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    Hakuaisan(GWT)

    @Hakuaisan

    二次創作てんこ盛り野郎

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    Hakuaisan(GWT)

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    『イヴの声』オペラなんか興味はなかった。ただ気になっただけという理由でアジトのメンバー全員で行く事になってしまった。車の中で浮かない顔をしていると凛子が声をかける。
    「KKがオペラがみたいなんて珍しい」
    「たまたま興味があっただけだ」
    《オペラとは音楽と演劇によって構成されている舞台芸術であって─────》
    エドがボイスレコーダーを取り出してオペラを説明する。街中であのポスターを見てから、何となく気になっていたのだ。そんな理由を正直に言うわけにもいかず適当にはぐらかした。
    「KKもあのポスター見たんだよね?」
    「ああ」
    「主演の人男だって」
    「はぁ?」
    絵梨佳の言葉に驚愕する。ポスターには長髪の女性が赤いドレスを着て微笑んでいる写真が使われていたはずだ。
    「え? そうなの?」
    「ほら」
    絵梨佳がスマホを操作して別の画像を見せてくる。そこには確かに女性ではなく男性が写っていた。
    「マジだ・・・」
    「これって女装してるのかしらね?」
    「どうなんだろうな?名前は分かるか?」
    「伊月暁人だって」
    検索エンジンにかけるとすぐさまヒットした。高校生の時にスカウトされて、そのまま芸能界入り。歌や演技の才能が認められて今ではミュージカルにも出演するほどの人気俳優となっていた。その容姿も相まって男性ファンも多いらしい。
    「知らなかったわー。でも凄いわねぇ、まだ高校生くらいじゃない?」
    「今年で大学四年生みたい」
    「外見が高校生で止まってんな」
    「そういえば前にテレビでインタビュー受けてるの見たけど、綺麗だったよ!」
    「へぇ~、見てみたかったわ」
    凛子達が楽しそうに話している中、俺は伊月暁人の顔写真をじっと見つめていた。
    ****
    劇場に着くと席は既に満席に近い状態だった。開演まであと五分もない。急いでチケットを買い会場に入る。席は二階の最前列でかなり見やすい位置だ。デイルとエドと俺が隣同士で座り、その後ろの絵梨佳と凛子がそれぞれ横に座っている。そして、幕が上がった。演目は結ばれぬ男女の物語、女性の役を伊月暁人が演じている。役作りのため髪を伸ばしたとインタビュー記事に書いてあったが、その姿はとても美しく輝いて見えた。夢中になって観賞していると劇はクライマックスになった。
    「父上、どうかこのエヴァとの結婚をお許しください」
    結婚の許しを父に乞う王子、しかし王は「その女は魔女、呪われている」と言い、火炙りの刑を宣言する。
    「火炙りの刑に処す!」
    そしてエヴァ演じる伊月暁人は悲しみに暮れ、歌い始める。
    「♪~~~♪~~~」
    男性とは思えない歌声で悲痛な心情を歌い上げる。その時、偶然か否か彼の目と俺の目が合った。その瞳は怪しげな緑に輝いていた。その瞬間、突然他の役者たちが炎に包まれた。どうも演出とは思えない。その炎は瞬く間に会場中に広がっていく。一瞬で辺りはパニックに包まれた。
    「何っ!?」
    「うわぁぁぁ!」
    「いやぁぁぁぁぁ!!」
    逃げ惑う人々、その中で平然と歌い続ける彼。皮肉にも、火炙りと言われた女以外が炎に包まれた。
    「逃げよ!」
    《ここにいたら不味いかもしれない》
    「KK!」
    「お前たちは逃げろ!俺は奴を!」
    俺は仲間を逃がして、彼に近づいていく。彼は俺が燃えないことに少し驚いていたがすぐに笑みを零した。
    「やっぱりあなたなら来てくれると思った」
    「どういうことだ?」
    「あなたに一目惚れした」
    「ふざけるな!何者なんだ?」
    「僕のこと知りたい?」
    「ああ」
    「そう?あなたは覚えてないのね」
    女性の声で話す彼は妖艶な表情を浮かべている。その雰囲気はまるで別人のようだ。
    「何を言ってるんだ?」
    「あなたは覚えてなくても細胞が覚えているはずよ」
    そう言うと舞台に設けられた奈落下に落ちて姿を消し、俺も慌ててあとを追いかけていった。
    ****
    舞台の下は役者達の楽屋になっていて、そこには焼死体がいくつか転がっていた。廊下を歩いていくとピアノの音が聞こえてきた。近づくにつれ音が大きくなってくる。扉を開けてに入ると彼が鍵盤を弾いている姿が見えた。
    (弾いている曲は・・・ショパンの別れの曲か)
    滑らかに指を動かして曲を奏でていく。その演奏が終わると同時に声をかけられた。
    「僕と踊ってくれない?」
    「断る」
    「つれないわね」
    「そもそもお前のことを知らないんだよ」
    「大丈夫だよ。あなたもすぐ思い出せるから」
    「は?」
    「細胞の奥底で眠っている記憶を呼び覚ますだけ」
    「だから何を言っているんだ?」
    「僕はね、あなたの・・・KKの恋人だった人だよ」
    「恋人?」
    「うん。まぁ正確には元・・・だけどね」
    「そんなことはありえない」
    「どうしてそう言い切れる?」
    「そもそもお前のことを知らないし、聞いたこともない。あのポスターを見て初めて知った」
    「そう。覚えてないの?あの夜の渋谷で」
    頭の中で砂嵐が走り、断片的な映像が流れ込んでくる。それは一人の青年が誰もいない渋谷を駆け回っている。顔に黒いモヤのようなものがかかっている。その声は、俺?
    「あの夜の渋谷、誰もいない街を駆け回った。KKと二人で」
    「嘘だ」
    「本当よ」
    「違う、あれは夢だ」
    「夢じゃない。全部現実」
    「黙れ!」
    「KKが忘れても、僕が覚えて」
    「やめろぉ!」
    俺は銃を取り出して脳天に突きつける。引き金を引くとパンッと乾いた破裂音が響き、血が飛び散った。銃弾が彼の脳を貫き、貫通する。しかし、彼は倒れなかった。
    「酷いわ、そんなことするなんて」
    撃たれたところから血が流れているが、そんなことも気にせず話を続けていく。「この世界に産まれてから僕はずっとKKのことを見ていた」
    「気持ち悪いこと言うな!」
    再び発砲するが、やはり倒れる様子はない。それどころか、撃たれた箇所を手で抑えながら笑い始めた。
    「フフフ、ハハハッ!」
    「狂ってやがる」
    「ねぇ、KKは今幸せ?」
    「なんでそんなことを訊く」
    「答えて」
    「当たり前だろう、家族がいる、それに仲間達も」
    「本当にそれだけ?」
    「ああ、それが全てだ」
    「そう・・・」
    彼の顔から笑みが消えた。すると鍵盤を思いっきり叩いた。バキッと鍵盤が折れ、木片が飛び散る。すると彼の手が大きくなって変色していく。メキメキと音を立てて変化していく。そして変化した腕でピアノを持ち上げると、それを俺に向かって投げつけた。間一髪避けることができたが、床に亀裂が走るほどの威力だった。彼の身体が変化していく。両腕が大きくなり、髪が角のように変化し、下半身は脚がなく代わりに蛇のような尻尾が伸びていた。赤いドレスはビリビリに裂け、その姿はまるで異形そのもの。人間とはかけ離れた姿になっていた。
    「お前は、何者なんだ」
    「僕は・・・KKの恋人だった男」
    「ふざけんな!俺にお前みたいな奴が恋人なんかいるわけないだろう!」
    「じゃあ、思い出させてあげる」
    彼は俺の顎に指を当て、グイッと上に持ち上げると顔を近づけてくる。その目は緑に輝いていた。
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