あいつのところを離れてアジトに戻ろうとした時、車に跳ねられた。気がつくと俺は病院に運ばれていた。車を運転していたやつは俺の同僚だったが同僚の方も事故を起こしていた。同僚はどうなったのかわからない。だが俺はこうして生きている。
「KK!」
「KKさん!」
病室に凛子や麻里がやって来る。俺はベッドから体を起こそうとした。
「KK重病人でしょ!」
今の俺は肋骨をと腰と脚をやられている。
「大丈夫だ」
そう言って起き上がろうとする俺を二人が押さえつけた。
「ダメよ!安静にしてなさい!」
「そうですよ!寝てないとダメですよ!」
二人とも心配そうな顔で俺を見つめている。そんな顔をされると照れるじゃないか
「わかったよ。大人しくしてるよ」
「よかったわ。でも本当に良かった」
「はい、私も安心しました」
「暁人のところ行ったのが行けなかったのか?」
「お兄ちゃんと会っていたんですか!?」
「暁人さんと!?」
「ああ、暁人には言うなって言われているが今回ばかりは仕方がない」
「なんですか?教えてください!」
「私も聞きたい!」
二人は興味津々の顔をしている。そんな二人の目を見て俺は決心した。
「実はな・・・」
俺は今回のことを話し始めた。暁人は麻里や絵梨佳に安心して欲しくて金を稼いでいるが完全に殺しに手を染めており、巻き込みたくないという思いと、こんなことをしている自分を知られたくなかったという気持ちがあった事を話し始めた。
「そんな、お兄ちゃんが・・・」
「本当のことだ」
麻里はショックを隠しきれないようだ。そして俺が話し終わると泣いていた。
「どうして・・・」
「それと里を襲撃した理由が、絵梨佳。お前の父親が原因なんだ」
「お父さんが!?」
「ああ、村中を巻き込んだ儀式をしようとしたらしくてそれを暁人が気づいた結果、周りが信じられなくなってごく一部の妖怪を残して里を襲った」
絵梨佳は絶句していた。自分の父親がそこまで狂っていたとは思っていなかったんだろう。
そして俺の話が終わるとしばらくして凛子が口を開いた。
「どうしてそんなこと言わなかったのよ!」
「下手に言ったらあいつに知られて殺されるんだよ!」
「それでも言いなさいよ!そうしたら少しは違ったかもしれないじゃない!」
「悪かったって思ってるよ、けど今の状態じゃ無理だったんだよ」
「だからって・・・もういいわ。とりあえず今は安静にしていなさい。退院したらお説教するからね」
「はい」
「KKさん、お兄ちゃんがどこにいるのか知っているんですか?」
「ああ、最後に会ったのは元々住んでいた場所だ。墓参りにやって来たのを見た。今でも家族のことは大切にしてるんだろうな」
****
KKさんの言葉を聞いて私はお兄ちゃんになんて言えばいいのだろうかと思った。お兄ちゃんは家族のために頑張ってきた。なのにその結果がこれだ。私はどうすれば良いのかわからない。私がもっとしっかりしていればこうはならなかったんじゃないかと思うと涙が出てくる。私は涙を止めようと必死になったが止まらなかった。それを見たKKさんが私の肩に手を置いた。そしてその手はとても暖かかった。
私はしばらく泣いた後落ち着きを取り戻した。
「KKさん、私・・・お兄ちゃんになんて言えばいいのかわかりません」
「そうだな。正直言って俺にもわからん」
「えっ?」
「俺はあいつの考えを変えられなかった。あいつがやった事を許すつもりはない。だがあいつの気持ちもわかるんだ」
「どういう意味ですか?」
「あいつは家族のためだけに生きてた。そのためなら自分が犠牲になっても構わないと思ってたんだろう。だから目的のためなら自分を汚すことだってしたんだろうな」
「そんな・・・」
「でも、あいつはただ家族を守りたかっただけだ。それはきっと今も変わってないだろう。だからこそ自分が何をしようとしているのかを知って欲しかった」
「そうですね。お兄ちゃんには私達がいるんですもんね」
「ああ、そうだ。俺たちがあいつを支えてやるんだ。それに俺には新しい目的ができた」
「どんな目的です?」
「暁人を救うことだ。あいつが苦しんでいるのは見ていられない」
「お兄ちゃんを助けるためですか?」
「ああ、あいつには幸せになって欲しい。あんな悲しい思いはさせたくねぇ」
「うん、私も同じ気持ちだから」
絵梨佳ちゃんの言葉に私は大きくうなずいて同意した。お兄ちゃんには幸せになってほしい。
****
私は元々里があった場所に絵梨佳ちゃんと来ていた。元々は他の妖怪達が暮らしていたけど今は焼け野原と化しており、何も無い状態だった。私はこの場所でお父さんとお母さんとお兄ちゃんと一緒に遊んでいたことを思い出して胸が締め付けられるような感じになった。そこに一人の人物が立っていた。
「お兄ちゃん・・・」
「・・・麻里?」
振り向いたお兄ちゃんの顔には傷跡が残っていた。お兄ちゃんの顔を見て私は涙が出そうになったけど我慢した。ここで泣いてしまったらまた迷惑をかけてしまうから。
「どうしてここに?」
「KKさんに聞いたの、お兄ちゃんと会っていたことも、里を襲った理由も」
「そうか・・・」
「お兄ちゃん、どうして私たちの前からいなくなったの?」
「麻里、絵梨佳。俺はお前達を幸せにしてやりたいんだ」
「それは分かるよ、でも・・・」
「黙ってろ!実の妹が傷だらけで無残な姿で倒れていてまず何を思ったか?お前達には分からないだろうな!俺は里の事件を調べていく内に犯人があの男だと知った。あいつは里の皆から慕われている存在だが実際にはそれを上手く利用しようとしているだけのクソ野郎なんだ!俺はどうしようかと悩んだ、他の奴に頼ることもできない状態である一つの結論にたどり着いた。それは、俺自身が悪になることだった。そして里を全て燃やした」
「そんな・・・」
私はお兄ちゃんの話を聞いてショックを受けた。まさかお兄ちゃんがそんなことを考えていたなんて思ってなかったからだ。
「俺は今を生きるので精一杯なんだよ!麻里や絵梨佳にも安心して暮らして欲しいんだよ!だから俺は自分を血で汚した。金のためならなんだってやったんだ!」
そしてお兄ちゃんは狐の姿になったけど、三つ首で毛が白かった。そして真ん中の頭は泣いているかのように血を流していた。
「もう俺は血で汚れてるんだ!これ以上俺に関わるな!」
「嫌だよ!私たちは兄妹なんでしょ!助け合うのが普通じゃないの!?」
「お前達に俺と同じ思いをさせたくないんだよ!」
「お兄ちゃん、辛いことがあったんだよね?だったら私を頼ってよ。私はお兄ちゃんの力になりたいよ」
「麻里には関係ないことだ」
「関係あるよ、だってお兄ちゃんは私の大切な家族だもん」
「・・・」
「お兄ちゃんは私のこと嫌い?」
「そんなわけないだろ」
「だったらお兄ちゃんのそばに居させて、お願い」
私はお兄ちゃんに駆け寄ろうとしたけど突き飛ばされて絵梨佳ちゃんにぶつかってしまった。
「大丈夫?」
「なんとかね」
「暁人さん!こんなことしたらダメです!私達は仲間なんですから頼ってください!」
「俺がしてきたことは許されないことだ。今更許してくれとは言わないし言えない。だから関わらないようにしてたんだ。俺のせいで二人まで不幸になるのはごめんだ!」
右の頭から水の玉が放たれた。私はそれを避けようとしたが間に合わず当たってしまい吹き飛んでしまった。絵梨佳ちゃんはお兄ちゃんに向かって攻撃しようとしたが結界のようなものに阻まれてしまった。お兄ちゃんは続けて左の頭から火の玉を放った。私は痛みに耐えながら立ち上がってお兄ちゃんに近づこうとする。すると背中から人間の腕が生えてきた。それは皮膚を裂いて出てきて血だら真っ赤だった。
「お兄ちゃん、どうしちゃったの?一体どうなってるの!?」
「多分、他の妖怪の力を吸収したんだと思う。KKが言ってたし」
「そんな・・・」
「麻里、絵梨佳。俺はもう止まれないんだ。頼む、俺の事は忘れてくれ」
「そんな事出来ないよ。だってお兄ちゃんは私の家族なんだもん」
「そうですよ。暁人さんは私の仲間なんです。見捨てることなんてできません」
「お前達の気持ちは嬉しい。だが、俺は罪を犯したんだ」
お兄ちゃんは私達を攻撃しようとしてくる。私は咄嵯に応戦するけど押し負けてしまう。そして背中から生やした腕に捕まれてしまう。
「お兄ちゃん・・・」
私を掴む力が強くなってくる。
「お兄ちゃん、お願いだから。もう、止めて」
その言葉と同時に私を掴んでいた腕が離れた。
「麻里・・・」
「何度でも言うよ。私はお兄ちゃんと一緒にいたい。お兄ちゃんがどんな姿になっても一緒にいるから。だから・・・戻って来て」
「・・・」
「麻里ちゃんの想いは伝わったはずです。だから、自分の心に正直になってください」
お兄ちゃんは私に真ん中の頭を近づけると頬を舐めた。そして、人間の姿になった。
「俺は・・・」
「お兄ちゃん・・・」
「俺は麻里や絵梨佳と一緒にいたい。これからもずっと三人でいたい。だから・・・戻ってきていいのか?」
「当たり前だよ。だから安心して、私達は大丈夫だから」
大丈夫という言葉と同時にお兄ちゃんの目からは涙が出ていた。私はそんなお兄ちゃんを慰めるためにお兄ちゃんの体を抱きしめた。
「ううっあぁぁ・・・」
それからしばらくお兄ちゃんの鳴き声が響いていた。私はお兄ちゃんの気が済むまで待とうと思った。しばらくして泣き止んだと思っていたらお兄ちゃんは眠ってしまって絵梨佳ちゃんが猫になって乗せて帰ることになった。
「絵梨佳ちゃん、ありがとうね。お兄ちゃんの事助けてくれて」
「気にしないで、私たち仲間でしょ?それに暁人さんには幸せになって欲しいもの」
「うん、そうだよね」
眠っているお兄ちゃんの顔を見る。傷跡が無くなって安心した顔になっている。口元が少しだけ笑っているように見えた。
「絵梨佳ちゃん、早く行こっか」
「分かった」
私はお兄ちゃんの手を握って家に帰った。