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    「もう一度相棒になりたい」のめぐる
    ただひたすら恵が可哀想なだけ
    小説の体は為してない

    恵が自己卑下しまくってますが多分本当はプライド激高の裏返しです

    誰か間違っていると言ってくれ「俺だって…俺だって戻れるもんなら、由基ともう一度相棒になりてぇよ」


     ぐぅ、と顔どころか耳も首も酒精で真っ赤にした超条さんは、ぼやけた声でそうつぶやいた後そのまま寝息をたてて落ちてしまった。
     向かいに座る俺はと云えば、机に額を着ける超条さんの二色に分かれた頭のつむじを総量では白髪の方が僅かに多いのだなと思いながら目を逸らすことも出来ず凝ッと見ていた。

     眼球が渇き瞬きを思い出す。ゆっくりと意思を持って目線を超条さんから外し、そろそろと、中途半端に持ち上げたままだったグラスを机に降ろす。まだ杯に酒は残っていたが、もう呑む気には成れなかった。

     どくどくと厭に心臓は脈打つのに、血の気は引き、背筋には冷や汗が流れていた。
     廻廻と思考は巡る様でいて、その実、全く物を考えられない有様だった。
     酒のせいではない。あの声だ。一度聞いたっきりの言葉が脳味噌の中を支配して居る。『もう一度』と
     ああ本当に、なんだってこんなことになったんだったか。



     超条さんと酒を呑むのはもう何度目だろうか。友人ではないが、『それなりに』と前置きが付くなら気安い仲にはなっていた。
     別に自分に友人がいない訳ではないが、警察官でありながら警察機構の半歩外に居るような超条さんは珍宿署に出向している立場の自分としては気遣いの必要が薄い相手であり、その悪評判も耳に胼胝ができるほど有能さ素晴らしさを語られ続けている身としては、まぁ差別意識と云うか、少数排他の意識が少なからず働いているのだろうなと察せられたし(問題のある性格なのは事実ではあるとも思うのだが)、恵那院自身別段いい子ちゃんという訳でも無い。
     仲が良いと云うのはまた絶対に違うのだが、気安い、気楽な相手として、交流していた。
     大抵、超条さんが店の代金を全額か多目に出してくれているというのも有る。別に金に困ってはいないが、ただ酒を喜ばない程に恵那院は贅沢な身分ではないので。

     今回の有様の切っ掛けは、恵那院の好奇心だ。
     正真正銘、裏も表もなく、只の好奇心。
     サシ飲みなど正体失くすほど酔い潰られてしまえば自分が面倒をみなくてはいけなくなる。だからこそ通常は程好いところで制止するのだが、不意に、此の人はどんな酔い方をするのだろうと、悪い虫が騒いでしまったのだ。
     くい、と常なら掛ける制止の言葉を飲み下して幾分か、成程、自分は要らぬ藪を突付いた愚か者であったという訳だ。


     ああ、腹が痛くなるほど冷えた水が飲みたい。
     ザルの恵那院にとっては今日のアルコールなど少し気分が好くなる程度であるのに、脳髄を占める声から醒めたいが為にチェイサーを必要としていた。
     店員を呼んで向かいで寝息を立てる人に起きられるのが御免なので叶わないが。

     手持ち無沙汰にグラスの水滴を拭いながら、嘘ではないのだろうな、と再確認する。
     嘘ではない、嘘で在るものか。あんな、あんな声が、切実な嘆きが、
     双方共に望んでおり、かつてとは違い立場も手にした身でなんだって頑なに閑職にしがみついているのかは恵那院の知る処ではないが、したたかに酔った上であんな声で嘘がつけるのなら超条さんは潜入捜査官に鞍替えした方が良い。

     ああ、厭になる。イヤホンで大音量の音楽を引っ切り無しにかけたって、数日は占拠するだろうと確信出来る程にいやな言葉だ。


     犬養警視がいなくて良かった。と思うも、そもそも警視がいたのなら麻酔の譫言でだってあんな言葉口にすまい。とも思う。
     いや、むしろ、譫言であっても聞かせたのなら、自分が選択肢を握らずに済むのだ。矢張り頭が回っていない。
     仲立ちする義理など無いが、毎日浴びせられる未練とたった一息の嘆きが僅かな情に交わって恵那院の良心をギリギリと責め立てる。

     もういい。問題は先送りにして此の間々閉店まで粘ってやる。
     だってもう、あまりにも、あまりにも自分の頭は凍えているので。

     蛇と女の情念とは謂うが、扠、男の未練は如何許か等と、毎日のように目にしているのに底が知れない。




    『警視お一人でどうぞ』がそろそろ通用しなくなる前に、占拠こそしなくなったが未だ脳味噌にへばりついている声をそのままに足取り重く西交番へ。

     隠し事は中々読めない、などと言っても少しの隙からでも読み取れるからこその飛ぶ鳥を落とす勢いのエリートの熱望する超能力警官だ。
     ましてやここまで意識して、察せられないなど楽観を通り越してバカである。あんな不発弾を発見した自分は紛れもなくバカの類であると言われても何の言い訳も出来ないが。


     しかし、予想に反して超条さんはいつも通りだった。
     いつも通りに目線を合わせ、いつも通りに少しだけ言葉をかける。何の含みも無しに。


     嗚呼くそ、バカだなどと其れすら過大評価か。

     俺に比べればまだ地を這う虫の方が上等だろう。己は蛆だ。何の役にも立たず、この御立派な脳を活用する術も知らない。
     超条さんと犬養警視が悩んで足掻いて手にした今を、進める為の手札が有るのに最善の使い方も解らないで茫と突っ立っている。

     幸せになってくれなんて、願いばかりが膨らんで息が詰まる。
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