだ。地上をゆくには根や葉で足場も悪く、通天教主は飛行の出来る妖精何体かに現地まで自らを輸送してもらうことに決める。
     巨大花は、そのときのんびり、お昼寝をしていた。だが、空から近づくなにかの気配に、…馴染みなきその強者のそれに、ぱちり、と、おおきな音でもしそうなほど大きな眼を新星のようにふわり煌めかせ、八重の桃花さえとうてい及ばぬほどゆたかなまつげを花開き、その天地を明瞭づける。天空と大海との覇者のいろをしたひとみに、これまで見上げてきたすべての銀河の星々をそっくりそのまま写し浮かべ、たとえば綺羅星の大群を宝玉に集めたとて斯様な輝きより劣るだろう、というほどの星々のまたたきを、接近者へと向けるのだった。あんなものがそらから近づいてくるのは、生まれてこのかた、恐らく初めてだ。それも、何やら、――たとえば戦闘、…でもしようものなら、…ああ、華麗にて熾烈なるそれを繰り広げることができるだろう。戦闘、という単語の萌芽と、のどのからからに餓え果てそうなほどの猛烈な戦闘意欲の芽吹きとは、その刹那、まるきり同時に生じたものだった。まるで、まるで生来からそれをしっていたみたいに!
    「――…やあっ、ようこそ、我が城へ! 見たところ、キミは、強いようだけれど――この僕と、一戦、交えにきてくれたのかいっ?!」
     ああ、星々や葉の演奏に向けるのとはまるで違うトーンの声音が出て巨大花は少しだけ驚くも、それを、ごく当然のものに、思った。接近者がことばを発するより先に、ワクワクとうきうきを待ちきれぬ様子そのもので麗しのくちびるを開いた巨大花の声は、張っているというよりもその巨きさゆえか大きく地にずしりと響き渡る。近づいてきたそれは、巨大花がことばを発したことにわずか目を見開いたけれど、想定内とばかり、動揺を見せない。そのことに、巨大花は少しだけむすりと気を悪くする。表面上そう見せたつもりはないけれど、見透かしたふうのその接近者が、いっそうおもしろくない心地にさせた。たくわえられたひげをゆるりと揺らし、接近者は、余裕そのもので返す。
    「戦いを、交える気は今はない。――ゆくゆくは、手合わせならばあり得ようがな。それにしても、想定以上に好戦的のようだ」
     思わせぶりなそれに、巨大花は、広大無辺な時間のゆくさきになにかが設けられる気配を解し、興味をそそられた。
    「…へぇ。そうかい。キミは、いったい?」
    「ああ、申し遅れたな。我が名は、通天教主。天上にて、仙界のひとつたる金鰲列島を拓いた祖にして、そこの長を務める者だ」
     そういえば、初めて他者との会話というものをした。巨大花は、そんなことを頭の片隅で遅ればせながら思う。かつてヒトの会話が聞こえていたことはあるけれど、それとしゃべろうと思ったことはないのだ。それにしても、この接近者が発した単語は、初めて耳にするものだ。意味をとりかねて、聞き返す。
    「センカイ?」
    「ああ。人間の内、特定条件を満たすものか、――…あるいは、そなたのように明確な意思を持ったモノ、及び、それらのうちヒトのかたちをとれるようになった者等を、スカウトして連れて行き、それぞれ仙人、妖怪仙人などを目指して、修行させている」
     ヒトのかたち。ヒトのかたち?
    「…僕のような存在が、ほかにも居る、ということ自体も、少々驚いたけれど…ヒトの、かたちを、とれるようになる、だって? それは、信じていい話なのかな?」
     別段、自身より特段に下等存在であるヒトの姿かたちに、憧れたわけではない。ただ単純に、自身がそれをとってみたならば、さぞかしこのあふれん美意識の完全さと気高さと誇らしさとが容貌うつくしくかたちづくり、天さえゆうゆう容易く惑わせることだろう、と、いう、好奇心がくすぐられたに過ぎなかったのだ。ああ、僕はそれを見てみたい! そして、その姿をもって人々を思うがままに操りたい! たとえば、…そう、悲劇の登場人物なんかにしてあげれば彼らも、僕ほどではとうていないにせよ綺羅星のように光り輝くことだろう!
     陶酔に花弁よりも煌びやかなまつげをつむる巨大花に、考えているようなことは概ね承知しているとばかり、通天教主とやらは、返す。
    「ああ。そなたには、ヒト型になって、したいことがあるか?」
     したい、こと。問いに反射的に浮かんだ解を、巨大花は率直に、口にする。それは先ほど思った悲劇の演出家とはまた別の、自然出たことばだったのだ。
    「…張り合いがいのある好敵手ライバルと、華美にて華麗なる、闘いを、繰り広げてみたいものだね。…フフッ、たとえば、キミとか? ああっ、さきほどは我慢したけれどっ、やはり、手合わせとやらは今すぐにでも実行したほうがいい善行だ! ヒト型と言わず今すぐにでも、僕は一向に構わないのだからねっ!」
     言うなり、大ぶりの葉のついた茎たちを騒々しくざわめかせ、その動きに隠した根を何本も、通天教主めがけてニュルニュルニュルッと急激に伸ばす。けれど。
     手短な指示を、飛行させているらしい者たちにちいさく出すのが聞こえた。逃げる気かいっ? そう思ったけれど、違ったのだ! 彼はどうも、このままこの位置を保て、といったたぐいの指示を、したらしいのだ。そうしていとも簡単に全ての根をいなされて、巨大花は花桃の目を、見開いた。――…ああ、ゾクゾクするほどに高揚する! にこり、自ず浮かぶにこやかにてきらびやかな笑みは、奥底から湧き上がる、生の歓びを今、識ったからだ。ああ、僕はこのために生まれた騎士なのだ!
    「――…なるほど? キミと闘うには、僕はまだ、力不足というわけだねっ」
     ああ、力をのばし再戦するがたのしみでたのしみでならないのだ。
    「…ほう。おのが力量を見極める能有り、か…」
     関心したよう言う文字通り上からの目線にも、今は寛容で居られる程度にはご機嫌なのだ。
    「その、修行とやらに、俄然興味が湧いたよ。僕は、何をしたらいい?」
    「…本来ならば、即刻、我が金鰲列島…仙界に、連れ行く必要があるのだが…そなたのその根の張りよう、巨きさでは、ただちに、というわけにも行かぬのが残念だ。
     月光を長期間浴び続ければ、いずれ、ヒト型をとれる妖げつとなる。そなたがヒト型を少しでもとれるようになったなら、その時、改めて我が金鰲へと招き入れよう」
     巨大花は、自身の大地への強大さがゆえに即刻の仙界入りが叶わぬことをいたく悲劇的に思いながら、同時に、与えられた容易い希望のすべを、快諾する。
    「なるほど、月光を浴びればいいわけだね。月光浴は、僕の趣味にして日課ルーティンの一つさっ!」
    「ああ。…それでは、またいずれ、そなたに会えるのを待っている」
    「……フフッ、僕もだよ、通天教主くん!」
    「…ふっ。…ああ、そうだ…その時が来たら、そなたに、名をつけてやろう」
    「名前? まあ、あってもなくても困りはしないけど…」
    「そうつれないことを言うな。ないと、仙界では不便なのだ」
    「…へぇ。何やら、知らないことが多そうだね。そのすべてを掌握した暁には、僕は、もっともっと、巨きな存在になることだろう…ああっ、今から楽しみでならないよ! それじゃあ、睡眠不足は美容に悪いから、お昼寝に戻らせてもらうよ」
    「ああ。…今のうちに、その地を堪能しておくがいい。金鰲はただでさえ海に浮かぶ列島だが、…ゆくゆくは、天高く、大海ごと浮上してゆくのだからな」
    「へぇ? ならば、この僕がその立役者になることは間違いないだろうねっ! 今のうちから、感謝しておいておくれ。それじゃあ、おやすみ」
    「…ああ、ゆっくり休め――」
     通天教主はその場から今ひととき去り、かくして、巨大花は時を待つことになった。なにしろ巨きな花だし、さえぎるものはなにもない。星月を眺めながら、顔に、茎に、張り巡らした根に、茂らせた葉に、いくらでもめいっぱい、月明かりを吸光する。妖げつになるまで、――即ち、バラの宿命を身にひしりと負うを感じるほどの気高き麗人になるまで、そう長くはかからなかった。
     迎えが、来る。天使の数こそひとつも足りはしなかったけれど、これもまた悲運でうつくしい。仙界に着き、趙公明、という名を与えられたときに思ったのは、別段それを気に入ったわけでもないけれど、初めて付けられた固有名詞というものは、なにかじんわりと、慈雨のようにここに、沁みわたるものだな、ということだ。ここは、どこだい? それが胸で、きっと心であることをのちに名詞として知り、なるほど?、と、思ったものだ。名前なんてものは、当初、好敵手を覚えるときにこそ使えどもどうでもいい、と思ったけれど、名付けというものはなにか、なにか特別な意味を持つ行為なのだ。その意味で彼は、のちに義兄妹の契りを交わした妹たちを本名で呼び続けたし、自身のところへと弟子入りしたものたちには、なければ名をくれてやった。ロイヤルミルクティーのカップが、とうとう、それを意味づける。
     さて、話は彼の仙界入り当初に戻る。貪欲かつ華美に強さを求め、貪欲かつ華麗に闘いを求めた趙公明は、仙界に連れて行ってこそもらったけれど、通天教主に「強い相手と闘い続けられるかはそなた次第だ」と言われた。その真意を解するまでも、大して長くはかからなかった。刹那のまばたきよりも短いほどの期間に、めきめき頭角を現した彼の実力に、比類する者は、加速度的に消えていく。いとも容易く、どんどんと、本気で闘える相手が消えゆくのだ。ああ、なんてむなしくて、つまらないことだろう。やはり僕は、悲劇の主役なのだ。そう、思っていたころに、趙公明より遅れて仙界入りした妲己の貪欲なる強さの探究が、きらりと輝く。両者は、本気の手合わせを星々の数さえゆうゆう超えようほど繰り返した。ふたりの仙気や技術研究への貢献もあって、ついに、仙界は天空へとふより浮かび上がる。そのころ崑崙山も、時を同じくしたように浮上した。ヒトの仙人と妖怪仙人とでは、どうもソリが合わないことも海溝のように深々と実感させられていた日々のなか、主砲を動かすほどの激しい闘いを、天空で短期間、した。両者が冷戦状態に入ったのは、そのあとだ。
     "平穏"が趙公明の退屈さをぐつぐつぐらぐらと当然のよう煮詰めた。それでも、こらえたほうだと思うのは、妲己とは気が合ったからだろう。だが、痺れは、切れたのだ。
    ――今や通天教主様と、ともにその両翼となった妲己しか、この僕の修行になるような相手はここにいない。通天教主様にはどうも、崑崙との戦い以降、手合わせを渋られることが増えているし…僕も弟子たちも、ただの修行修行の日々にはすっかり飽き飽きしてしまっているよ。…そうだっ! それならば、華やかに崑崙との宝貝試合を催せばいいじゃないか! ああっ、この閃き力…やはり僕には、天から万物が与えられている…っ!
     そんなことを考え、趙公明は試合の開催を通天教主に提案するけれど却下される。そのくらいで闘いの好機チャンスを逃すほど、闘意の枯れてるわけもなく。趙公明は、単身崑崙へと乗り込む。それは必然ですらあった。元始天尊くん。あたらしい、好敵手ができた。かくして双方の関係は急速に悪化し、あとは趙公明の、望むがままだ―― 趙公明は、さみしいのがきらいだ。だから、構われたい。構いたい。選り抜かれた好敵手は、多ければ多いほど華やかに愉しく闘える! 崑崙との関係悪化の責を問われて通天教主の片腕の座を剥奪されるも、まあ、召し使いを数多抱えビシバシ鍛えるのも、貴公子の宿命として、そう悪いものでもないと思えた。勿論、元始天尊との再戦に向け、自身の修行や努力も欠かさなかった。その甲斐あって、映像宝貝さえ千年でつくりあげることができた。準備は万端だ。その間、出来よく仕込めた召し使いたちを使い、華麗な闘技場を設け人質をとって華やかな戦を繰り広げることも幾度かあった。かくして、時は人間界においては、殷周もうつろいかけるころと、なる。
     旧友妲己と、数奇なもので人間界で合流し、趙公明は、華やかな闘いの模範者となってあげようと、活躍する。映像宝貝にも出番が出来て万々歳だ。悲劇をうつくしく演出し、それを愉しむという喜劇を、彼は生きた。好敵手元始天尊は当然ながら、趙公明の元型がかつての巨大花であることを知っていたけれど、その修行のなかどれほど元型までもが強大さを増しているのかまでは、千里眼をもってしても目視には叶わず、知る由もなかったことだろう。だからこそ、趙公明の元型を、警戒していたはずだ。…そんな奥の手を、新たにみつけた好敵手のため、披露する…さあ、実視のときが、きたよ。それでも元型あだとなり、太公望との闘いをじゅうぶんすぎるほど堪能し、満足そのものに荘厳に、封神される。たのしい、――…実にたのしい、トレビアーンな戦いを繰り広げることができ、本望のなか、彼は天使につれていかれた――
     しばらくは封神台のなか、優雅にティータイムを満喫する。のんびりするのも、たまにはいいだろう。そのくらい、満足できる戦いができたのだ。召し使いたちの駅をサプライズで訪れたり、呼びつけたり、聞仲の駅を訪問して旧交をたのしく深めたり、気ままに過ごす。どうも待たされていたらしい時が来りて、力を貸したのち、封神者たちは神界に住まう"神"となり、人間界への見えない手助けを担わされるようになるのだった。なるほど、小人さんのようで、悪くはないじゃあないか! 戦闘欲求の満たされた趙公明は、比較的何でも、好奇心旺盛に気乗りした。
     伝説の花よ、ヤマユリよ。語り継がれし強大なる鬼神よ。バラの宿命さだめに生まれし気高き騎士ナイトのままに彼は生き、神話へとなお、生き続ける。これは、そんな古代むかしの、おはなしのひとつだ。あとは有史のぞんぶんに知るところだから、地球ほしが語るまでもないだろう…






    ---
    おまけ:(※キャプション参照)没にした部分の、経過時間短めバージョンの紙に書いた本文の一部(出だしから、採用しなかった部分すべて)



     その巨大さを徐々に増しゆくヤマユリは、仙界でもウワサの的だった。
     初めは、恐らく単なるヤマユリの、偶発的に生じた長命個体。すくすく育つそれが異変であると仙界に察知されたのは、前日まではそこに在ったはずの山が、はじめさらさらと斜面の崩れ落ち荒廃してゆくさまゆえ。人間も含めた生物たちは、それが単なる土砂崩れでない、なにか異様な、異常な事態だと本能的に感じ取った。仙界とて当然だ。そこに、妖気の気配を、確かに検知したのだから。"ソレ"はとてつもない迅さで育ち、山は崩れ去り荒野へと化し、刹那あらわになった根さえもその巨大花はいともたやすく自身で覆い隠しながら、加速度的に成長を、遂げる。その巨大花の処遇を簡単な協議ののち当然のよう任されたのは、妖精や妖怪仙人たちを門下に数多抱える、金鰲列島の通天教主そのひとだった。彼は、直々にそこに、赴く。なるほど、荒れ果てた土地だ。

    (以下、採用した部分ゆえ以上にて終了です! お付き合いありがとうございました!)
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    Replies from the creator

    いしえ

    PAST22.11.06発行『色物三撰』より玉道(玉鼎×道徳)である一作を再録。(しぶ掲載作でもある)
    全然毛色が違うのに互いに頼れる玉道の自然な空気が描けていたらうれしいです。
    原作でわぁわぁテンパる道徳をたしなめている冷静な玉鼎がすごく好きです。ゲーム『仙界伝弐』でもこの二人は何かと対で…弟子への愛情の系統が似てそうだなぁと。なんか、何かしらが通ずる二人、的な…
    色物三撰・相談 case2/玉道の場合「道徳よ。楊戩の、運動競技の相手をしてやってはくれないか」
    「やあ、玉鼎! スポーツとあらば、喜んで!」
    「助かるよ。私にも付き合える部分はあるのだが、あの子が今研鑽したいのは、どうも、天然道士レベルの身体能力の再現らしくてね」
     そんなやりとりをしながら、思い出すのは遠い日の出来事。今も続くその習慣は、記憶共々褪せることはない。
     その日も玉鼎は、道徳のもとを訪ねた。頼まれたのは、こんなこと。
    『…何か、幼い弟子と一緒に親しめる運動など、知ってはいないか』
     彼のもとに最近幼子が弟子として迎えられたらしい、ということだけは知っていた。どんな子でどんな名か、子細は聞かされていないけれど、道徳にとって必要な情報は三つだけ。一つ、玉鼎が自分を頼ってきた。二つ、彼には幼い弟子がいる。三つ、彼は、その幼弟子と親交を深めたいらしい。これだけで、じゅうぶんだ。
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