カメラロールスマホのカメラロールに映るのは、お洒落なカフェの食べる前に撮った写真たち。
我ながらくだらないと思うけど、これが結構女の子ウケいいんだよね。
対するカゲのカメラロールは、本人が「そんなもん見てどうすんだ?」って首傾げるくらい、何もない。
「……見せてくれてありがと」
スマホを返したら、「あぁ……」と不思議そうな顔していた。
話題作りの為に見せて貰ったけど結局何もなく、自己嫌悪に陥っただけだった。
付き合おうか、と言ってくれたのはカゲで、その言葉はすっごく嬉しかったんだけど、なんていうか、それから進展がない。
それが焦ったくて距離を縮めたかったけど、不発に終わった。
カゲが「おめーのも見せろよ」と言ってきたのでとりあえず渡す。
「つまんないでしょ」と聞けば、カゲは画面を凝視したまま、無言で返してきた。
たくさんの写真から証明される、つまんないおれ。
本当に満たされた奴は写真をいちいち撮らない。
◇
「飯食うっつうから、てっきりお好み焼きだと思ったんだが……」
「お好み焼きならうちに来いって言うだろ」
居心地悪そうにテーブルの周りを見渡す荒船に、影浦は眉間に皺を寄せつつメニューを睨んでいた。
「……なあ、このひまわり畑のシフォンケーキっつぅのは何味なんだ?」
「ひまわりって書いてんだから、ひまわり味なんじゃないなのか?」
「……不味そうだな」
「なんでこんな尻が痒くなりそうなお洒落な食いもん屋で飯を食うんだ?」
「犬飼が食べ物の写真を撮るのが好きみてぇなんだよ」
「ほう」
「ゾエ連れてきたら余計に浮きそうだし、おめーなら制服姿ならまだ浮かないと思って連れてきたんだ」
「なんで犬飼と来ないんだ? 話の流れからして俺がここにいるのはおかしいだろ」
「食べ物の写真が好きなんだから、見せてやれば喜ぶと思って」
「喜ぶかのか? それで、何食うんだよ、ここに俺たちが食べられそうなものなんかないぞ」
「カレーが食いたいな……」
「だからないって」
仕方なく、ひまわり畑のシフォンケーキを注文してみる。
「……味はどうなんだ?」
「……みかんだな」
「ひまわりじゃなくて? 詐欺じゃないか? あ、写真撮ってないけど……」
「あ……」
思い出して慌ててカメラを構えて撮り、「どうだ?」と荒船に見せてみると「半分くらい食ってるし、近すぎてなんの写真かもわからない」と言われた。
「……犬飼はなんでこんなんが楽しいんだよ」
「なあカゲ……思うんだが、カメラロールの写真を競うんじゃなくて、お前がカメラロールの中心になる方向で努力した方がいいんじゃないのか?」
「……そんなカメラロール、嫌だろ……」
荒船は肩を竦めて、「決めるのは犬飼だろ」と自身のひまわり畑のシフォンケーキにフォークを突き刺さした。