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    ちょりりん万箱

    陳情令、魔道祖師にはまりまくって、二次創作してます。文字書きです。最近、オリジナルにも興味を持ち始めました🎵
    何でも書いて何でも読む雑食💨
    文明の利器を使いこなせず、誤字脱字が得意な行き当たりばったりですが、お付き合いよろしくお願いします😆

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    ちょりりん万箱

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    扉、開く雲夢江氏の蓮花塢に扉が閉められたままの部屋がある。
    大きな屋敷の端にあるその一室は、年に何回かの掃除以外は、使われていない。
    時折、宗主が訪れてはいるが、扉の前で立ち尽くすだけで中に入ることはなく、部屋の主は未だ帰らない。







    夏が始まり出した雲夢は水辺にあるせいか湿気が多く、昼間、照りつける太陽と合わさると異様な暑さになる。
    蓮の花が育つにはぴったりな温度だが、人々にしてみればぐったりしてしまう程の暑さだ。
    時折、湖から吹く涼しい風が熱気を吹き飛ばし、それがなければいくら土地の者でも暑い夏を乗り越えることは難しいだろう。
    そんな、暑く、蓮の花が咲き乱れる季節に、蓮花塢で小さな騒ぎが起こった。




    試剣堂とかかれた広間にある蓮を形どった宗主の座に座る江晩吟は剣を磨いていた。
    蓮花塢の中に涼しい風が吹いている。
    照りつけた太陽も山の向こうに姿を消し、暑さがどうにか収まって、ほっとできる時間になった。
    そこへ、バタバタと足音が響き弟子が慌てて駆け込んできた。
    「あ、あの、も、門の前に!」
    弟子がしきりに門を指差す。
    江晩吟は手にしていた剣を置くと、座から立ち上がった。
    「しっかりしろ、何があった?」
    「それがその……」
    「よおっ!」
    門の向こうから元気な声が掛けられた。
    「い、夷陵老祖が来られてます……」
    弟子の向こうには、にこにこと笑顔で手を振る元師兄の姿があった。
    「江澄~、ご飯食べさせて~」
    呑気に近寄ってきて開口一番に出てきた言葉に江晩吟は目眩がした。
    「俺、ずーっと歩き詰めで疲れた~、お腹すいた~、足が痛い~」
    次から次へと止まること無く出てくる文句に江晩吟の紫電がパチッと音を立てた。
    ぴたりと魏無羨の口が閉じる。
    「……どうしてここにいる?」
    低く怒りを押さえた声で江晩吟が問えば、魏無羨は後ろ頭を掻いた。
    「えーっと、蓮の花を見に?」
    「…………は?」
    「だから、蓮の花を……」
    ビュンッ、パチパチと今度こそ紫電が唸り、魏無羨を襲った。寸でのところで魏無羨が避ける。
    「あっぶな~、江澄!危ないだろ!!」
    「危ないも何もふざけたことを言っているからだ!!」
    パチパチと紫電の弾ける音は止まらない。
    「江おじさん、虞夫人、師姉に挨拶したら、帰るよ!」
    魏無羨が叫ぶと江晩吟は胡散臭そうに睨み、紫電を納めた。
    『帰る』という魏無羨の言葉に、チクリと胸が痛む。
    「勝手にしろ!案内はしないからな!」
    「えー!ご飯は食べさせて~」
    「うるさい!」
    江晩吟は後ろで文句をまだ言っている魏無羨を無視して、愛剣・三毒を手にすると蓮花塢の奥へと姿を消した。




    「あんなにぷりぷり怒ることないのになー」
    勝手知ったる蓮花塢を魏無羨は迷うこと無く進んでいく。
    湖の畔に建てられた蓮花塢は常に風が吹き、魏無羨の髪をなびかせた。
    日が落ちて、蓮の花の形をした蓮花灯が灯り淡い光が幻想的で、こんな綺麗な所に住んでいたのだなあと魏無羨は感慨に耽る。
    やがて、江氏祠堂が見えてきた。
    扉の中に入ると、江楓眠、虞紫鳶、江厭離の位牌が絶えることのない蝋燭の炎に映され浮かび上がっている。
    魏無羨は膝をつき線香をあげて2回拝礼すると、3人の位牌を見上げた。
    「前回はごめんなさい。ここで騒いでうるさかったよね」
    争いの最中、藍忘機を連れて祠堂に居るところを江晩吟に見つかりここでケンカとなった。
    「でも、今日はケンカをしに来たんじゃないんだ。どうか俺たちに力を貸してください」
    (そう、俺と江澄に……)
    ゆらゆらと揺れていた蝋燭の炎が真っ直ぐ伸び揺れが止まる。
    魏無羨は立ち上がると祠堂を出て、さらに蓮花塢の奥へと向かった。




    「ここに居ると思った」
    蓮花塢の際奥に湖に突き出た風臨軒がある。
    そこは魏無羨、江晩吟、江厭離のお気に入りの場所で、風通しが良く見晴らしも良い。今は蓮の花が周囲に咲き、水上蓮花灯が夜でも照らして綺麗だ。
    風臨軒の先には舟を出せる小さな船着場があり、そこから幼い魏無羨と江晩吟は湖によく飛び込んで遊んでいた。
    「……挨拶は済んだのか?」
    風臨軒の椅子に足を組み座っていた江晩吟はゆっくり歩いてくる魏無羨に視線をむける。
    「済んだよ。前回は悪かったって謝っておいた」
    魏無羨は江晩吟がいる風臨軒を通りすぎ、船着場へ行くと、湖に脚を投げ出して座り込んだ。
    「断りもなく祠堂に入るからだ」
    「ケチだな~、ちょっと挨拶しただけだろ!」
    「今日も小汚ない格好でやって来て。もう少し身形を整えてから来い」
    「姑蘇から歩いて来たんだぞ?しょうがないだろ~」
    パンと魏無羨が外衣を叩くモワッと埃が舞う。
    心なしかちょっと臭い。
    「あ~、本当だ、悪い」
    自分で出した埃にコホコホ咳き込む魏無羨に江晩吟は首を振ると、卓の上に置いてあった甕を 2つ取り上げ、立ち上がる。
    無言のまま魏無羨に近づくと、座り込んだ魏無羨の横にコトリと1つ甕を置いた。
    江晩吟は桟橋の手すりに寄りかかり、もう1つの甕の封を開けてごくりと呑む。
    「お前の考えた酒だ、呑め」
    酒に蓮の葉を漬け込んで作った魏無羨考案の荷風酒。今では、雲夢の特産品の1つだ。
    魏無羨も蓋を開けて、中身の匂いを嗅ぐ。微かに匂う蓮の葉と酒の混じった香りが、懐かしい。
    中身を喉に流し込むと胃がキュウッと縮んだ。
    「ふふ、旨いな」
    いつも呑んでいる天子笑とはまた違った風味でこれはこれで旨い。
    「こんな話、酒でも飲みながらじゃないと話せないよな」
    「ああ……」
    どうして雲夢に魏無羨が1人で来たのか。
    江晩吟にはわかっていた。それは自分も考えていたことだ。
    「俺は、お前と前みたいにいろいろ話せる関係に戻りたいんだ、江澄……」
    蓮花灯の灯りで、魏無羨の横顔が見えた。緊張を含んだ表情は普段見せる陽気さが消え、こいつでもこんな顔をするのかと江晩吟に思わせた。知らない師兄の表情が、お互いに過ぎた年月を感じさせる。
    常に自分の1歩先を行く師兄。
    余裕のない所など見たことがなく、自信に満ち溢れていた。
    雲夢江氏の家訓『成せぬことを試みてこそ成す』を正にそのままでいく存在。
    その存在は江晩吟を抑圧し、妬みの対象になりながらも、逆に自慢の師兄でもあったのだ。
    「俺は……元には戻れないと思っている」
    江晩吟の言葉に、魏無羨はそっか、と返した。
    「両親が死んだのも、姉が死んだのも誰のせいだ?約束を破ったのは?俺がどんな気持ちで雲夢江氏を再興したと思ってる?」
    観音殿でも聞いた江晩吟の心の叫び。幼い頃から一緒にいて、江晩吟がひねくれた原因が自分にあると知りながらも側から離れなかったのは、魏無羨の独りになりたくないという我が儘だった。
    今、その報いがきたのだ。
    (愛する人も手に入れ、尚も幼馴染みまで取り戻そうなんてそんな都合のいい話はないよな)
    雲深不知処を出た時はまだどうにかなると魏無羨は安直に考えていた。
    雲夢に近づくにつれ、自分でもわからない不安が沸き、今に至っては緊張感に包まれている。
    「無かったことにはできない」
    「うん…………」
    きっぱりと断られ、魏無羨は瞼を閉じた。
    ちゃぽんと、手に持つ荷風酒が音をたてる。
    (やっぱり、駄目だったよ、藍湛……)
    雲夢に行くと言い出した魏無羨を藍忘機はひどく案じた。
    自分も一緒に行くというのを仙督の仕事があるだろと説得し、どうにか1人でここまで来た。
    多分、藍忘機にはわかっていたのだろう。
    魏無羨と江晩吟の間にはもう埋めることすらできない溝ができていることを。
    『君の帰る場所はここだ。ちゃんと戻ってくるように』
    ひどく念を押された。
    (うん、帰るよ、藍湛)
    魏無羨がたちあがろうとした時、
    「無かったことにはできない上で、新たに付き合うなら考えてやってもいい」
    「えっ…………」
    慌てて振り返ると江晩吟が魏無羨の背後に仁王立ちしていた。
    「江澄……」
    魏無羨が立ち上がると、江晩吟は苦笑する。
    「昔の雲夢の話や、気軽に話ができる相手がお前しか居ないんだ。しょうがないだ、ろ!」
    「えっ……」
    どん!と強い力で江晩吟に胸を押された魏無羨は、背後の湖へと突き飛ばされた。
    バシャーンと水に落ちる音と水飛沫が豪快に飛び散る。
    水を掻き分け、水面に顔を出した魏無羨は、船着場でにやにやしている江晩吟を睨んだ。
    「なんてことをするんだ、江澄!!」
    「悪いが汚れたらままじゃ、蓮花塢には泊められない。汚れをある程度落としてから来い」
    ふんと鼻で笑うと江晩吟はさっさと蓮花塢に戻っていった。
    濡れた顔を手で拭きながら、魏無羨は笑いがこみあげて来た。
    (本当に素直じゃない奴。だが、それは自分も同じか)
    「江澄~、お腹も空いたから何か食べさせて~」
    聞こえているかわからないが、叫んでみた。
    「ここは宿じゃない!!」
    姿は見えないが怒鳴り声が聞こえ、また新たに魏無羨は笑い声を上げた。



    急にやって来た客の為にその部屋の窓が開けられ、泊まれるように部屋の用意がされていく。
    湖に落ちたその客は全身ずぶ濡れの酷い有り様で、お腹が減ったと文句を言っては江宗主から怒られ、その声は深夜にまで響いた。
    その後、その部屋はふらりと立ち寄るその客の為に扉は常に開けられることとなった。






    「魏嬰……」
    久々に蓮花塢の自分の寝台で寝た魏無羨は微睡みながら、そろそろ幻聴が聴こえてきたかと思った。
    こんなに藍忘機と離れることはなかなかない。
    藍忘機が仕事で離れる場合もあるがせいぜい3~4日で、こちらはいつも寂しい想いをしている。たまには、藍忘機も寂しさを味わえばいいのだ、と魏無羨は醒めかけた意識を再び眠りの方向へと向けた。
    「魏嬰、起きて」
    やけにハッキリとした低音に慌てて起き上がった。
    目に飛び込んでくる白一色。きちんと結い上げられた髪は艶やかで、その美貌は何度見ても飽きることはない。
    「えっ、えっ、藍湛?」
    こくりと藍忘機は頷くと、微かに目を細めた。白い外衣の懐から櫛と香油を取り出すと、ボサボサになった魏無羨の髪に香油を滴し、丁寧にとかしていく。
    「どうしてここに?」
    「先程、こちらについた。君はまだ寝てるということだったので案内してもらった」
    「仕事は?休みじゃないだろ?」
    「いや、どうにか休みをもらった」
    確かかなり先まで予定が埋まっていたはずだ。
    この1日の休みを取る為にどれ程無理をしたんだろうかと魏無羨は考え、切なくなる。
    「藍湛、無理させてごめんな」
    「謝る必要はない。ところでこの部屋は……」
    蓮花塢の客間にしては、少し古めかしい雰囲気で、調度品も必要最低限のものしか置かれていない。藍忘機は違和感を感じたようだ。
    「あ、ここ、俺の部屋」
    藍忘機の目が見開かれた。
    魏無羨はへへへと笑う。
    「江澄、時々は片付けてくれてたみたいで。まさか、またこの部屋に入れるとは思わなかった」
    「やはり、君の帰りを待っていたのだな、江晩吟は」
    「へ?」
    ぎゅうっと抱き締められ、魏無羨はあわわわと慌てる。
    「ど、どうした、藍湛!?」
    「早く雲深不知処へ帰ろう」
    まだ魏無羨は着替えてもいないのに、藍忘機に手を引かれる。
    「待てってば!何?俺、着替えてないんだって!」
    部屋の入り口で騒いでいる2人を見つけた江氏の弟子は、慌てて江晩吟を呼びに行く。
    「これは一体何事だ!?」
    弟子に呼ばれた江晩吟は、腕の中に魏無羨を抱き締めている藍忘機とその腕から逃れようとしている魏無羨を交互に見た。
    「あ、江澄、助け……」
    「魏嬰が世話になった、江宗主」
    江晩吟を見る藍忘機の視線は相変わらず鋭く、邪魔をするなと伝えてくる。
    逆に、魏無羨の方は助けてと訴えてる
    「仙督。我が雲夢に来られたばかりだ。どうだろう、お茶でも……」
    「否」
    江晩吟の誘いを藍忘機はすぐさま断った。
    お互いに嫌いなのだから、茶などしたくないのはわかっていた。
    だが、宗主として仙督を誘ったのだ。少しは立場を理解しろと、江晩吟は心の中で毒づいた。
    「急ぎ姑蘇に戻らねばならない」
    そう言いつつ、藍忘機は魏無羨を引きずりながら外へと向かっていく。
    「藍湛〰️〰️!」
    尚も抵抗を見せる魏無羨をどうにか蓮花塢の門まで連れてきた藍忘機は、呆気にとられてその様子を見ていた江晩吟と江氏の弟子たちに振り返った。
    「此度は本当に世話になった」
    一同に損礼をすると、スラリと避塵を華麗に抜き、魏無羨をしっかりと抱き寄せた。
    「失礼する」
    藍忘機は軽く地面を蹴り、愛剣の刀身にふわりと乗ると下を見下ろした。
    「江宗主」
    頭上から呼ばれ、江晩吟は見上げる。
    威厳を放つような藍忘機の佇まいに、江晩吟は苛ついた。
    「先日、私と魏嬰は道侶となった。これからもよろしく頼む」
    「藍湛!?」
    「はあ!?」
    魏無羨の驚いた声と江晩吟の驚いた声が重なる。
    (道侶………道……侶……)
    グググッと江晩吟の眉間のシワが深くなる。
    「魏無羨!!」
    「なっ、何?」
    「どうゆうことか、それは!!」
    「えっ、どうゆうってそのまま……」
    藍忘機の腕の中で、慌てている師兄をぎりっと睨む。
    昨夜はそんな肝心な話は出てこなかった。
    やはり、大事な話を隠す癖は治ってないようだと、江晩吟は目の前の2人に対して怒りが沸く。
    険悪な雰囲気になっていくその場から、藍忘機の避塵は高度を上げていった。
    「では」
    「あ、こら、待て!話はまだ途中だ!!降りてこい!!」
    眼下で紫電を振るおうとした江晩吟を弟子たちが必死で止めている。
    「今度、雲深不知処に行ったら詳しく聞かせてもらうからな!!」
    空の彼方に消えていくその背に、江晩吟の怒声がぶつけられた。

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