「伊月暁人、ただいま戻りました!」
前回の調査後、頭をぶつけたため病院に行った結果、足の骨にヒビが入っていたことが判明し、全治三週間の治療のためストップがかかってしまった。八尺もある身長で腰を曲げてアジトに戻ってきた暁人を見た俺は、ため息をついた。
「暁人くん調子はどう?」
「はい、バッチリです」
腰を直角に曲げてサムズアップする姿はまさに体育会系そのものだったが、まあ元気そうなら何よりだ。
「お前そのコートどこで買った?」
暁人が着ていたのは白のトレンチコートで丈が膝下まであった。
「行く途中でマレビトに遭遇して剥ぎ取った」
「はぁ!?」
「ええっ!?」
「大きさ的にちょうどいいから使ってるんだけど、ダメかな?」
いや、確かに似合ってるが。でもそれってつまり
「そのコート、マレビトの一部なんじゃねぇのか? 大丈夫なのかよ」
「うん、別に何も問題ないよ」
コートの裾を掴んでヒラヒラとさせている。本当になんともなさそうだ。
「まあ本人が良いって言うんならそれでいいんじゃないかしら」
「うーむ・・・」
納得しきれない俺とは対照的に、凛子はもう諦めた様子だった。
「あと帽子もあります」
どこからか取り出した白い女優帽をかぶってマスクを着けた。どこか見覚えのあるシルエットで
「口裂か?」
「うん、剥ぎ取ったあとバックドロップ決めてコア引き抜いてやったわ」
「プロレス技使うなよ」
「ちなみにバックドロップはブレーンバスターからのフォールカウント3つ目までギブアップしないっていうルールがあるんだよ」
「だからプロレスの話じゃねえよ!!」
なんなんだこの八尺野郎は! 俺らの心配とか配慮みたいなものを全部無視して話を進めるぞこいつ!!
「よし、じゃあ暁人の復帰祝いも兼ねて飯食いに行くか」
「えっいいの!?」
「もちろんだ!」
「おっしゃあああ!!!いたあああ!!」
暁人は喜んだと同時に頭をぶつけた。
「ほら、さっさと準備しろ」
「待ってよKK~!」
涙目になった暁人は頭をさすっていた。
****
「暁人さんってさいっつもこう腰を曲げてるよね」
「お兄ちゃんのこと?」
「うんそう。なんかさ腰に手を当てたり腕組んだりして」
絵梨佳は腰に手を当てて腰を横に曲げる。
「お兄ちゃん身長高いからこうでもしないと天井に頭ぶつけて痛いんだもん」
「へぇそうなんだ」
「高校時代の写真もらったけどこれ」
暁人が同級生達と写っている写真で暁人は後ろで足を開いて腰を曲げていたがそれでも胸元から上が写っていた。
「麻里ちゃん暁人さんの身長についてはどう思う?」
「お兄ちゃんはね、身長は大きいけど性格は全然大人しくないし、むしろ子供っぽいところが多いと思うの。私にとっては自慢のお兄ちゃんだよ」
麻里は目を細めて微笑みながら言った。
「ふぅーん、そういうものなのかな」
「そういうものだと思うよ」
「なんの話をしてるんだ?」
「あ、お兄ちゃん」
「暁人さん」
暁人が二人の元にやって来た。
「ちょっと身長について話し合っていたんですよ」
「身長?」
「はい。暁人さんって背が高いじゃないですか。だから腰を曲げているのかなって思って」
「うーん・・・」
暁人は顎に手をやって考え込む。
「多分、これが一番楽な姿勢なんじゃないかな」
「そうなんですか?」
「うん。別に腰を曲げなくてもいいんだけど、そうすると頭が天井に当たるからね。それに」
「それに?」
「腰を曲げれば女の子のスカート」
麻里が暁人を殴ろうとするが紙一重で避ける。
「避けないでよ!!」
「冗談だってよ~」
「全くもう!」
「ごめんごめん」
ほのぼのとした雰囲気が流れる中、凛子が一人影から見ていたことを皆は知らない。
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KKはエドの元にいた。大事な話があると言って呼び出したため、今ここにいるのはエドとKKだけだ。二人は椅子に座って向き合う形になる。
「大事な話があると言っていたが」
エドはボイスレコーダーを出すと再生した。
《暁人についてだ。凛子にはもう伝えたが君にも言っておきたいんだ》
「暁人のことで何かあったのか?」
《単刀直入に言うが彼はマレビトになってしまうかもしれない》